3話 帰りたい場所
前半主人公、後半から瑠璃ちゃん視点に代わります。
あれから様々な対策を取っても、噂は下火になるどころか勢いよく燃え盛るばかりで一向に静まる気配が見えなかった。
瑠璃は段々と食事の量が減っていき、眠れないのか目の下の隈が目立つようになった。
「……瑠璃ちゃん、大丈夫……ですか?」
そして白雪は弱った瑠璃にそんなありきたりの言葉しか、かけることが出来なかった。
……大丈夫なわけないのに……ごめんなさい、瑠璃ちゃん。
白雪は心の中で、瑠璃に謝った。
「大丈夫ですよ、白雪。噂が事実無根だってこと、知っているでしょう? じきに、おさまります。……人の噂は75日とも言うでしょう?」
そう言って、瑠璃は無理に笑ってみせた
……無理して笑うのは、痛々しくて見ていられません。
「75日? 何ですかそれ?」
白雪はそれに気付かない振りをして、話題を反らした。
踏み込むと更に瑠璃を追い込む事になりそうで、白雪にはそれが恐ろしかった。
「え? 言いませんか?」
「私は聞いたことが言葉ですが……今時の若者言葉というやつなんですか?」
「いえ……昔、そんな言葉を聞いたことがあるだけです(ボソッ)……この世界では使われてないのね」
瑠璃は少し焦ってそう誤魔化すと、何処か遠くを見るようにして小さな声で何かを呟いた。
「瑠璃ちゃん!」
その目が何もを写していなくて、瑠璃は何処か遠くに行ってしまいそうな気がした。
白雪は、思わず瑠璃の手を掴んで呼び掛けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「瑠璃ちゃん!」
突然かけられた自身の名前に、瑠璃はハッとして白雪を見た。
……今、私は何を?
「……ごめんなさい、白雪。少し疲れているみたいなの。保健室で休んでくるわ」
……疲れているんだわ。
前世と混濁してしまうなんて……
瑠璃がこの世界に生を受けて、もう長い時間が経っている。
瑠璃の犯した罪も、確かに自身のものだと受け入れ認める事も出来ていた。
でも、あの瞬間――
帰りたいと、思ってしまった。
ここは自分の場所ではないと、思ってしまった。
戻りたいと、願ってしまった。
悪い噂も責められる事もなく、友達や家族と笑っていられたあの世界へ。
……どうして私はここにいるんだろう?
ヒロインと攻略対象者達の仲を、邪魔なんてするつもりはないのに。
ゲームのように、七星 ひかるに対して嫌がらせなどしていないのに。
謂われなき罪や、人々の悪意に晒され続ける。
誰にも私の声は届かない。
――ここは私の居場所じゃない。
……少し、疲れてしまった。
眠りたい……、現実から解放されたい。
もうちょっと暗い感じが続きます。