ここは乙女ゲームの世界らしい。外伝。声無き少女の恋。
初めまして、あるいは、お久しぶりです。ルーナティルです。
「ここは乙女ゲームの世界らしい」の外伝です。
そちらを読まなくても大丈夫だと思います。が、宜しければ、どうぞ。
最後は会話のみ。
__あなたが、ずっと、好きでした。
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__わたし、風宮 凉音は、雪島 伊織さんが好き。
いけないことだって、わかってる。
許されない想いだということも。
……叶わない、ことも。
わたしは、声が出ない。
彼は、 先生 だ。
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__放課後。
夕日の朱が、白い廊下を染める。
わたしはぼんやりとそれを感じながら、目の前にいる人を見つめていた。
「あー……なんか、困ってねぇか?」
困ったように頭を掻くあなた。
あなたが、わたしに話し掛けてくれるなんて、思わなかった。
あなたは勘がいいから。
きっと、わたしがあなたを好きなことに、気付いてる。そして避けているのだと、感じてたから。
わたしは、“先生”の言葉に、ゆるく首を振る。横に。
困ってないよ。大丈夫。
そんな、気持ちを込めて。微笑むのは、ちょっと、難しいけれど。
あなたの目に映るわたしは、どんな顔をしているのかな。
わたしは、自分が赤くなっていないか、心配。
「なら、いいんだけど……」
歯切れの悪いあなたの言葉が、さっきの女の子達……からの暴言だって、わかってる。
わたしは声が出ないから。イジメても大丈夫だって、あの子達は誤解しているの。
わたしはもう一度、大丈夫、と、微かに微笑む。
難しい顔のあなたに、申し訳なさが募るけれど。
わたしは、あなたの前にいると、好きという気持ちが溢れそうで、
(怖い)
の。
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__魔術を使う時、わたしは詠唱ができない。
それでも大丈夫。
わたしの魔術適性は風。
風は、優しくて、暖かいから。
気紛れだけれど、
(«力を、貸してね»)
真摯に頼めば、邪険にはしないから。
閉じていた瞼を開く。わたしを中心に広がった陣が、輝き。
そして。
その場に、風が満ちた。
(«……有難う»)
有難う、いつも力を貸してくれて。
風が、戯れるようにして、わたしの髪の間を抜けていく。
スカートがたなびくけれど、スパッツをはいているし、人には見えないようにしてくれているのがわかっているから、押さえようとは思わない。
(«もう、いいよ»)
風がぴたりと止む。名残惜しむように、爽やかな香りだけを残して。
ふぅ、と。音もなく息を吐く。
今日も上手くできた。
風が協力してくれない時は、風が困っている時だけど。
それでも、ほったらかしたら拗ねちゃうから。
「おー……こりゃ、また……盛大にやったなぁ。風宮」
はっとして振り返る。好きな人が……先生が、そこにいた。
(な、なんで……?雪島先生、が……)
ここは、人が滅多に来ない場所。
学園にある森の、奥。
そんな場所に、なぜ。
雪島先生は、いるの。
「あー……なぁ、風宮?
俺の能力、知ってるか?」
こくり、と頷く。
覚えているもの。わたしが恋に落ちた瞬間だから。
雪島先生の能力は、「読心」。
「じゃあいいか。
俺は、ここに、お前を探しに来た」
(どうして?)
どうしてあなたが、わたしを探すの?
どうしてあなたは、ここがわかったの?
「お前、ここに通ってるだろ?」
……確かに、わたしは1年生の時から、ここに通っている。それから1年。誰かが知っていたとしても、不思議ではない。
こくり、と頷く。
「んで……探してた理由は、お前が……な?その……」
躊躇うようなあなたに、わたしはふわりと微笑む。
昨日のこと。心配してくれたんだね。
(雪島先生。いいもの、見せてあげる)
お願い。と、いつものように風に祈る。
風が応えて、舞う。
それは、決して人を傷付けない、暖かな風。
きらきらと翡翠色に煌めく、風。
上に昇ってゆく風。髪や、制服で戯れる風に苦笑しながら、指を一回、鳴らす。
「?!」
春の香りを纏い、薄紅色を舞わせる風。
今は、夏。桜なんて……ない。
だけど、風は優しいから。
ちょっと怖いけど……わたしの望みを、叶えてくれる。
「こ、れは……」
唖然としたあなたに、微笑む。
(“火炎・水氷・大地・大気に愛された者は、その恵みを最大限に受ける。彼等、あるいは彼女等は、この世界で叶えられないことはない。”
……先生は、これ、知ってる?)
わたし達は、事実、叶えられないことはないのだと思う。
ただ1つ。
なんでも願いが叶うのは1回だけで、願いの変わりに大切な物を喪うと、わたしは直感で知っている。
「……あぁ」
頷くあなたが、わたしがいたから、膨大な本の中から調べたんだって、自惚れていいですか?
(そう)
「……聞いて、いいか?
その真偽」
ふわりと微笑む。
(うん、先生。
確かにわたし達は、なんだって1つ、叶えられるよ)
あなたになら、なんだって教えるよ。
だけど、ごめんなさい。
代償は、教えられません。
「……そうか」
ねぇ。
もし、あなたがなにかを願うなら。
わたし、多分、叶えちゃう。
代償は、重いだろうけれど。
わたしが代償を払うことであなたが笑顔になるのなら、きっとわたしは何だってしてしまうから。
季節外れの桜が舞う中の、出来事だった。
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__わたしは声が出ない。
それは中学2年生の頃からだから、もう3年になる。
中学2年生の頃、わたしは3人の男の人に犯されかけた。
魔力が暴走して未遂で済んだけれど、わたしは声を失い、相手は生活を失った。
わたしはそれから、人が怖い。
人の欲望もそうだけれど、人、というものが怖い。
わたしは声と共に、普通をなくしちゃったんだと思う。
あの日のことを、わたしは1日たりとも忘れたことなんてないし、わたしはあれから一度も安らかに眠れたことはない。
皮肉なことに、わたしは、人を怖がり遠ざかることで、風と親しくなった。
風には欲望がないから、わたしは安心して風に笑えた。
……唯一の、例外が。
雪島先生。
べただけど……わたしが、学園の下見に来て迷ってあたふたしていた時に、助けてくれた人。
彼だけが……ただ、わたしを心配してくれたんだと、感じたの。
わたしに両親はいないし、あの日から友達は捨てた。
ただ、無償の愛なんて、風しかくれないと、信じていたのに。
あなたはわたしを心配して、わたしに飲み物をくれて、わたしと会話をしてくれた。
それがどれ程嬉しかったか、あなたにはきっとわからない。
わたしはあなたが好き。
ありきたりに恋に落ちたけど、もうずっと好きなの。
あなたがくれた温もりが、先生が生徒に与える温もりだったとしても。
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__森の奥で出会ってから、わたしと先生は、森の奥で会うことが増えた。
「よー風宮」
今日も。先生は、パンの詰まった袋を片手にやってきた。
目を開いて振り向いた先にあなたがいることが、酷く幸せ。
(雪島先生。もうお昼?)
わたしは、集中すると時間を忘れてしまうのが欠点。
「おう。風宮、お前、まぁた3時間目からここにきただろ」
その通りだ。だめだぞーと笑いながらあなたが言って、大樹の切り株に座る。
(風が、呼んでいたから。……反省する)
とことこと大樹の切り株に近付きながら、思う。
怒られるのは、ヤだ。だから、反省する。
今度はばれないようにしなきゃ。
「風が? ふぅん。まぁ食おうぜー」
パンを開けながら、あなたが笑う。こくり、と頷いてから、あなたとは背中合わせに(背中が触れないようにしながら)切り株に腰掛けて、持ってきていたお弁当を広げる。
「いただきます」
(いただき、ます)
栗の炊き込みご飯に出し巻き卵、たこさんウィンナー、ほうれん草のお浸し、ポテトサラダ。
小さめのお弁当箱に入れたそれらを、ちまちまと食べていく。
ぽかぽかとした日差しに、食べ終わったわたしは、やられた。
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「__ぃ……ぉぃ……風宮?」
遠く。大好きな人の声がする。
わたしを呼ぶ、やわらかな。
(__…せ、んせ……)
暖かい。 あんな、怖いものが、ない。
「風宮? もう時間……」
時間……?
あれ……わたし、お昼、食べ終わって……うとうと、して?!
(せ、先生……ッ!)
わ、わたし、先生の背中……っ!
広かった……じゃなくてっ!
慌てて立ち上がる。赤くなった頬をそのままに、立ち上がった先生に、
(ご、ごめんなさいっ!わたし、ついっ)
謝る。
うわぁぁぁっ! 恥ずかしい!
「ん、あー……別に構わねぇよ」
ふわりと、不意打ちのように。あなたが微笑むから。
わたしは、耳まで赤くなった。
(っ……お、お礼!何か……!)
しなきゃ。せ、背中借りちゃったし……!
胸の前で握り拳をつくって、先生を見上げる。
「お礼?んなの別に……」
(で、でも……め、迷惑かけちゃった、し……っ)
「……なら」
少し怯えながら、先生を見上げる。
先生は、目を逸らしながら、
「弁当……作ってくれねぇかな。い、いやなら良いんだが」
(っ……! 食べられないの、ある?)
良かった……!
お弁当! 大きなお弁当箱買わなきゃ……先生沢山食べるし……。
「いや、なんでもいけるぞ」
(ん! わかった。頑張る)
美味しいって、言って貰いたい。
ちょっと距離が縮まった、麗らかな夏の日のお昼過ぎ。
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「__おぉ……」
驚いた声に、ニコニコする。
(ね、食べてみて)
黒い、男性用のお箸を渡す。
「おぅ……」
お箸を受け取った先生が、厚めの出し巻き卵を取り、口に運ぶ。
ドキドキしながらそれを見守る。
(ドキドキする……!)
「……ん、上手い。料理、得意なのか?」
寮や学園には食堂があるから、自炊する人は少ない。
だけどわたしは、人の作ったものを食べるのに拒絶反応が出てしまうから、自炊している。
(得意……? うん、そうかも。気にしたこと、なかったけど)
だって、誰かに……それも、男の人に、手料理を食べさせるなんて、思わなかったから。
「かなり上手いぞ。風宮の将来の旦那が羨ましい」
……、旦那?
あぁ、そうだね。そうだったね。
あなたは、勘が良かったね。
わたしの気持ちに気付いたから、こんなことするんだ。
残酷な、そして、先生としては正しいこと。
あなたは、先生だね。
わたしの、先生以外には、なってくれないんだね。わたしには、先生以外の顔を、見せてくれないんだ。
(……彼氏なんて、作る気、ないもの)
わたし、知ってるんだよ。
ちゃんと授業にも出るもの。
あの日の行為が、最低で、最悪なものだったって。
わたし、あなたが、とある生徒と仲がいいの、知ってるんだよ。
黒い噂しかない子だけど。あなたが“特別扱い”しているんでしょ?
「……風宮?」
怪訝そうな声に、
(わたし、中学生の頃、襲われたの)
ねぇ、“先生”?
息を飲むあなたは、その意味を理解しているんだね。
(相手は、わたしに告白して、わたしがフッた人達だった。
わたし、怖くて、なにもできなくて……それから、人が怖くて仕方ないの)
暖かいのに、変だね。寒いよ。
自分の肩を抱く。うつむいて、大地を見る。
「風宮……」
(わたし、あなたが好きだよ。あの日、あなたは、わたしに触れなかったもの。ありきたりだけど。あなたは、助けてくれたもの。あなたは、わたしと、話してくれたもの……っ)
「それは、」
(わかってるもの!
あなたがくれた優しさが、先生が生徒に与えるものだって。
あなたが、あの子……ッ!)
だめだ。
わたし、真っ黒。
そんな資格ないのに、
嫉妬してる。
あぁ、
わたし、
馬鹿 だ。
自滅した。感情をぶつけすぎた。
……先生に、嫌われた、よね。
……元々、好かれてなんか、ないかも。
(……先生)
「……」
ごめんなさい、先生。
バカで、ごめんなさい。
(それ……もう、使わないから……先生が使って)
捨ててもいいから。
ごめんなさい先生。
あなたの目を、見れない。
(わたし……ッ
あなたが、好きでした )
■■□□■■□□
__あれから、わたしはあの森に近付いていない。
今はもう、秋。
紅葉が美しい森に行きたい気持ちもあるけど、
「__次の授業。なんか、イオリンの授業になるらしいよー」
ッ……!
先生に、合わせる顔が、ないの。
「本当? ラッキー!」
「イオリンかっこいーよねー♪」
だから、いつものように教室から逃げ出して。
廊下を走る。
知ってる。
あなたとあの子の距離が縮まったことなんて。
知ってる。
あなたがわたしを探しているのも。
知ってる。
風が、教えてくれるの。
知ってる。
ねぇ“先生”、苦しいよ。
「風宮……ッ?!」
ごめんなさい、先生。
あなたを愛して、ごめんなさい。
驚いたようなあなたの声を無視する。ツキリと胸が痛む。
(«お願い»)
どこか、遠くに。
窓を全開にして、窓枠に足をかける。
悲鳴。焦ったようなあなたの声。
堕ちていく中、風が、わたしの祈りに応える。
「風宮 凉音!やめ……ッ」
風に紛れた声に、酷く胸が痛んだ。
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「__アンタは悪役だから、やられるまえに潰す」
3日前。
わたしは、あの子に呼び出されて。
「アンタ、中学生の時に強姦されたんでしょ?なら処女じゃないじゃん。楽しめば?」
あの子は、笑いながら、わたしにそう言った。
あの子は、男の人を、従えながら笑っていた。
多分その時、わたしは、ばからしくなったんだと思う。
風は、わたしを守るために、男の人の大切なものを潰した。 あの子に怪我を負わせた。
「っ……!」
睨み付けてくるあの子の目は、わたしが憎いと訴えていた。
わたしも憎いよ。
わたしはその日、いつもより酷い悪夢に魘された。
■■□□■■□□
__衝動的に先生から逃げて、2時間後。
(やだ……ッ、離してッ!!)
「離せるかッ、バカ!」
(なんでっ?先生だからッ?!)
わたしと先生は、あの森で揉み合っていた。
おいかけっこで、わたしが捕まったのが、ここだから。
「んな……ッ」
(先生のバカっ!)
腕を掴まれているわたしは動けない。
非力なわたしが憎い。風に頼み事をできない、弱い精神が憎い。
「俺はっ!お前が!好きなんだよ!!」
(……嘘)
「大人の純情疑うんじゃねぇ!」
卑怯だ。なんで、そんな、必死なの。
信じさせないで。
あなたは、先生、でしょ?
……こういうのは、だめ、でしょ?
(嘘。だって、あの子、は……)
「あの子って誰だよ」
(……わたしを、この前、襲わせた子)
あれ? そういえば、わたし、あの子の名前知らない。
はぁ、と溜め息を吐いた先生。
「俺が好きなのは、お前だけだっつぅの」
片手でわたしの腕を掴んで、片手で頭をがしがしと掻く先生。
(で、でも……)
なんでこの前、旦那、だなんて。
「ごちゃごちゃうっせぇ。疑うなら、そうだな……」
にやり、と、妖艶に。
あなたが、笑うから。
耳まで赤く染まったわたしを、あなたが、抱き寄せるから。
……ねぇ、どうして、あなたの心拍まで、はやいの。
「……愛してる、凉音」
……卑怯だ。
そんな、掠れた声で。乞うように。
わたしを、呼ぶなんて。
(……わ、たし、も……)
__あなたが、大好きです。
■■□□■■□□
__わたしと先生は、付き合うことになった。
あの脱走劇から1日後、わたしは色々な先生に怒られながら、「ついにくっついたか」と言われた。
……意味が、分からない。
(ねぇ先生?「ついにくっついたか」って言われたんだけど、どういうことなの?)
あの森の奥の切り株で、あなたを見上げながら問う。
う、と動揺したように視線がそらされる。むぅ、答えて?
「…………………俺は、お前を、ずっと狙ってたんだよ」
思わぬ言葉に、目を瞬かせる。
(え、と……?)
「……教員全員、俺がお前を好きなの、知ってるんだよ」
がしがしと頭を掻くあなた。……ほんのりと、頬が赤い。照れてるの?
(って、つまり……っ)
色々ばればれっ?
「……あぁ、まぁな」
(恥ずかしい……ッ!)
「諦めろ」
(で、でも)
「それより、凉音?」
きゅっ、と、わたしの手を握りながら。妖艶にあなたが笑う。
ぞわり、とする。
「真っ赤。可愛いよな、凉音」
(なまっ、名前……っ)
「ん? 好きだろ、名前で呼ばれるの」
確かにわたしは、先生に名前で呼ばれるのが好きだ。幸せ。
(先生、)
「お前も、伊織でいいぞ。ってか強制な」
うぇ?!
(わたしにはまだ早いと思うの!)
「強制なー」
(……)
名前で呼ばないように注意すれば、
「凉音、呼んで」
(伊織さん)
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
わたしのばかぁ!
先生も卑怯!
なに、今の……!
フェロモンだだ漏れ……!
「ん」
満足そうにしないで! 幸せすぎて死んじゃうから!
「凉音、凉音を襲わせた“あの子”のこと、教えろ」
ザァ、と血の気がひく。
先生、かなり怒ってる。今なら人を殺しかねない。
しかも、なんか、誤解させちゃってる……!!
(わ、わたし、まだ処女だよ……っ?!)
って、そこじゃないでしょーー?!!
「え? でもお前、」
(未遂!だからっ! 両方共!!)
先生ぇ?!
なんか、とっっっっても嬉しそうにしないでぇ?!
「じゃ、お前の初めては俺か」
(確かにそうしたいけど! なんで先生まで喜ぶの?!)
「伊織、な。あと、凉音が好きだから」
(あぅ……)
反則です……。
「で、凉音? さっさと吐け」
……ま、いっかぁ。
■■□□■■□□
__話を聞いた先生の怒りは、想像以上だった。
(せんせ、……いおり、さん)
「ん? なんだ?凉音」
(犯罪だけは、しないでね?)
「……ぶはっ、りょーかいりょーかいっ」
……なんで笑うの。
「凉音、」
ん、と見上げたあなたが、夕暮れに染まる空を背に、あまりに優しく微笑んでいる。
「愛してる……」
うん、有難う。
(大好きです)
「冬休みんなったら……」
躊躇うような、間。
「……もう、絶対に、逃がさねぇから」
……ねぇ、伊織さん。
わたし……そんなに、鈍くないよ。
(……うん、逃がさないで。ずっと、傍にいて)
■■□□■■□□
(__せん……伊織さん)
慣れない。ひたすらに慣れない。
でも……せん…伊織さん、が、喜んでくれるから。
「ん?」
(卒業まで……待ってて、くれる?)
後一年くらい。待っててくれますか?
わたしは、あなたの人生をめちゃくちゃにしたいわけじゃ、ないから。
「わりい、無理だ」
(え……)
じゃあ飛び級……面倒だけど、仕方ないか。
「あー……言葉足りなかったな、わりい。
俺、来年には国仕えすんだよ、裏の仕事で」
裏。え、せ……伊織さんが?
「だから、お前の先生はあと少し。
んで、恋愛も大目に見てもらえるから」
(……えっと、遠距離……?)
「……ま、そうなる確率は高いな。
いっそ結婚しとくか?」
……冗談で、そんなこと言ってたとしても。
(うん)
わたしは、あなたを離さないから。
食いついちゃう、よ?
「は、え……良いのか?」
なんで驚くの。当然でしょ?
(うん、伊織さんが良い。
伊織さんじゃなきゃ、いやだ)
「~~~~~……負けた。完敗だ。
凉音、改めて。
愛してる。こんな俺でよければ、これからもずっと傍にいてください」
(喜んで、伊織さん)
■■□□■■□□
「__って、凉音?!なんでここに?!」
(えへん、売り込んでみたの。風の愛し子って言えば、ほぼ一発OKだったよ♪)
「ばっ……! ここがどんな場所か、わかるだろ?!」
(うん、だからだよ)
「は……?」
(伊織さんの能力は「読心」。真っ黒な人の心を読んだら、伊織さん、傷付く筈だもの。
あなたの悩みは、わたしにはわからないものだけど、支えには、癒しには、なりたいから。だから、わたしは、あなたと働くの)
「凉音……」
(あなたと同じものを背負うって、わたし、言ったよ?)
「それはっ……そう、だが」
(あなたの傍にいさせて。
あなたの背負うものを、半分ちょうだい。
伊織さん)
「……負けっぱなしだな、俺」
(! それじゃぁ、)
「あぁ。……一緒に、頑張ろう」
(うんっ!!)
()は先生が「読心」した箇所です。
色々力不足ですみません……。
お月様には同登場人物のイチャラブ話をupする予定です。