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精霊と亡国の姫君  作者: 皐月乃 彩月
1章 はじまりのはじまり
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7話 私を嫌いな婚約者様

瑠璃ちゃん視点です。



実技の授業の後、瑠璃は再度白雪の精霊であるリルリルをモフろうとしていた。

今まで散々な結果に終わっていたのに、まだ諦めていなかったのだ。


「もっもう一度挑戦です!」


瑠璃は精霊のあまりの愛らしさに、懲りずに再度手を伸ばしていた。

瑠璃は前世生きていた時から、モフモフとした動物へ憧れを持っていた。


だって諦めきれない……モフモフは正義なのよ!


「わうぅっ!!」


しかしそんな邪な瑠璃の事をリルリルが受け入れる筈もなく、今度は瑠璃の手に噛みつこうとした。


「リルリルっ! 駄目ですよ!! 瑠璃ちゃんは親友なんですから!」


白雪が慌てて私からリルリルを、引き剥がした。


“親友”


私は再び拒絶されたショックを忘れて、その言葉に胸が高鳴るのを感じました。

私は過去の悪行や、王族という地位から対等と呼べるお友達はいません。

皆心の何処かでは私の事を怖がったり、利用しようと近づいて来ているからです。

しょうがないことだと分かっていますが、だからと言って私もそのような方達に心を開く事は出来ませんでした。

私にとって白雪や鈴さん、翔君は今世で初めてのお友達です。

私に必要以上に気を使ったりしない。

白雪はともかく、鈴さんや翔君は私の悪い噂を知りながらも友人としてよくしてくれる。

昔の私でなく今の私自身を見てくれている。

そして、何より白雪は過去に過ちを犯した私の事を、親友と読んでくれた。

こんなに嬉しい事はありません。


……きっと、白雪は私の噂を知っても今までと変わらず、し、親友でいてくれるのでしょう。


「? 瑠璃さん? 顔赤いけど、大丈夫?」


瑠璃は照れからか顔が赤くなり、翔が心配そうに瑠璃の顔を覗き込んだ。


「だっ、大丈夫です!」


瑠璃はあまりの近さに、慌てて遠退いた。

王族や周りから敬遠されていたこともあり、瑠璃は異性に対してあまり免疫がなかったのだ。


「けど、顔すごい赤いんだけど……?」


「ほ、本当です! これは……そう! 何時もぽやぽやな白雪に懐いているのに、私には全く触らせてくれないから!! ちょっと、悔しかっただけです!」


瑠璃は自分でも厳しいと思いながらも、苦しい言い訳をいい募った。


「そう、何だ?」


翔も疑問には思っても、瑠璃の具合が悪いわけではないと分かるとあまり突っ込まなかった。


翔君は寡黙ですが、とても優しい少年です。

私を気遣って、深く追求しないでくれました。


「えっ? 瑠璃ちゃん嫉妬ですか? そうですねー、瑠璃ちゃんがもっと私を大切に扱ってくれると、きっとリルリルも仲良くしてくれますよ!」


白雪は特に疑問には思わず、優越感丸出しでそんな要求を突き付けてきた。


ちょっと……イラッとしました。

勉強は非常に出来る子ですが、普段はアホの子ですから。


「……白雪なんて、ぽやぽやのアホの子のくせにっ!」


瑠璃はイラつき半分、照れ隠し半分で、そう叫んで先に移動し始めた。


「あっ! 瑠璃ちゃん、待ってくださーい!!」


後から白雪の瑠璃を呼ぶ声が聞こえが、無視してそそくさと歩いていった。


顔がまだ熱いです……これ以上あそこにいたら、ボロがでそうです。

バレたら、白雪が調子に乗りそうなので、それは避けたいです。


瑠璃は動揺していたこともあり、その時周囲に気を配っていなかった。


「あっ! も、申し訳ございません!」


瑠璃は前方不注意から、誰かにぶつかってしまった。

瑠璃は謝罪をする為に、下を向いていた視線を上に上げた。


「あ…………」


瑠璃は相手の顔を確認すると、一瞬息が止まってしまった。


何故この方が……?


「お前の顔を見るなんて、今日は厄日だな」


ぶつかってしまった少年は顔を憎々しげに歪ませ、瑠璃を睨み付けてそう吐き捨てた。


「一輝様……お久しぶりでございます」


瑠璃はなるべく波風立てないよう、丁寧に腰を折り挨拶をする。


最後に話したのは何時であっただろうか?

この少年は至光 一輝様、私の婚約者であり将来光の国の王になる方。


――そして、乙女ゲームのメインの攻略対象者でもある。


そして私は自身で犯した罪から、どのルートでも100%の死亡率を誇る悪役令嬢だ。

そんな事情から、彼が私の鬼門であることは間違いないだろう。


……大丈夫、私は嫌がらせや犯罪などに手を染めたりしない。

……大丈夫、私はヒロインとの仲を邪魔したりしない。

……婚約破棄だって、何時でも受け入れる覚悟はある。


瑠璃は挫けそうになる体に活を入れ、何とか平常心を装おった。


「ふんっ!お前の顔など此方は2度と見たくなかったがな! 一体何のようだ? また俺に付き纏うつもりか?」


「いえそんなことは……私達のクラスも、実技でしたので、教室に戻る途中でございます。……心配なさらずとも、一輝様が私を嫌っておられているのは存じ上げております。付き纏ったりなどはいたしませんわ」


いきなり着せられた濡れ衣に、瑠璃は何とか返した。


ここで誤解でもされたら、私のただでさえ低い評価が更に下がってしまう。

流石にそれは不味い。

将来、婚約破棄されるにしても、両国の間にしこりが残ってしまう。

出来るだけ、穏便に済ませないと。


「貴様の言うことなど信用できるかっ!! いい加減俺に付き纏うのはやめろ!」


しかし返ってきたのは、そんな言葉であった。

授業終わりであり、瑠璃が歩いてきた方向からも十分筋が通る話であるのに。

この方はこちらの言い分など、端から聞く気などなかったのだ。


………これは、話しても無駄ですね。

むしろ、長引かせれば長引かせる程、印象が悪くなってしまいそうです。


「ですから、……私は一輝様にお会いしに来た訳ではありません。……それでは私は次の授業がございますので、失礼させていただきます」


早々にそう判断した瑠璃は、最後に頭を下げると一輝の横をすり抜けて場を去ろうとした。


「待て、逃げるのか?」


その瞬間、瑠璃は腕を強く掴まれその場にとどめられた。


「痛っ! 腕をお離しください一輝様」


かなり強い力で掴まれたので、瑠璃はあまりの痛さに顔を歪めた。


「はっ、貴様の事だ。今度は何を企んでいる? 猫を被る事を覚えたようだが、俺は騙されんぞ。本当に貴様のような人間が、俺の婚約者などと……虫酸が走るっ!」


一輝はまるでこちらの話しなど聞いていないかのように、そう離し続けた。

その間もギリギリと力をかけ続け、瑠璃の腕が悲鳴を上げた。


「っつぅ、お、お離しください!」


怖い、怖い、怖い!!


いくら瑠璃に非があったとしても、ここまで一方的な憎悪を向けられるのは怖かった。


誰か――――


「そろそろ手、離してくださいよ。痛がっている」


誰かが一輝の腕を振りほどいて、瑠璃を守るように間に立った。


翔君が……どうして、


「――誰だ貴様は? 俺は今、我が穢らわしい婚約者殿と大事な話をしてるんだ。部外者が邪魔をするな」


一輝は翔を睨み付けてそう言った。


「……場所を考えた方がいいんじゃないですか? あからさまに自分の婚約者を詰るのは、いくら光の国の王族と言えど外聞悪いですよ。……それと、自分も同じ水のクラスでしたが、実技の授業だったのは本当です。他のクラスメイトにでも確認してください。自分達と同じことを言いますから」


翔はあくまで相手を怒らせないように、先程からの誤解をとこうとした。

人の話を聞く気のない一輝には、全く効果は無さそうだが。


「チッ! 今度はこの男を、金でたらしこんだのか? 全くもって穢らわしい女だ。……行くぞお前達!」


一輝は辺りを見回すと、ばつが悪いのか舌打ちして、取り巻き達を連れて実技場へと向かって行った。


「……拗れなくて良かった。行こう、瑠璃さん。白雪達も心配している」


翔は一息つきと、ホッとしたように笑みを浮かべ、瑠璃に手を差し出した。


その顔は、何時ものクールな姿からは考えられない程幼くて……

長い前髪の間から覗いた顔は、とても――――


「っ!?」


翔の手が私の手に触れそうになった瞬間、思わず後ずさりました。


「瑠璃さん?」


翔は瑠璃の不振な行動に伸ばしていた手を下げ、首を傾げた。

ですが、瑠璃は今それどころではないくらい混乱の中にいた。


な、な、なっ、何をっ! 私は今何を考えて!!?

いつもは無口でクールだけど、いざとなったら便りになるとかっ!?

長めの前髪から覗いた笑った顔が、ちょっと可愛いとかっ!??

……あ、ありえません、何かの間違いです!

将来、破棄になるでしょうが私は現在婚約者の居る身!!

そ、そうです!! これは吊り橋効果のようなもの!

私は悪役令嬢ですもの!

そんな私がまるでヒロインのように助けてもらったので、予想外過ぎてうっかりかっこいいとか思ってしまっただけでしょう!

うん、きっとそうです!!


そうして瑠璃は一人で百面相しながらも、今までにない心臓の動悸に四苦八苦していた。

 

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