2話 嘘つきの仮面
「何ですか? その噂は? 事実無根もいいとこです! そもそも瑠璃ちゃんは、ずっと私達と一緒にいるのだからそんな事は不可能です!」
「えぇ、当然不可能です。それは私達が断言できます。……ですが、主犯格として瑠璃さんの名前が挙がっているのも事実です」
「誰がそんな噂を広めてるんですか!? ヒドいです!!」
瑠璃ちゃんはとっても優しくて、とっても綺麗な女の子なのに何故そんな噂が流れるんでしょうか?
しかもそれを信じる人がいるなんて、そんなの瑠璃ちゃんが可哀想です。
「……推測ですが、初めは七星 ひかる本人が侍らせている男達に言ったんでしょうが、途中からは嫌がらせを行っている者達の体のいいスケープゴートとして、名前が使われているようです」
「そんな……」
瑠璃ちゃんは悪くないのに……
どうにかして、その噂が違うと証明出来ないでしょうか?
「こういった輩の前では何を言っても無駄ですから、公的に関わっていないと証明するのがよいかと。常に私達が傍にいたり、大勢の人達に目撃させるなどが効果的ですかね」
鈴は思い付いた対策を、次々にあげていく。
「……アリバイ作りですね。でもそれだと、噂は完全に払拭することは難しいですね」
例え事実無根でも、それを信じる人は出てくる。
「しかし、1番効率的な方法だと思います。他の方法は厳しいですね。何せ言いふらしているのが、各国の後継者ばかりなのですから」
きっと、瑠璃ちゃんが犯人でないと気づいている人もいるのでしょう。
だけど誰も、それに異を唱える事は出来ない。
人は弱い。
力のあるものには、逆らえない。
まして、見知らぬ誰かの為に動く人はまずいないでしょう。
せめて、取り巻きの人達が平民の方達なら、話はまた違ってきたんでしょうが……
「……私がもっと力になってあげられればいいんですけど…………」
実際、私にはその力があります。
直系と言える血筋は私達3人しか残っていなくても、王家に仕えてくれていた影達はあの悲劇の日も各国に配置されていました。
国の復興を願い、長い間力を蓄えてくれていた彼等の協力をあおげば、今の瑠璃ちゃんの状況は改善することが出来る筈です。
そして、私はその力を奮う権利を持っています。
けれど――
「……駄目ですよ、姫様。今はまだその時ではありません」
鈴は何時になく真剣な表情で言った。
幼馴染みではなく、王族に仕える従者として。
……分かっています。
まだ準備は、全て整ったわけではありません。
私達に、失敗は許されてはいません。
必ず、国を復興させなければ……それが私の王族としての使命ですから。
「……私は卑怯ですね。親友と言っておきながら、嘘ばかり……。親友が苦しんでいると分かっていても、手を差しのべる事もしてあげられない……卑怯です」
「……白雪」
鈴が申し訳なさそうに、白雪の名を呼んだ。
目的のために、白雪に不自由を強いていることを分かっているから。
……あぁ、そんな顔をしないでください。
選んだのは、確かに私なのですから。
「私は氷の国の現女王です。必ず、死んでいった民の為にも、国を復興させます」
私自身が親友でいるよりも、王でいることを選んでいるのだから。
「……私達で、出来る限りの事はしましょう。あと少し、もう少しで、準備は全て整います。そしたら……」
「……はい。その時は私達の持てる力を全てを使って、瑠璃ちゃんを助けましょう」
いつか真実を知った時、瑠璃ちゃんは私達から離れるかもしれません。
瑠璃ちゃんはきっと平民なのに身分にとらわれず、対等で接した私達を気に入ってくれていたのだから。
けれどその関係も、私が王族と知ったら崩れてしまうかもしれません
……ごめんなさい、瑠璃ちゃん。
私達は嘘ばかりついているけれど、親友だと思っているのは嘘じゃないんです。
だから……いつか本当の事を知る時が来ても、こんな最低な私を親友でいさせてください。