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DAGGER 戦場の最前点  作者: BLACKGAMER
DAGGER -戦場の最前点-
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02章 戸惑う少女-1

【ティスト視点】


「この部屋でいいか?」

アイシスを寝かせていた二階の空き部屋、俺の部屋と同じぐらいの広さだし、日当たりも悪くない。

「でも、ちょっとお掃除したほうがいいかもね」

カーテンをあけると、部屋の中を舞う埃が照らされる。

ほとんど使わないから、少し掃除が雑になっていたのは、否定できないな。

「これからしちゃおっか?」

「いいです。掃除ぐらい、自分で出来ますから」

「そだね、アイシスちゃんの部屋だもんね」

「私の…部屋」

慣れない響きというように、アイシスが繰り返す。

その顔は、戸惑いでいっぱいだった。

「じゃあ、お掃除がいいなら、ロアイスまで買い物に行かない?」

「そうだな」

人が一人増えるなら、それだけ必要な物も増える。

俺の物を使いまわしてもいいが、アイシスのために一通り揃えたほうがいいだろう。

「そういえば…ユイが持ってきてくれたのって、日持ちするのか?」

「うん。この寒さだし、2~3日は平気だと思う」

「なら、行こうか」

「………」

俺とユイが廊下へ向かおうとしても、アイシスだけは動かない。

その場で俯き、じっとしていた。

「アイシス?」

「私は…いいです」

必要最低限、そう思えるような小さな声で、アイシスが答える。

だけどそれは、俺たちへの明確な拒絶の意思だ。

「でも…」

そこで言葉を区切って、ユイが口をつぐむ。

どう言えば、アイシスに話を聞いてもらえるのか、悩んでいるんだろう。

無理強いをすれば、かたくなになる。

だからといって、このままユイと二人で行けば済む問題でもない。

「体調が悪くないのなら、ロアイスまでの道は今日中に覚えておいたほうがいい。

 このあたりの地理は、アイシスも把握しておくべきだしな」

「…わかりました」

にぎやかなところは苦手で、そこに行くなら自分を納得させる理由がいる。

相手と少し距離を置くことで、自分にとって安心できる位置が確保できる…か。

昔の自分を意識して考えた説得が通じても、素直に喜べないな。




小屋を覆うように立ち並ぶ木々の間を抜けて、ようやく街道に出る。

眩しく輝く太陽は、もう一番上を過ぎていた。

心地よい風が草原を抜けて、草の波が体を揺らして音を立てる。

「いい風だな」

「うん」

目を細めて笑うユイの横で、アイシスは静かに辺りを見回していた。

「あれが、ロアイスですか?」

「ああ、迷わなくていいだろ」

遠目にロアイスの城壁が見えているのに、歩くと案外距離がある。

この時間からだと、夕方までにつけるかどうか…だな。

「行きはいいが、問題は帰りだ。

 森に入る場所は目印がほとんどないから、覚えておいてくれよ」

「はい」

通ってきた道も、いくつかある獣道の一つにしか見えないから、思ったよりも間違えやすい。

この辺りの森でも、変に深入りして迷うと冗談ではすまないときがあるからな。

「さて、行くか」

いつもは一人で、たまにユイと二人で歩くこの長い街道。

少し離れて歩くアイシスを気にしながら、速度をあわせてゆっくりと歩いた。



【アイシス視点】



夕日が、大通りを真っ赤に照らしている。

寄り道や回り道をしたわけでもないのに、もうこんな時間だ。

あの家からここまで、真っ直ぐに歩いてきただけなのに、かなりの距離があった。

昨日、どうやって私をあそこまで運んだんだろう?

あの小屋には、馬もいなかったのに…。

聞いてみようとしても、あの人はここにいない。

この服屋まで私たちを送ると、他に買うものがあるって、どこかへ行ってしまった。

「どう? 欲しいの見つかった?」

「…あの、本当に、服なんていりませんから」

「でも、ずっとそれを着てると、辛いでしょ?」

たしかに、胸当ては薄っぺらなのに重いし、生地の肌触りも悪い。

でも、お金がないんだから、しょうがない。

「これはどう?」

ずらりと並ぶ服から、一枚を手に取って私の前で広げてみせる。

この人が着ている服の桃色を淡くしたような色合いのワンピース。

「…いえ」

さっきから、同じ返事しかしていない。

だって、買うつもりがないんだから、しょうがない。

「そっか」

無理に押し付けようとせず、あっさりと引き下がって、また服を選び始めた。

私が選ぶまで終わらないのかと思うと、イヤになる。

やっぱり、買い物になんて、来るべきじゃなかった。

服がなるべく多く見せられるように並べてあるから、通路も狭い。

私とすれ違う人たちが、視線で邪魔だと文句を言ってくる。

早く、店から出たい。

「アイシスちゃん、好きな色は?」

「…ありません」

「じゃあ、服の好みは?」

「…ありません」

ここで買い物をしている人たちみたいに、着飾ることに使うお金なんて、私にはなかった。

それに、女らしい服を着てみたいと思ったこともない。

「んー。なら、あたしが選んでもいい?」

「無駄使いはやめてください」

私の言葉に返事をする代わりに、悲しげな顔を返してくる。

私は、そんな顔を向けられる立場じゃない。

「どうして、私なんかにお金を使おうとするんですか?

 そんなもの、もらっても、どうやって返したらいいか…」

「律儀だね」

私の言葉を遮って、笑う。

「何がですか?」

「誰かにしてもらったことを真剣に考えてるのは、アイシスちゃんがいい子だからだよ。

 感謝の気持ちがないと、してもらったことを忘れちゃう人もいるんだから」

いい子? 私が?

そんなはずない。

「ふざけてるんですか?」

「ふざけてないよ」

ゆっくりと首を横に振って、私の目を見る。

敵意もなく、とても自然なあの人の顔は、嘘でも冗談でもないことを表していた。

「恩って、売れないの。相手が買ってくれないとね」

ちょっとお姉さんぶった感じの、優しい笑顔。

たしかに、私が気にしなければ、何をしてもらっても返す必要なんて…ない。

「『どうして、私なんかにお金を使おうとするんですか?』だったよね?

 ティストに頼まれたから…じゃ、理由にならない?」

「え?」

「ティストもね、アイシスちゃんと同じで、誰かにお願いしたり、頼ったりするのは苦手なの。

 やれることは全部自分でやるし、やれないことも一人で出来るように頑張って。

 良いことだと思うけど、あたしはちょっと寂しい。

 だから、ティストがあたしにお願いしてくれたことが嬉しいの」

「こんな面倒ごとを頼まれるのが、そんなに嬉しいですか?」

頼るなんて、結局は押し付けるだけ。

押し付けられた方には、何の利益もない。

「好きな人に頼られるのは、迷惑じゃなくて嬉しいことだから」

何でこんなことで、そんなに嬉しそうな顔が出来るんだろう。

これじゃあ、私だけが馬鹿みたいだ。

「だから、アイシスちゃんは迷惑かもしれないけど…。

 もう少し、付き合ってくれると嬉しいな」

優しく手をとられて、奥のほうへと連れて行かれる。

ドレスやスカートには、目をひくリボンやフリルが付けられている。

名前も知らないほど、私には縁のなかったものばかり。

逆らう気にもなれなくて、黙って後をついていった。



【ティスト視点】



「邪魔するぞ」

声をかけても、返事はまるでない。

接客も何も、あったものじゃないな。

持ち主を求めて、あるいは持ち主と別れて、雑然と並べられているたくさんの武器たち。

研ぎ澄まされた刃は、薄暗い部屋の中で鈍い光を放っていた。

久しぶりに来たが、まるで変わっていないな。

活気どころか人気さえないのに、これでも店として成り立つのだからすごい。

「いないのか?」

問いかけても、返事をしてくれる店員の姿はない。

しょうがないから、並べられた武器を端から眺めていく。

「斧や槍じゃ、振り回されるだろうな」

そもそも日常で持ち歩けなければ、武器なんて意味をなさない。

あのぐらいの体格の女の子が持つなら、小型の武器やロッドぐらいが妥当だろう。

技術を要するものなら、鞭、弓矢、ブーメランなどの中距離から遠距離での戦闘用。

だが、師事する人間もいないし、俺が使えないものを教えることはできないし…な。

「なんにしても、まだ…だな」

今のあの子に必要なのは、武器じゃない。

急いで順序を狂わせるよりも、まずはそのあたりから教えないと…な。

「なんじゃ、新しい武器に興味が出たか?」

「…べつに」

ようやく店の主のお出ましだ。

名人や名工と呼ばれる者は、執着、没頭するうえに妥協を許さない…だから、孤立する。

ご多分に漏れず、ロウ・エンゲイといえば、ロアイス最高の…と称されながら、客にも周りの人間にも恵まれない。

不機嫌そうな顔のままで、こちらに手を伸ばした。

「で、誰と刃を交えたんじゃ?」

「誰とも」

「貴様、けたか?」

「誰かと刃を交えたら来いと言われたのは覚えている。

 だが、俺は今のところコイツの世話になってない」

ダガーに手を添えると、ロウが目つきを厳しくした。

「だから呆けたかと聞いている。

 いくら岩に叩きつけようが、木を切りつけようが、振り回そうが、そんな行為に意味はない。

 真剣に刃を交え、そこで打ち勝ってこそ、初めて意味があるんじゃ」

「説教はよしてくれ、今日は買い物に来たんだ」

「買い物…じゃと?」

「以前に、俺の食器を用意してくれただろう?

 あれと同じものをもう一式、ほしい」

「少し、待っておれ」

種類ごとに分けてあるのか、ロウが部屋の中を動き回りながら必要なものを取り出し、綺麗な布巾で拭っていく。

その目つきは真剣そのもので、まるで戦っている最中のようだ。

「客は入ってないのか?」

「月に、二、三といったところかの」

まるで気にしていないと言った風に、ロウが答える。

「それで、大丈夫なのか?」

「十分じゃ。雑多な注文を受けるつもりはないからの」

「雑多な注文?」

「剣を何本、槍を何本、斧を何本用意しておけ…などと、ふざけたことを抜かす痴れ物どものことじゃ。

 しかも、箱詰めにした武器を使い、用が済めばまた箱へと戻しよる。

 自分の武器を持たず、手入れもほとんど行われない。

 磨耗し壊れれば次へと変える…まったく、ふざけた話じゃ」

「それは…クリアデルの話か?」

「城の兵士たちも、さほど変わりない。

 城にあるのは、武器庫ではなく物置じゃからな」

苛立ちを隠そうともせずに、吐き捨てるようにぼやく。

よほど、見てきた光景が我慢ならなかったのだろう。

「平和主義を貫くのは勝手じゃが、戦いに対する距離がそれを生ませたのじゃ。

 自分で選びもせずに、支給される武器を使うなど、気が違えているようにしか思えん。

 そもそも、店で手に取らずに武器を得ること事態がおかしいことに、なぜ気づかんのじゃ?

 使い手の能力、体格や腕力によって、あわせた武器を選ぶからこそ意味がある。

 もしあわないのであれば、あわせるように作るからこそ意味がある。

 単なる金属の塊が欲しくば、他所へ行けばいい」

自分で考えて選ぶことも、使い手にあわせた武器を選ぶことも大切。

自分の命を預けるものなんだから、それは、たしかに当然のことなんだろう。

「俺は、師匠からこれを受け取っただけで、考えたこともなかったな」

師匠からダガーを渡されてから、ずっとこいつを握り続けている。

使っては鍛えてもらい、手入れをして、共に生きてきた。

「お前さんの場合は選択の余地がなかったんじゃ、考える必要もない。

 だから、武器に関する注文は、全てワシがそいつに反映させてきたじゃろうが。

 断言してもいいが、それ以上にお前さんの手に馴染む武器など存在せんわい」

そこまではっきり言われると、かえって気分がいいな。

自分の手がけた物への絶対の自信とこだわり、だからこそ、使い手も気分よく使える。

やはり、アイシスの武器を頼むとしたら、ここしかない。

「ほれ、持っていけ」

「代金は?」

「お前さんの師匠たちから、もう受け取っておるわい」

「…そうか」

してもらう一方で、師匠たちには何も返せていない。

こんなことじゃ、いつまで経っても恩返しができないな。

「お前さんが気づいておったか知らんが…。

 食器に刻まれているのは、セイルスの家紋じゃ。大事に使ってやれ」

何気なく付け足された言葉に、胸の奥が熱くなる。

師匠たちの家紋が…俺の食器についているなんて、気にしたこともなかった。

「ありがとう」

手渡されたものを片手にさげて、小さく礼をする。

ロウに…そして、俺のために用意してくれた師匠に対して。

「そのうち、本業を頼みにくるかもしれない」

「誰のものじゃ?」

「俺と刃を交える者…かな」

「なんじゃと?」

「あくまで可能性だが…な」

怪訝な顔のロウにあいまいに答えて、薄暗い店を出た。

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