1話 罪なき糾弾
もう一個連載しているのが大分ファンタジーよりになったので、割りと正統派な乙ゲー物。
思い付きなので、見切り発車です。
「水城 瑠璃、お前と婚約破棄する!」
それは突然始まった。
「……何故ですか? 一輝様……」
突然婚約破棄を言い渡された少女は、婚約者である男の子に尋ねる。
「何故? ……白々しい芝居は止めろっ! お前がひかるを苛めていたのは、もう分かっているんだっ!!」
婚約者である筈の少年、至光 一輝は背に少女を庇うように立ち瑠璃を糾弾した。
「そんなっ! 私はそんな事やってませんっ!!」
瑠璃は必死に無罪を訴えようとする。
「皆お前がやったと言っているんだ! 証人もいる!」
しかし、一輝は全く聞く耳を持たない。
「……証人? そんな人がいる筈がございませんっ!! 私はそんな事やっていないのだからっ!!」
「そんなっ! 水城様が仰ったのではないですかっ!? 婚約者である至光様にまとわりつく七星 ひかるを排除しろとっ!!」
それは彼女のかつての取り巻きの女だった。
彼女は涙声で主張しているが、その目には瑠璃への嘲笑を宿している。
その表情で、瑠璃は自身が嵌められた事を悟った。
「そんな事言ってませんわっ! そもそも、私と貴方に付き合いがあったのは、何年も前の事でしょう!?」
瑠璃は無実を叫ぶ。
そう彼女はそんな事一切やっていない。
私はそれを知っています。
「まだとぼけるか、本当にクズだな! なぁ皆?」
一輝は同意を得るように、背後に視線を向けた。
「えぇ、ひかるが泣きながら教えてくれたんだ。嘘の訳がない」
「女の嫉妬って醜いよねぇ? さっさと認めればぁ?」
「本当にあんたって最低だな」
「この状況でやってないって、どの口が言ってんのか」
「さっさと認めろよっ!」
「土下座してひかるに詫びろっ!」
「義姉上……早くひかるに謝罪してください。本当に貴方は水城家の恥だ」
「皆、私の為にありがとう! 水城さん罪を認めてくださいっ!」
瑠璃は次々に非難や侮蔑を受けた。
彼らは皆この学園でも権力を持ち、一二を争う人気を持っていた。
そしてその中には、瑠璃の義理の弟の姿もあった。
「そんな……貴方まで?」
瑠璃は絶望に地に崩れた。
義理とはいえ、義弟からの糾弾に心は崩壊寸前だ。
嫌われているのは分かっていた。
けれど、ここまで憎まれていたとは思っていなかった。
その少女は憤怒していた。
目の前の光景には、嫌悪しか思い抱かない。
一体、この光景はなんなんでしょうか?
実に不愉快です。
一人に対し多勢に無勢で恥ずかしくないんでしょうか?
そもそも彼女の婚約者や義弟である彼らは、何故彼女の言葉を聞かないのですか?
ちゃんと調べれば、彼女がいじめを行っていないことなどすぐに分かる筈です。
彼女は私達と殆どの時間を、共にしていたのですから。
少女は水城 瑠璃の親友であった。
たがらこそ、これ以上傍観している事は出来なかった。
「ほら、とっとと謝罪しろ!」
一輝は瑠璃の頭を地に押さえ付けようとした。
その時──
「待ちなさいっ!」
多くの嘲笑や罵倒の中、少女の声が響いた。
もう、我慢の限界です。
立場なんか関係ありません!
私は瑠璃ちゃんを見捨てることなんて出来ません!!
「何だお前? こいつの取り巻きか? 邪魔だ、引っ込んでろっ!!」
一輝は邪魔をされた事に苛立ち、怒鳴り散らした。
「退きません。引っ込むのはあなた方です。恥ずかしくないんですか? 一人の少女に対して、多勢に無勢で囲んで!」
「貴様っ!? この僕を愚弄する気か!?」
一輝は先程まで瑠璃に向けていた怒りの視線を、割り込んできた少女にに向ける。
「えぇ、勿論。無実の彼女が、何故謝罪する必要があるのですか?」
「白雪……」
瑠璃が少女を呼ぶ声は小さく、そして震えていた。
「大丈夫ですよ瑠璃ちゃん。心配しないで、貴方の無実は私が証明します!」
少女は瑠璃を安心させるように微笑んだ。
王族相手でも、決して怯むことなく瑠璃の前に立った。
この世界で、身分は絶対だ。
王族の前に立ちはだかるなど、正気の沙汰ではないだろう。
「俺達はこの世界の王たる一族だぞっ!?」
「傲慢ですね……まぁ、いいでしょう」
少女は煩く喚く 一輝に身に付けていた校章を外し、投げつけた。
――それは、決闘の申し込みを意味した。
「なっ!? 貴様っ!? これがどういう意味を持つのか分かっているのか!?」
「えぇ、勿論です」
「はっ! バカがっ!! いいぞ、身の程を教えてやるっ!」
怒りに任せに少女の正体が誰かも考えずに、一輝は決闘を了承した。
そこには、王族として絶対的な力を持っているという、傲慢故の怠慢が含まれていた。
「さぁ、決闘を始めましょう?」
私が瑠璃ちゃんを必ずこのふざけた茶番から救ってみせます。