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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そこは乙女ゲームの世界らしいです。

ここは乙女ゲームの世界らしい。外伝。声無き少女の恋。

 初めまして、あるいは、お久しぶりです。ルーナティルです。

 「ここは乙女ゲームの世界らしい」の外伝です。

 そちらを読まなくても大丈夫だと思います。が、宜しければ、どうぞ。




 最後は会話のみ。




 __あなたが、ずっと、好きでした。



■■□□■■□□



 __わたし、風宮(かざみや) 凉音(すずね)は、雪島(ゆきしま) 伊織(いおり)さんが好き。

 いけないことだって、わかってる。

 許されない想いだということも。

 ……叶わない、ことも。



 わたしは、声が出ない。

 彼は、  先生  だ。




■□■□■□■□■□



 __放課後。

 夕日の(あか)が、白い廊下を染める。

 わたしはぼんやりとそれを感じながら、目の前にいる人を見つめていた。

「あー……なんか、困ってねぇか?」

 困ったように頭を掻くあなた。

 あなたが、わたしに話し掛けてくれるなんて、思わなかった。

 あなたは勘がいいから。

 きっと、わたしがあなたを好きなことに、気付いてる。そして避けているのだと、感じてたから。

 わたしは、“先生”の言葉に、ゆるく首を振る。横に。

 困ってないよ。大丈夫。

 そんな、気持ちを込めて。微笑むのは、ちょっと、難しいけれど。

 あなたの目に映るわたしは、どんな顔をしているのかな。

 わたしは、自分が赤くなっていないか、心配。

「なら、いいんだけど……」

 歯切れの悪いあなたの言葉が、さっきの女の子達……からの暴言だって、わかってる。

 わたしは声が出ないから。イジメても大丈夫だって、あの子達は誤解しているの。

 わたしはもう一度、大丈夫、と、微かに微笑む。

 難しい顔のあなたに、申し訳なさが募るけれど。



 わたしは、あなたの前にいると、好きという気持ちが溢れそうで、

(怖い)

 の。




■□■□■□■□■□



 __魔術を使う時、わたしは詠唱ができない。

 それでも大丈夫。

 わたしの魔術適性は風。

 風は、優しくて、暖かいから。

 気紛れだけれど、

(«力を、貸してね»)

 真摯に頼めば、邪険にはしないから。


 閉じていた瞼を開く。わたしを中心に広がった陣が、輝き。

 そして。



 その場に、風が満ちた。




(«……有難う»)

 有難う、いつも力を貸してくれて。

 風が、戯れるようにして、わたしの髪の間を抜けていく。

 スカートがたなびくけれど、スパッツをはいているし、人には見えないようにしてくれているのがわかっているから、押さえようとは思わない。

(«もう、いいよ»)

 風がぴたりと止む。名残惜しむように、爽やかな香りだけを残して。


 ふぅ、と。音もなく息を吐く。

 今日も上手くできた。

 風が協力してくれない時は、風が困っている時だけど。

 それでも、ほったらかしたら拗ねちゃうから。


「おー……こりゃ、また……盛大にやったなぁ。風宮」

 はっとして振り返る。好きな人が……先生が、そこにいた。

(な、なんで……?雪島先生、が……)

 ここは、人が滅多に来ない場所。

 学園にある森の、奥。

 そんな場所に、なぜ。

 雪島先生は、いるの。

「あー……なぁ、風宮?

 俺の能力、知ってるか?」

 こくり、と頷く。

 覚えているもの。わたしが恋に落ちた瞬間だから。

 雪島先生の能力は、「読心」。

「じゃあいいか。

 俺は、ここに、お前を探しに来た」

(どうして?)

 どうしてあなたが、わたしを探すの?

 どうしてあなたは、ここがわかったの?

「お前、ここに通ってるだろ?」

 ……確かに、わたしは1年生の時から、ここに通っている。それから1年。誰かが知っていたとしても、不思議ではない。

 こくり、と頷く。

「んで……探してた理由は、お前が……な?その……」

 躊躇うようなあなたに、わたしはふわりと微笑む。

 昨日のこと。心配してくれたんだね。

(雪島先生。いいもの、見せてあげる)

 お願い。と、いつものように風に祈る。

 風が応えて、舞う。

 それは、決して人を傷付けない、暖かな風。

 きらきらと翡翠色に煌めく、風。

 上に昇ってゆく風。髪や、制服で戯れる風に苦笑しながら、指を一回、鳴らす。

「?!」

 春の香りを纏い、薄紅色を舞わせる風。

 今は、夏。桜なんて……ない。

 だけど、風は優しいから。

 ちょっと怖いけど……わたしの望みを、叶えてくれる。

「こ、れは……」

 唖然としたあなたに、微笑む。

(“火炎・水氷・大地・大気に愛された者は、その恵みを最大限に受ける。彼等、あるいは彼女等は、この世界で叶えられないことはない。”

 ……先生は、これ、知ってる?)

 わたし達は、事実、叶えられないことはないのだと思う。

 ただ1つ。

 なんでも願いが叶うのは1回だけで、願いの変わりに大切な物を喪うと、わたしは直感で知っている。

「……あぁ」

 頷くあなたが、わたしがいたから、膨大な本の中から調べたんだって、自惚れ(もうそうし)ていいですか?

(そう)

「……聞いて、いいか?

 その真偽」

 ふわりと微笑む。

(うん、先生。

 確かにわたし()は、なんだって1つ、叶えられるよ)

 あなたになら、なんだって教えるよ。

 だけど、ごめんなさい。

 代償は、教えられません。

「……そうか」

 ねぇ。

 もし、あなたがなにかを願うなら。

 わたし、多分、叶えちゃう。

 代償は、重いだろうけれど。

 わたしが代償を払う(ねがう)ことであなたが笑顔になるのなら、きっとわたしは何だってしてしまうから。




 季節外れの桜が舞う中の、出来事だった。




■■□□■■□□



 __わたしは声が出ない。

 それは中学2年生の頃からだから、もう3年になる。

 中学2年生の頃、わたしは3人の男の人に犯されかけた。

 魔力が暴走して未遂で済んだけれど、わたしは声を失い、相手は生活を失った。


 わたしはそれから、人が怖い。


 人の欲望もそうだけれど、人、というものが怖い。

 わたしは声と共に、普通をなくしちゃったんだと思う。


 あの日のことを、わたしは1日たりとも忘れたことなんてないし、わたしはあれから一度も安らかに眠れたことはない。

 

 皮肉なことに、わたしは、人を怖がり遠ざかることで、風と親しくなった。


 風には欲望がないから、わたしは安心して風に笑えた。


 ……唯一の、例外が。

 雪島先生。

 べただけど……わたしが、学園の下見に来て迷ってあたふたしていた時に、助けてくれた人。

 彼だけが……ただ、わたしを心配してくれたんだと、感じたの。


 わたしに両親はいないし、あの日から友達は捨てた。

 ただ、無償の愛なんて、風しかくれないと、信じていたのに。

 あなたはわたしを心配して、わたしに飲み物をくれて、わたしと会話をしてくれた。

 それがどれ程嬉しかったか、あなたにはきっとわからない。


 わたしはあなたが好き。

 ありきたりに恋に落ちたけど、もうずっと好きなの。


 あなたがくれた温もりが、先生が生徒に与える温もりだったとしても。



■■□□■■□□



 __森の奥で出会ってから、わたしと先生は、森の奥で会うことが増えた。

「よー風宮」

 今日も。先生は、パンの詰まった袋を片手にやってきた。

 目を開いて振り向いた先にあなたがいることが、酷く幸せ。

(雪島先生。もうお昼?)

 わたしは、集中すると時間(しゅうい)を忘れてしまうのが欠点。

「おう。風宮、お前、まぁた3時間目からここにきただろ」

 その通りだ。だめだぞーと笑いながらあなたが言って、大樹の切り株に座る。

(風が、呼んでいたから。……反省する)

 とことこと大樹の切り株に近付きながら、思う。

 怒られるのは、ヤだ。だから、反省する。

 今度はばれないようにしなきゃ。

「風が? ふぅん。まぁ食おうぜー」

 パンを開けながら、あなたが笑う。こくり、と頷いてから、あなたとは背中合わせに(背中が触れないようにしながら)切り株に腰掛けて、持ってきていたお弁当を広げる。

「いただきます」

(いただき、ます)

 栗の炊き込みご飯に出し巻き卵、たこさんウィンナー、ほうれん草のお浸し、ポテトサラダ。

 小さめのお弁当箱に入れたそれらを、ちまちまと食べていく。


 ぽかぽかとした日差しに、食べ終わったわたしは、やられた。




■■□□■■□□



「__ぃ……ぉぃ……風宮?」

 遠く。大好きな人の声がする。

 わたしを呼ぶ、やわらかな。

(__…せ、んせ……)

 暖かい。 あんな、怖いものが、ない。

「風宮? もう時間……」

 時間……?

 あれ……わたし、お昼、食べ終わって……うとうと、して?!

(せ、先生……ッ!)

 わ、わたし、先生の背中……っ!

 広かった……じゃなくてっ!

 慌てて立ち上がる。赤くなった頬をそのままに、立ち上がった先生に、

(ご、ごめんなさいっ!わたし、ついっ)

 謝る。

 うわぁぁぁっ! 恥ずかしい!

「ん、あー……別に構わねぇよ」

 ふわりと、不意打ちのように。あなたが微笑むから。

 わたしは、耳まで赤くなった。

(っ……お、お礼!(なに)か……!)

 しなきゃ。せ、背中借りちゃったし……!

 胸の前で握り拳をつくって、先生を見上げる。

「お礼?んなの別に……」

(で、でも……め、迷惑かけちゃった、し……っ)

「……なら」

 少し怯えながら、先生を見上げる。

 先生は、目を逸らしながら、

「弁当……作ってくれねぇかな。い、いやなら良いんだが」

(っ……! 食べられないの、ある?)

 良かった……!

 お弁当! 大きなお弁当箱買わなきゃ……先生沢山食べるし……。

「いや、なんでもいけるぞ」

(ん! わかった。頑張る)

 美味しいって、言って貰いたい。



 ちょっと距離が縮まった、麗らかな夏の日のお昼過ぎ。




■■□□■■□□



「__おぉ……」

 驚いた声に、ニコニコする。

(ね、食べてみて)

 黒い、男性用のお箸を渡す。

「おぅ……」

 お箸を受け取った先生が、厚めの出し巻き卵を取り、口に運ぶ。

 ドキドキしながらそれを見守る。

(ドキドキする……!)

「……ん、上手い。料理、得意なのか?」

 寮や学園には食堂があるから、自炊する人は少ない。

 だけどわたしは、人の作ったものを食べるのに拒絶反応が出てしまうから、自炊している。

(得意……? うん、そうかも。気にしたこと、なかったけど)

 だって、誰かに……それも、男の人に、手料理を食べさせるなんて、思わなかったから。

「かなり上手いぞ。風宮の将来の旦那が羨ましい」

 ……、旦那?

 あぁ、そうだね。そうだったね。

 あなたは、勘が良かったね。

 わたしの気持ちに気付いたから、こんなことするんだ。

 残酷な、そして、先生としては正しいこと。

 あなたは、先生だね。

 わたしの、先生以外には、なってくれないんだね。わたしには、先生以外の顔を、見せてくれないんだ。

(……彼氏なんて、作る気、ないもの)

 わたし、知ってるんだよ。

 ちゃんと授業にも出るもの。

 あの日の行為が、最低で、最悪なものだったって。

 わたし、あなたが、とある生徒と仲がいいの、知ってるんだよ。

 黒い噂しかない子だけど。あなたが“特別扱い”しているんでしょ?

「……風宮?」

 怪訝そうな声に、

(わたし、中学生の頃、襲われたの)

 ねぇ、“先生”?

 息を飲むあなたは、その意味を理解しているんだね。

(相手は、わたしに告白して、わたしがフッた人達だった。

 わたし、怖くて、なにもできなくて……それから、人が怖くて仕方ないの)

 暖かいのに、変だね。寒いよ。

 自分の肩を抱く。うつむいて、大地を見る。

「風宮……」

(わたし、あなたが好きだよ。あの日、あなたは、わたしに触れなかったもの。ありきたりだけど。あなたは、助けてくれたもの。あなたは、わたしと、話してくれたもの……っ)

「それは、」

(わかってるもの!

 あなたがくれた優しさが、先生が生徒に与えるものだって。

 あなたが、あの子……ッ!)


 だめだ。

 わたし、真っ黒。

 そんな資格ないのに、

           嫉妬してる。


 あぁ、

    わたし、

         馬鹿 だ。


 自滅した。感情をぶつけすぎた。

 ……先生に、嫌われた、よね。

 ……元々、好かれてなんか、ないかも。

(……先生)

「……」

 ごめんなさい、先生。

 バカで、ごめんなさい。

(それ……もう、使わないから……先生が使って)

 捨ててもいいから。

 ごめんなさい先生。

 あなたの目を、見れない。

(わたし……ッ




   あなたが、好きでした  )




■■□□■■□□



 __あれから、わたしはあの森に近付いていない。

 今はもう、秋。

 紅葉が美しい森に行きたい気持ちもあるけど、


「__次の授業。なんか、イオリンの授業になるらしいよー」


 ッ……!

 先生に、合わせる顔が、ないの。

「本当? ラッキー!」

「イオリンかっこいーよねー♪」

 だから、いつものように教室から逃げ出して。

 廊下を走る。


 知ってる。

 あなたとあの子の距離が縮まったことなんて。

 知ってる。

 あなたがわたしを探しているのも。

 知ってる。

 風が、教えてくれるの。

 知ってる。

 ねぇ“先生”、苦しいよ。


「風宮……ッ?!」


 ごめんなさい、先生。

 あなたを愛して、ごめんなさい。

 驚いたようなあなたの声を無視する。ツキリと胸が痛む。


(«お願い»)

 どこか、遠くに。

 窓を全開にして、窓枠に足をかける。

 悲鳴。焦ったようなあなたの声。


 堕ちていく中、風が、わたしの祈りに応える。

「風宮 凉音!やめ……ッ」




 風に紛れた声に、酷く胸が痛んだ。




■■□□■■□□



「__アンタは悪役(・・)だから、やられるまえに潰す」

 3日前。

 わたしは、あの子に呼び出されて。

「アンタ、中学生の時に強姦されたんでしょ?なら処女じゃないじゃん。楽しめば?」

 あの子は、笑いながら、わたしにそう言った。

 あの子は、男の人を、従えながら笑っていた。


 多分その時、わたしは、ばからしくなったんだと思う。


 風は、わたしを守るために、男の人の大切なものを潰した。 あの子に怪我を負わせた。


「っ……!」

 睨み付けてくるあの子の目は、わたしが憎いと訴えていた。

 わたしも憎いよ。





 わたしはその日、いつもより酷い悪夢に魘された。





■■□□■■□□



 __衝動的に先生から逃げて、2時間後。

(やだ……ッ、離してッ!!)

「離せるかッ、バカ!」

(なんでっ?先生だからッ?!)

 わたしと先生は、あの森で揉み合っていた。

 おいかけっこで、わたしが捕まったのが、ここだから。

「んな……ッ」

(先生のバカっ!)

 腕を掴まれているわたしは動けない。

 非力なわたしが憎い。風に頼み事をできない、弱い精神が憎い。


「俺はっ!お前が!好きなんだよ!!」


(……嘘)

「大人の純情疑うんじゃねぇ!」

 卑怯だ。なんで、そんな、必死なの。

 信じさせないで。

 あなたは、先生、でしょ?

 ……こういうのは、だめ、でしょ?

(嘘。だって、あの子、は……)

「あの子って誰だよ」

(……わたしを、この前、襲わせた子)

 あれ? そういえば、わたし、あの子の名前知らない。

 はぁ、と溜め息を吐いた先生。

「俺が好きなのは、お前だけだっつぅの」

 片手でわたしの腕を掴んで、片手で頭をがしがしと掻く先生。

(で、でも……)

 なんでこの前、旦那、だなんて。


「ごちゃごちゃうっせぇ。疑うなら、そうだな……」

 にやり、と、妖艶に。

 あなたが、笑うから。

 耳まで赤く染まったわたしを、あなたが、抱き寄せるから。

 ……ねぇ、どうして、あなたの心拍まで、はやいの。




「……愛してる、凉音」




 ……卑怯だ。

 そんな、掠れた声で。乞うように。

 わたしを、呼ぶなんて。






(……わ、たし、も……)



 __あなたが、大好きです。




■■□□■■□□



 __わたしと先生は、付き合うことになった。

 あの脱走劇から1日後、わたしは色々な先生に怒られながら、「ついにくっついたか」と言われた。

 ……意味が、分からない。


(ねぇ先生?「ついにくっついたか」って言われたんだけど、どういうことなの?)

 あの森の奥の切り株で、あなたを見上げながら問う。

 う、と動揺したように視線がそらされる。むぅ、答えて?

「…………………俺は、お前を、ずっと狙ってたんだよ」

 思わぬ言葉に、目を瞬かせる。

(え、と……?)

「……教員全員、俺がお前を好きなの、知ってるんだよ」

 がしがしと頭を掻くあなた。……ほんのりと、頬が赤い。照れてるの?

(って、つまり……っ)

 色々ばればれっ?

「……あぁ、まぁな」

(恥ずかしい……ッ!)

「諦めろ」

(で、でも)

「それより、凉音?」

 きゅっ、と、わたしの手を握りながら。妖艶にあなたが笑う。

 ぞわり、とする。

「真っ赤。可愛いよな、凉音」

(なまっ、名前……っ)

「ん? 好きだろ、名前で呼ばれるの」

 確かにわたしは、先生に名前で呼ばれるのが好きだ。幸せ。

(先生、)

「お前も、伊織でいいぞ。ってか強制な」

 うぇ?!

(わたしにはまだ早いと思うの!)

「強制なー」

(……)

 名前で呼ばないように注意すれば、

「凉音、呼んで」

(伊織さん)

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!

 わたしのばかぁ!

 先生も卑怯!

 なに、今の……!

 フェロモンだだ漏れ……!

「ん」

 満足そうにしないで! 幸せすぎて死んじゃうから!



「凉音、凉音を襲わせた“あの子”のこと、教えろ」



 ザァ、と血の気がひく。

 先生、かなり怒ってる。今なら人を殺しかねない。

 しかも、なんか、誤解させちゃってる……!!

(わ、わたし、まだ処女だよ……っ?!)

 って、そこじゃないでしょーー?!!

「え? でもお前、」

(未遂!だからっ! 両方共!!)

 先生ぇ?!

 なんか、とっっっっても嬉しそうにしないでぇ?!

「じゃ、お前の初めては俺か」

(確かにそうしたいけど! なんで先生まで喜ぶの?!)

「伊織、な。あと、凉音が好きだから」

(あぅ……)

 反則です……。

「で、凉音? さっさと吐け」

 ……ま、いっかぁ。



■■□□■■□□



 __話を聞いた先生の怒りは、想像以上だった。

(せんせ、……いおり、さん)

「ん? なんだ?凉音」

(犯罪だけは、しないでね?)

「……ぶはっ、りょーかいりょーかいっ」

 ……なんで笑うの。

「凉音、」

 ん、と見上げたあなたが、夕暮れに染まる空を背に、あまりに優しく微笑んでいる。



「愛してる……」



 うん、有難う。

(大好きです)

「冬休みんなったら……」

 躊躇うような、間。

「……もう、絶対に、逃がさねぇから」

 ……ねぇ、伊織さん。

 わたし……そんなに、鈍くないよ。

(……うん、逃がさないで。ずっと、傍にいて)




■■□□■■□□



(__せん……伊織さん)

 慣れない。ひたすらに慣れない。

 でも……せん…伊織さん、が、喜んでくれるから。

「ん?」

(卒業まで……待ってて、くれる?)

 後一年くらい。待っててくれますか?

 わたしは、あなたの人生をめちゃくちゃにしたいわけじゃ、ないから。

「わりい、無理だ」

(え……)

 じゃあ飛び級……面倒だけど、仕方ないか。

「あー……言葉足りなかったな、わりい。

 俺、来年には国仕えすんだよ、裏の仕事で」

 裏。え、せ……伊織さんが?

「だから、お前の先生はあと少し。

 んで、恋愛も大目に見てもらえるから」

(……えっと、遠距離……?)

「……ま、そうなる確率は高いな。

 いっそ結婚しとくか?」

 ……冗談で、そんなこと言ってたとしても。

(うん)

 わたしは、あなたを離さないから。

 食いついちゃう、よ?

「は、え……良いのか?」

 なんで驚くの。当然でしょ?

(うん、伊織さんが良い。

 伊織さんじゃなきゃ、いやだ)

「~~~~~……負けた。完敗だ。

 凉音、改めて。

 愛してる。こんな俺でよければ、これからもずっと傍にいてください」

(喜んで、伊織さん)



■■□□■■□□



「__って、凉音?!なんでここに?!」

(えへん、売り込んでみたの。風の愛し子って言えば、ほぼ一発OKだったよ♪)

「ばっ……! ここがどんな場所か、わかるだろ?!」

(うん、だからだよ)

「は……?」

(伊織さんの能力は「読心」。真っ黒な人の心を読んだら、伊織さん、傷付く筈だもの。

 あなたの悩みは、わたしにはわからないものだけど、支えには、癒しには、なりたいから。だから、わたしは、あなたと働くの)

「凉音……」

(あなたと同じものを背負うって、わたし、言ったよ?)

「それはっ……そう、だが」

(あなたの傍にいさせて。

 あなたの背負うものを、半分ちょうだい。

 伊織さん)

「……負けっぱなしだな、俺」

(! それじゃぁ、)

「あぁ。……一緒に、頑張ろう」

(うんっ!!)



 ()は先生が「読心」した箇所です。

 色々力不足ですみません……。

 お月様には同登場人物のイチャラブ話をupする予定です。

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