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DAGGER 戦場の最前点  作者: BLACKGAMER
DAGGER -戦場の最前点-
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14章 戦う少女-2

【アイシス視点】


第三回戦。

向かいには、もう二度と見たくないと思っていた二人が立っている。

ついに、ここまで来たんだ。

「やっと、ぶっ殺してやれるぜ」

長身のリントが、長剣を握りしめて殺気を撒き散らす。

「叩き潰してやる」

私とそう変わらない身長のフェイは、斧を見せつけるようにしていた。

二人の殺気が肌を突き刺し、首筋に怖気が走る。

落ち着け。

こんなもの。

こんなもの、お兄ちゃんと一緒に何度も浴びせられてきた。

思いっきりダガーを握って、震えを誤魔化す。

「後のことは考えるな。全て使い切っていい」

「はい」

お兄ちゃんの言葉に背中を押されて、前に出る。

このために、闘技祭に出場した。

私にとっては、これが決勝戦みたいなもの。

相手は、長剣と戦斧。

どちらも、ダガーよりずっと強大な武器だ。

だけど、負けるわけにはいかない。

「くらえっ!!」

「…!」

大上段から、フェイの斧が振り下ろされる。

以前のような、いたぶるための攻撃とはまるで違う、必殺の一撃。

あの人たちは、私を…本気で殺すつもりだ。

風圧で前髪が揺れる。

後少し近かったら…。

頭の中で考えていたよりも、ずっと近い場所を刃が通り過ぎる。

相手が速いわけじゃない、私の動きが遅いだけだ。

「くっ…」

身体が、言うことを聞いてくれない。

さっきもそうだった。

「次は俺の番だぜっ!! おらぁぁぁっ!!」

斧をもう一度避けたところで、リントの長剣に逃げ場を抑えられる。

長身の奴に体重を乗せて斬りつけられると、受け止めるのは辛い。

円を意識して、斜めに間合いを外す。

回り込まれてはいないけど、フェイは何を…。

「………」

魔法を収束してる!?

長身の影に隠れて、気づくのが遅れた。

ダメ、発動前に潰せない。

「死ね」

私を取り囲むように、6本の岩が出現する。

高低差のある岩に、横の逃げ道を完全に塞がれた。

「へへ、終わりだな」

リントは、さっきまでの斬りではなく、突きが出来るように持ち変えている。

悔しいくらいの見事な連携攻撃だ。

避けきれない。

「魔法は無視しろっ!!」

「…!」

お兄ちゃんの声に従って、長剣の突きを横飛びに避ける。

拳よりも大きな岩が、左肩に食い込んだ。

「っ…」

じん…と奥まで痺れて、力が抜ける。

だらしなく下がった左腕では、拳を握ることもできない。

「くぅっ…」

痛みに耐え切れずに、思わず声が出る。

それを必死に噛み殺して、呼吸を整える。

痛い? これが?

こんな痛み。

このくらいの怪我。

この身体には、嫌ってほど刻み込まれてる。

クリアデルでは、毎日殴られ、蹴られ、踏みつけられた。

今更、この程度で、何を恐がる?

それに、どんなに痛くても…ただ身体が痛いだけだ。

私のせいでお兄ちゃんを傷つけてしまった、あのときは、どうしようもないほどに、心が痛かった。

大事なときに動けなかったことよりも、痛いことなんて…ない。

それに…。

こんなことで痛がっていたら、お兄ちゃんに申し訳ない。

私なんかのために、お兄ちゃんは、数えきれないほどの怪我を受けてくれたんだから。

だから、私だって、お兄ちゃんに守られているだけじゃない。

お兄ちゃんの足手まといにならないために、私は強くなるんだ。



「…ッ!!」

思考を切り替え、鋭く息を吐いて、走り出す。

少しくらい強くなったからって、何を勘違いしていたんだろう。

相手が誰とか、そんな、余計なことは考えなくていい。

私は、死に物狂いで闘えばいい。

何をしてでも、勝つんだ。

「やぁっ!!」

足を止めずに、迫り来る石つぶてをダガーで叩き落としていく。

二個、三個と同時に迫られれば、全ては対応できない。

肩やふとももに、浅い傷がいくつも生まれる。

でも、これでいい。

狙いを絞らせなければ、致命傷にはならない。

「うぉぉぉっ!!」

リントの長剣の一撃、これは見逃す。

二発目が繰り出されるまでの時間を、もう一回確認するんだ。

「りゃあぁぁぁっ!!」

十分な余裕を持って避けてから、引き戻される刃を追いかける。

大丈夫、私なら届く。

「ッ!!」

一足飛びで、相手の顔面へと飛び蹴りを放った。

「ぐぇっ…」

足の裏から漏れる声に、たしかな手応えを感じる。

元の場所へと戻らないように、角度をつけて間合いを外した。

「つぅ…のやろおおぉっ!!」

手のひらで、潰れた鼻を抑えている。

その目は、怒りに見開かれていた。

「くらぇぇえぇっ!!」

怒りに任せた滅多切り。

さっきよりは速いけれど、同じ拍子で繰り返されるから、それほど恐くない。

その隙を補うように、取り巻く岩たちが密度を上げる。

冷静にそれを凌ぎながら、左手に水の魔法を収束させていく。

剣と魔法の二段攻撃は、厄介だ。

どうにかして、フェイの土の魔法を止めてみせる。

「ふっ…」

斜め後ろへ退き、大回りで間合いを外して横へと移動する。

「行かせるかよっ!!」

ダメだ、後衛との距離は詰められない。

私に対して、ずっと直線になるように、前衛のリントが動いてるからだ。

考える間に、土の魔法が降り注ぐ勢いを増す。

打開されることを、焦ってるからだ。

横は、たぶん無理。

上から? …ダメだ、私には、距離感がつかめない。

水の魔法で相手の頭上を越すことはできても、どこで落とせばいいのか分からない。

なら…下からっ!!

「ッ!!」

収束させていた魔法を全て注ぎ込み、水球を作り出す。

これで…。

股の下を抜く。

「なっ!?」

それから、勢いを殺さずに少しだけ上へと軌道を逸らした。

鈍い激突音。

浮かび上がっていた岩が力を失い、次々に地面へと落ちた。

「よしっ!!」

「らぁぁあああぁぁぁっ!!」

絶叫を上げた一撃を見切って、間合いを詰める。

ありったけの力をこめて、みぞおちへと一撃を放った。

乱打する体力なんて、もう残ってない。

「かっ…はぁっ…」

息を全て吐き出して、崩れ落ちる。

もう、動けないはずだ。

「くそがぁぁっ!!」

フェイの土の魔法に、さっきまでの技の冴えはない。

戦斧を必死に支えて、突撃してくる。

斧と魔法の同時攻撃。

波状攻撃なら、お兄ちゃんから教わった私が、負けるわけがない。

走るたびに、傷口に痛みが走る。

でも、そんなのどうでもいい。

後のことは考えなくていいと、お兄ちゃんが言ってくれたんだ。

だから、私の全てを使い切る。

「やぁぁぁっ」

斧を握る手に、水の魔法をぶつける。

顔をしかめ、それでも走る足を止めない。

「無駄なあがきだっ! 小細工など通用しないっ!!」

「小細工なんかじゃないっ!!」

力の限り、声を振り絞って叫ぶ。

馬鹿になんて、絶対させない。

これは、私がお兄ちゃんから教わった、大切な技なんだから。

「ッ!!!」

大量の水を、私の前に展開する。

ほんの少しでいい、刃の動きが少しでも鈍れば、十分だ。

「無駄だぁっ!!」

思ったとおり、斧で水の壁を粉砕しようと振り下ろす。

水壁へと刃を食い込ませた、その瞬間。

踏み出した足に向けて、水の魔法を放った。

「なっ!?」

足を取られ、戦斧が地面に深く突き刺さる。

そのときには、もう全速力で踏み出していた。

「ああぁぁぁぁぁあああっ!!!」

喉が潰れてもいい。

全身全霊の叫びを上げて、相手の顔面へと全体重を乗せた。

「ぐっ…あっ…」

ゆっくりと、全ての動きが緩慢で。

奴が地面に倒れ伏すところが、私の目に焼きついた。

勝った…の? 私が?

「勝者、アイシス・リンダント、ティスト・レイアっ!!」

レジ様からの勝利宣言についで、歓声を聞くと全身の力が抜ける。

ダメ、立ってられな…。

「あっ…」

地面から足が離れ、身体がふわりと浮き上がる。

それほどに優しく、私は抱きとめられていた。

「よくやった。本当に…よくやった」

お兄ちゃんの声が、笑顔が、こんなに近くにある。

それだけで、もう、全ての疲れが吹き飛ぶ気がした。



【ティスト視点】



アイシスを抱き上げたまま、ユイの元へと急ぐ。

涙で瞳をうるませ、それでも最高の笑顔で待っていてくれた。

「お帰りなさい。アイシスちゃん。お疲れさま、よく頑張ったね」

手早く血を拭い、止血用の布を傷口に軽く押し当てる。

「ティスト、抑えててくれる?」

「ああ」

両手をアイシスへとかざし、癒しの魔法を発動させる。

淡い光にアイシスの全身が包まれた。

「…はぁ」

アイシスが、熱のこもった、ため息をつく。

ユイの魔法をかけてもらっている俺だから、今のアイシスの気持ちがよく分かる。

まさに、癒しを受けて、身体中が安らぎを得ているだろう。

「………」

傷口の一つ一つをなぞるように、ユイが手のひらを滑らせる。

まるで、傷口を縫い合わせるように、傷が次々と塞がっていった。

「…すごい。傷跡が、ほとんど見えない」

「見た目は治ったように見えるかもしれないけど、油断すると悪化するからね。

 あくまでも応急処置なんだから、無理しちゃダメだよ」

「大丈夫だ。次からは、俺が片付ける」

「すみません」

怪我をした自分を恥じるように、アイシスがうつむく。

まったく、あれだけ見事に戦い抜いたんだから、誇ってもいいのに…。

でも、俺もアイシスと同じ立場になれば、同じ気持ちになるだろうな。

「早めに治るように、心がけてくれ。

 決勝ぐらいは、一緒に戦いたいからな」

「はいっ!!」

後は、俺が約束を果たすだけでいい。

いい気分だ。

負けられないという気負いが、ほどよい刺激をくれる。

今ならどんな相手にだって、負けはしない。

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