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僕とスライム

作者: 毛狩り体


 ある日、スライムを拾った。


 突如として世界中にダンジョンが現れる訳でもなく、異世界と繋がった訳でもなく。なんの変鉄もない日常の中で。

 ふらりと散歩に出かけた時、そこにちょこんと居たわけのわからないものを見つけたのだ。

 見た目は綺麗なゼリーで、中に丸いものが浮かんでいる。

 そこら辺にあった枝でつついてみてもぷるぷるするだけで襲いかかって来なかった。

 不思議生命体と出会ったことでテンションの上がった僕は勢いのままそのゼリーを持ち上げ、家に持ち帰った。


 そうして僕とスライムの同居が始まった。

 ……スライムと言っても便宜上そう呼んでいるだけで、本当は別のものかもしれないけれど。他に名前が無い限り、僕がスライムと呼べばこのゼリーはスライムなのだ。

 スライム、と呼んだらぷるぷると動いたので、意志疎通はある程度出来るようだ。不思議に思いながらも色々と話した。

 その中で判明したのが、どうやらこのスライムは水さえあれば生きていけるようだった。ならばと思い水道水と買ってきた天然水を与えてみると、天然水の方が美味しいらしく、ぷるぷるした動きがよりぷるぷるした動きになっていた。

 傍目から見ると巨大なゼリーが全自動で動いているのだから気味が悪いのだろうが、僕はこの見た目も行動も愛しく思う。これがペットに対する愛情か、と呟いた。


 僕は大学生なので昼間は居ないことが多い。ともすれば夜もバイトがあったりする。スライムはその間何をしているかと言うと、水を摂取する以外は何もしていなかった。

 何もと言うのは語弊かもしれないが、他にすることと言ったら時々窓の側で日向ぼっこをする。それだけ。僕が帰ってきてもただいまの声に体をぷるぷるさせるだけで寄っても来ないのだ。

 少しの寂しさはあるが、問題が起こらないという点においてはこれほど素晴らしいものは無い。

 ほっと一息ついてから自分の夕飯とスライムの水を用意するのが日課になった。


 暇なときにはスライムを自分の膝の上に乗せてさわり心地を楽しみながらPCを弄る。他に僕が拾ったスライムみたいなのが居ないかどうかとか、ネット小説を読んだりだとか。残念ながらスライムみたいな生物の話は無かったし、掲示板を覗いても噂すらたっていなかった。

 膝の上のスライムは、動画やテレビを見るときにもぷるぷるする。僕はそれを見て、さわって楽しむのだ。とても癒される。ペットにのめり込む人間の気持ちが痛いほどわかるようになった今日この頃である。惜しむらくはこの可愛さを共有できないことだった。

 スライムを公表すれば研究機関に高額で引き取られたりテレビが押し掛けたりするだろう。でもそれは僕の望むコトでもないし、多分スライムも迷惑だ。

 元々僕が自分のテリトリーに他人を引き入れたくない性格をしているし、住んでいる所が郊外だということも相まって、大学の友人らも僕の家には遊びに来ない。スライムがあまり外に出たがらないというのもある。

 ひっそりと暮らしたい。多分僕もスライムも同じ思いだった。


 異世界というのが想像の存在で、魔物やモンスターが蔓延るダンジョンなんて現実には無くて、満員電車に揺られながら通勤したり、学校で他愛のない話をしたり。自分から遠い所で事件が起きる。そんな、何の変鉄もない日常が続く。

 スライムという非日常を受け入れ、それが日常になった時から変わらない。

 騒動に巻き込まれることもなく、自分から突っ込む訳でもなく。


 僕とスライムの日常は、これからも続く。

 


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