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DAGGER 戦場の最前点  作者: BLACKGAMER
DAGGER 有色の戦人
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03章 気まぐれな依頼-3


【ティスト視点】


セレノアの先導に従ってやってきたのは、昨日の訓練でも使った場所だ。

どうやら、ここが魔族にとっての正式な訓練場らしいな。

「真剣勝負の後に、また稽古…ねえ」

もの言いたげな視線をこちらに向けて、セレノアがつぶやく。

その目からは、理解できないという感情が、はっきりと読み取れた。

「むしろ、真剣勝負の後だから…だろ?

 一番、訓練が必要なことを痛感しているときだからな」

勝利の後なら、次に敗北を喫することのないように。

敗北の後なら、次に勝利を手にするために。

どちらにしても、訓練をするには、悪くない精神状況だろう。

「それに、まだ日暮れまでには、間があるからな。身体を休めるには、早すぎる」

もう少し疲れておいて、夜に熟睡したほうが、休息の効果は高い。

ずらさないで済むのなら、なるべく、睡眠時間は普段どおりにしておきたいからな。

「にしたって、数分前に戦ったばかりだっていうのに、休憩もいらないわけ?」

「なんだ、優しいな。心配してくれるのか?」

「べつに、心配じゃないわよっ、アタシの特訓は、厳しいんだからねっ!

 途中で後悔したって、遅いんだから」

「そいつは、楽しみだな」

元々、魔法というものは、魔族と精霊族から教えてもらう形で、人間が覚えたという話だ。

当然のことながら、魔法に関しては、一段も二段も劣る形になる。

その上、人間は、魔法を使えるようになるまでの敷居が高い上に、ほとんど情報を共有してないみたいだからな。

そんな状態で、魔族や精霊族に追いつくほど、発展するわけがない。

俺がやっていた訓練も、数をこなすか、アイシスとやった焚き木拾いのように、創意工夫で生み出すくらいが、せいぜいだ。

魔族に伝わる本格的な訓練法があるなら、ぜひとも知っておきたい。

「で、どんな訓練を教えてくれるんだ?」

「そうね。まあ、稽古のやり方は、いろいろとあるけど…。

 単純に、魔法力を底上げしたいんでしょ?

 だったら、相手と向かい合って魔法を撃ち続けるのが、一番ね」

「つまり、何回も魔法を相殺させるのか?」

ずいぶんと、単純かつ面倒くさいことをしなきゃいけないんだな。

魔法を百も二百も発動させるなんて、気が遠くなりそうだ。

「べつに、比重を重くして単発でやってもいいけど…。

 力尽きるまで、放出し続けた方が、効果は遥かに高いわよ」

「放出し続けるって、休みなく、魔法を出しっぱなし…ってことか?」

「そうよ、自分が魔法を出せなくなるまで、ね。

 知らないならみたいだから教えておくわ。乱発もそれなりに辛いけど、継続のほうが断然疲れるの。

 慣れないうちは、注意しなさい」

「そうなのか」

多少の過負荷は自覚していたが、あまり、意識したこともなかった。

魔法を維持するのなんて、せいぜい数秒、長くても十秒程度。

その間に、次の行動に移らなければ、戦いにならない。

「ずいぶん、実戦と掛け離れた訓練なんだな」

棒立ちで魔法を打ち合い、力を出し尽くすなんてことは、まずありえない。

そういう意味では、今回の奴は、筋力を向上させるのと同じような位置づけなのかもしれないな。

「本当なら、直不をやるところだけど、それだとティストの場合、小細工に逃げそうだしね」

「チョクフ?」

「直立不動を崩したら負け、だから略して直不ね。あそこに、土俵が見えるでしょ?」

セレノアの人差し指の先を、目で追いかける。

平たい地面の上に、大小さまざまな円が描かれている。

目を凝らしてみると、どうやら、古びた太い縄を使っているらしい。

半分が地面に埋め込まれているみたいだから、あの場に固定されているのだろう。

「一番端に、小さな円が二つあるでしょう?

 あれが、直不のための土俵で、あそこで向かい合いながら魔法を打ち合うの。

 使っていいのは魔法だけ、相手を土俵から押し出すか、膝より上を地面につかせたら勝ち」

膝より上…つまりは、膝をつかせるか、地面に倒れさせればいいわけだ。

逆に、立っていられなくなったり、叩き伏せられたら負け…か。

「たしかに、単純な力比べよりは、そっちのほうが、まだ分がありそうだ」

魔法を使って目的を達成するだけなら、威力も一因にしかならない。

技で補えるなら、その分だけ組みしやすいだろう。

「だから、ダメなのよ。ティストに必要なのは、あくまでも、魔法の増強。

 いまさら、得意なことをやっても、しょうがないでしょう?」

べつに、魔法の扱いもそれほど熟達してるわけじゃないが、それは、黙っておこう。

セレノアの言うとおり、苦手を克服するのが一番大事だ。

「直不をやりたいなら、早くアタシと引き分けられるように、せいぜい頑張りなさい」

「後のお楽しみ…ってわけか」

「他のも、訓練のための施設なんですか?」

アイシスが周囲を指差しながら、セレノアに訪ねる。

たしかに、ここから見ただけでも、他にもいくつか土俵が見えるな。

「もちろん、それぞれに用途があるわよ。

 一番よく使われるのは、真ん中にある一番大きいやつね。

 あれは、体術専用で、あの輪の中に二人で入って、押し出されるか、膝をついた方が負け…ってわけ」

「いろいろあるんですね」

髪解き組み手のときもそうだったが、また、空間を制限しての対人訓練か。

特に特別な道具を使う様子もないみたいだし、後で真似するにも、楽でいいな。

「さあて、何秒続けられるかしらね?」

俺を値踏みするような目をしたセレノアが、意地の悪い笑みを浮かべる。

明らかに、格下に見られているな。

「全力で、いいわよ」

「なら、お言葉に甘えて」

数秒の収束を経て魔法を練り上げ、風を解き放つ。

狙いを絞り込み、力を研ぎ澄ませて叩きつけた。

考えてみれば、純然たる魔法の勝負なんて、これが初めてだな。

「…ふぅん」

悠然と手をかざし、その手のひらに桃色の炎が燃え盛る。

セレノアの桃炎が、正面から俺の風を迎え撃った。

風が炎を払いのけるように吹きつけ、炎が風を食らうように燃え盛る。

数秒の押し合いが続き、ようやく二人の中心で魔法が拮抗した。

風の壁の奥にある鮮やかな炎が、目を通じて、脳にまで深く刻みこまれる。

こうして自分に向けられたのを見ると、改めてその威力を思い知らされるな。

わずかでも気を抜けば、一瞬にして焼き尽くされそうだ。

「にしても、見事だな」

思わず、感嘆の息が漏れる。

それほどに、セレノアの魔法は、洗練されていた。

一定の量を放出し続けているにも関わらず、炎にはムラがなく、わずかな揺らぎさえ見せない。

魔法を収束して放つという単純な動作だけで比べても、俺よりもはるかに無駄が少ないように見える。

いったい、どこでそんな差が生まれるのか。

それを考えながら、風と炎が混ざり合う境界線の奥へと目を凝らした。

セレノアやレオンじゃないが、相手の技を間近で観察するというのは、たしかに面白いな。

色々なことを気づかせてくれるし、それがいい刺激にもなる。




「くっ…」

開始から数分が過ぎたところで、自分の身体に違和感を感じ始める。

呼吸を止めているのと、感覚的には似ているな。

徐々に身体へと負荷がかかり、魔法を使い続けていることが苦しくなる。

まさか、こんなに早く?

「もう終わり?」

俺の表情を読み取ったのか、余裕綽々のセレノアが問いかけてくる。

平然と俺の風を受けきっているところを見るに、まだまだこれからなんだろう。

言うだけのことはあるな、まるで、底が見えない。

「くうっ…」

歯を食いしばって、必死に魔法を維持する。

それでも、魔法を収束させていた手が負荷に耐えかねて、小刻みに震えだした。

気力だけでは、抗いきれない。

「…っ」

次第に集中力が薄れ、視界が揺らぐ。

こいつは、本格的に危なくなってきたな。

「くそっ…」

平衡感覚を失いながら、脚力だけで、どうにか身体を支える。

それでも維持できたのは、わずかに数秒で、すぐに膝をつくことになった。

「ふぅん、頑張るじゃない」

「ぐうぅぅっ」

返事をする余裕もなく、唸り声を上げて、精一杯に力を込める。

鉄球でも巻きつけられたように、前にかざしている手が重い。

「ぐうっ…」

徐々に下がって行こうとする右手の手首を左手で押さえ、必死に支えた。

このままじゃ、終わらせた瞬間に炎に飲まれる。

「チィッ」

最後の気力を振り絞って、ほんの少しだけ持ち返す。

その間に、膝立ちの体勢から地面を転がって、セレノアの炎を回避した。

「くっ…はっ…」

呼吸を荒げて、大の字に倒れる。

降り注ぐ日の光さえ、鬱陶しいほどだ。

歯を食いしばることで、めまいから来る猛烈な吐き気に耐える。

全身に圧し掛かる異様なまでの倦怠感は、空気さえも重く感じさせてくれた。

「ぐっ…」

わずかにさえ、自分の身体の中には、魔法に使える力が残っていない。

死を覚悟した、ガイ・ブラスタとの戦いのときを別にするなら…。

意図的に力を空にしたことなど、生まれて初めてだ。

「くっ…」

悪態を吐く余裕すらない。

怪我の痛みなんかよりも、こっちのほうが、よっぽど悪質だな。

どれだけ力を振り絞っても、立ちあがることができない。

「無理して動いて、意識が飛んでも知らないわよ。

 ここから布団まで運ぶなんて、アタシはイヤだからね」

頭上から降り注ぐセレノアの声が、耳から入って、頭の中で何度も反響する。

追い出すつもりで何度か首を振り、ようやく顔をあげることが出来た。

普段と変わらぬ涼しげな顔で、俺を見下ろしている。

その瞳の中には、情けなく地面に倒れている俺が、はっきりと映りこんでいた。

正直に言って、負けることも、覚悟していた。

だが、まさか…。

「ここまで一方的とは…な」

口を開いて、なんとかそこまでを言い切る。

苦戦させるどころか、表情ひとつさえ、変えることが出来なかった。

勝負にすらなっていない、完膚無きまでの大敗だ。

「ま、そう悲観することもないんじゃない?

 そもそも、アタシの得意分野で挑戦しようってのが、間違いなんだから。

 それに、言うほど最低ってわけでもないし、まだ伸びしろも残ってるみたいだしね」

慰めの言葉を聞いても、気休めにすらならない。

むしろ、今ひとつ覇気のなかった俺に、大きな火をつけてくれた。

「くっ…」

不甲斐ない身体を叱咤して上体を起こし、膝に手をついて、無理やりに立ち上がる。

これ以上、無様な姿を晒し続けているなんて、冗談じゃない。

両足に力をこめて、笑みを深めたセレノアと、正面から対峙する。

なんとか呼吸を整え、ありったけの力をこめて言葉を紡いだ。

「近いうちに、弱点を克服する。だから、そのときに再戦してくれ」

「いいわよ。何度だって、相手をしてあげるわ」

心から楽しそうな笑顔で、俺の宣戦布告を受け入れる。

王者にしか出すことのできない、風格があった。

いつか、絶対にその顔を驚きに変えてやる。

子供っぽい対抗心とともに、そう心に誓った。




【ティスト視点】


焦点が合うまでに、数秒の時間を要する。

ぼんやりと天井を見上げて、浅い呼吸を繰り返すと、ようやく思考が動き出した。

たしか、アイシスに肩を借りて、どうにか部屋まで戻ってきて…。

「あのまま、寝入ったのか」

灯りの落とされた部屋の中は真っ暗で、部屋の外からは、物音一つしない。

どうやら、真夜中らしいな。

訓練したのが、日没前だから、ずいぶんと長く眠りこけていたらしい。

首をまわして隣を見れば、同じ布団の中で、アイシスが小さな寝息を立てていた。

まったく、情けないところを見せたな。

「…くっ」

気怠い身体を起こして、ゆっくりと頭を降る。

腕を上げ、足に力をこめ、四肢の動きを確認していく。

反応は鈍いが、戦えないほどでもない。

「力を使い果たしたのに、思っていたよりも軽度で済んだらしいな」

寝込むことも覚悟していただけに、拍子抜けした。

食欲もないし、喉の渇きも気にならない。

身体から、欲望が消え去ったみたいな、不思議な感覚だ。

今は、ただ眠りたい。

いつもとは、まるで違った疲れ方だな。

これが、魔法による疲労…か。

俺が昏睡状態だったときに、ユイやクレア師匠も、こんな風に限界まで魔法を酷使してくれたんだろうか?

「…あ」

そこまで考えを巡らせて、はたと気が付く。

まずいな、急なことばかりで、すっかり忘れていた。

ユイに家のことを頼んできたというのに、手ぶらで帰るのは、あまりに薄情だ。

二度寝の誘惑を振り切って、今日も二人が仕事をしていることを願い、ふすまを開けた。

俺が求めていた姿は、二対の彫像のように微動だにせず、ただそこに立っていた。

「…!」

俺の姿を認めた二人が、珍しくその表情を崩す。

二人そろって、驚きに目を見張っていた。

「呆れた回復力ね。明日の出発は、延期だと思っていたのに」

「このぐらいしか、取り柄がないからな」

皮肉に対して肩をすくめて見せ、精一杯の強がりを返す。

現状で、敵ではないとはいえ、弱みを見せられるような相手でもない。

「で、何の用かしら?」

用事がなければ、私たちに近寄らないでしょう? と続きそうなほどの、棘のある口調。

それに一瞬だけ怯み、しかし、相手に気づかれないように、平然と話を切り出した。

「聞かせて欲しいんだが…何か、土産物になるようなものはないか?」

「みやげもの?」

俺の言葉を聞き返す二人の顔には、呆れの色が充満している。

やっぱり、聞くべきじゃなかったかな?

「魔族の領地で観光気分とは、ずいぶんな余裕ね。

 まさか、手土産が欲しいなんて言い出すとは、思わなかったわ」

鋭利な嫌味と硬質な声から察するに、かなり怒っているみたいだ。

だが、そう簡単に引き下がるなら、こちらもわざわざ頼んだりはしない。

「それとも、土産がなかったら、レオン様の願いを断るつもりなのかしら?」

問いかけに莫大な怒り含まれ、二人の目つきが剣呑なものになる。

あれだけ誠意を持って頭を下げたレオンに対して、足元を見るような態度は、たしかに許せないだろう。

「別に、そんな意図は無い。それに、何も無料で寄こせとは言わない。それなりの対価は、支払うつもりだ」

「対価と言っても、人間の硬貨なんて、私たちには何の意味もないのよ?」

「分かってるさ。だから、役に立って返す」

「ずいぶんとあいまいね」

中途半端な口約束じゃ、聞く耳を持ってくれそうにないな。

かといって、この二人を納得させられるような報酬なんて、想像もつかない。

「なぜ、そこまでするの?」

それまで沈黙を保っていたサリが、初めて話に加わってくる。

よほど意外なことなのか、レイナの顔にも、驚きが見て取れた。

「留守を任せてきた相手に、何かしらのお礼がしたいんだ」

この程度で恩返しができるなんて思ってないけど、少しでもいいから、埋め合わせはしたい。

それでなくとも、最近は家事だけじゃなく、治癒の魔法の世話にもなりっぱなしで、申し訳ないのだから。

「誰の話?」

「俺の幼なじみだ。もう十年以上、俺の世話を焼いてくれる大切な人だ」

今回も、俺たちが帰るまで、家のことを全て引き受けてくれた。

きっと、毎日のように通って、隅々まで磨き上げてくれているだろう。

だからこそ、俺もユイに何かを返したい。

「期待に添えなくて申し訳ないけれど、土産物屋なんて、洒落たものはないわ。

 ただでさえ資源は貴重なのに、渡せるような民芸品なんて、あるわけないでしょう?」

「そうか」

さて、どうするかな?

ないと言われたんだからあきらめるしかないが、土産話だけというのも能がない。

せめて、何か…。

「なぜ、我々に話したの?

 セレノア様やレオン様なら、あなたの要望であれば、取り計らってくれるはず。

 なのに、どうして私たちに?」

「だからこそ、二人に話したんだ。無理をさせたくないし、変に気を使われても困るからな」

王族という面目もあるだろうし、客人の頼みともなれば、断りにくいはずだ。

だけど、俺のわがままのために、そうまでしてもらうつもりはない。

「へぇ、いろいろと考えてるのね」

「まあ、それなりに…な」

言葉を濁す俺の前で、二人が視線を交わして小さくうなずく。

どうやら、真剣に考えてもらえそうだな。

「姉さん、磨錬石なんて、どうかしら?」

「ああ、あれ。あれならいいんじゃない? どうせ、余ってるしね」

「まれんせき?」

石の名前だということぐらいは分かるが、耳慣れない言葉だ。

魔族の領地でしか取れない石というのも多いらしいし、その類かもしれない。

「文字のとおり、磨いて輝く石よ」

「案内してあげるから、ついてきなさい」

二人の後を追って、音を立てないように板張りの廊下を抜けた。




城から少し離れた、砂地。

手のひらに楽々乗るぐらいの、小さな石が山積みになっていた。

どうやら、同じ種類で一塊にしているらしいな。

どれも同じく、黒みがかった茶色をしている。

「これが?」

まるで冴えない色味で、輝きすらない。

これなら、道端に落ちている石と比べても、そう大差ない。

「そうよ。といっても、このままじゃ、単なる石ころだけどね」

意味ありげに笑って、石を二つ拾い上げる。

どうやら、まだ秘密があるようだな。

「これを磨くことができるのは、同じ種類の石だけ。

 互いに擦りあわせることで、二対の玉が生まれるの。

 擦り合わせる…って、両手に持って、すり合わせればいいのか?」

「実際に見た方が早いでしょ? しょうがないから、手本を見せてあげるわ」

二つの石を手のひらに乗せ、その上で踊らせるように、くるくると回転させる。

まるで、互いを追いかけているみたいだ。

がりがりと音を立てて、石が研がれていく。

指先を巧みに操ると、石の動きもそれに応えて加速していった。

「こうやって、ムラができないように注意しながら、根気よく磨き続けるの。

 あなたの腕が良ければ、綺麗な球になり、最後には光を吸い込むようになるわ」

説明はそれで終わりなのか、実演していた石をこちらに放り投げてくれる。

「ありがとう」

左手で二つとも受け止め、さっそく見様見真似で試してみる。

「…!」

想像していたよりも、はるかに抵抗が強い。

少しでも力を抜けば、すぐに石は動きを止めてしまう。

これだけ力がいる作業を、軽々とこなしていたのか。

「………」

俺の表情を見て取ったのか、二人が楽しそうに笑う。

その笑顔を見ていると、セレノアとの血のつながりを嫌ってほど実感できる。

まったく、イヤになるくらいに似ているな。

「言い忘れていたけど、これは、手の稽古にも使われるわ。

 これを繰り返すことで、指に力を宿すの」

そういって、レイナが握り拳を俺の眼前に突き出す。

女の細腕と甘く見ていたら、痛い目にあうだろうな。

「もう少し、もらってもいいか?」

「終わらないうちから欲張ると、痛い目に合うわよ?」

「まあ、そうかもしれないが…。せっかくだから、両手でやろうと思ってな」

今までも、なるべく両腕は均一に鍛えてきた。

ここでバランスを崩すのは避けたいし、そもそもが、どちらも鍛えておいて損はない。

それに、きっとアイシスも欲しがるだろうしな。

「だったら、好きにしなさい。ここにあるものなら、自由にしていいわ」

「ありがとう」

頭を下げてから、手ごろな石を拾い上げる。

やり続ければ、フォークを持つのも苦労しそうだ。

だが、これぐらいでちょうどいい。

俺の拳も、もう少し重くしておかないとな。

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