1話 出会いは
ここで、時は入学時らへんまで遡ります。
短め。
この世界では精霊と人とが共存する。
「ここが八華学園……」
1人の少女が広大な面積を誇る、八華学園の門の前に立った。
今日から私はこの学園の生徒になるんですね。
この世界唯一の精霊使いの学園に――――
「貴女も新入生ですか?」
声をかけられて振り返ると、そこには美しい少女が微笑んでいた。
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「白雪、次の授業が始まりますよ! 早く移動しましょう?」
授業中居眠りをしてしまった少女を、耳心地の良い声が揺り起こした。
「ふぇえ? もう授業、終わったんですか?」
白雪と呼ばれた少女は伸びをして、声の主に尋ねた。
「とっくのとうに終わっていますよ! ……はぁー、こんなのが座学のトップだなんて……世も末ですね」
ため息をついては呆れているのは、白雪の学園に入学して以来の親友水城 瑠璃。
瑠璃と白雪仲良くいつも一緒にいるが、実は瑠璃は正真正銘のお姫様。
瑠璃は、水の精霊が守護する国の王の実の娘であった。
そしてナイスプロポーションな美人さん。
そして何より、私の嫁!
端から見ると釣り合わない関係だが、白雪は瑠璃によく懐いていた。
「世も末とは酷いですね!? 眠りは人類にとって必要不可欠ですよ!」
「……貴女はどう考えても寝過ぎです。授業の大半は眠っているじゃないですか」
睡眠はとても幸せな時間なのに、瑠璃ちゃんはまだまだ子供ですね。
この素晴らしさが分からないなんて。
白雪は憐れみの目で、瑠璃を見詰めた。
「今……何か私の事を馬鹿にしましたね?」
「いぎゃっ!? あぅー、離してくださいー!」
しかし同じ時間を過ごして分かるようになってきたのか、瑠璃の勘は冴え渡り、白雪のおバカな考えを読んで頬をつねった。
ヒドイ、口に出してないのに……
「何かしらその顔は? まだ足りなかったのかしら?」
そう言うと、瑠璃は更に力を込めた。
「ごっ、ごめんなしゃい!? もう思いませんからっ!」
白雪は即座に謝った。
変わり身の早いことである。
瑠璃ちゃんは怒ると恐い。
これ、常識です。
「ほら行きましょう?」
ある程度満足したのか、瑠璃は微笑んで白雪に手を差し出した。
「はいっ!」
白雪は、迷わずその手を取った。
まだ出会って間もないが、この手が優しいことを白雪は知っていた。
――この頃の学園生活は平穏で、毎日が楽しかった。