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DAGGER 戦場の最前点  作者: BLACKGAMER
DAGGER -戦場の最前点-
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05章 驚く少女-5

【ティスト視点】


ユイは夕飯の準備にライズ&セットへ戻り、俺とアイシスで街から出て、草原に並んで立つ。

いつものようにダガーをかまえている俺の横で、アイシスが持ち方を真似る。

「片手で扱えないなら、両手にしてもいい」

「いえ、このくらいなら…」

苦もなく、その姿勢で制止する。

腕力と握力で、十分にダガーを支えられていた。

「そういえば、クリアデルでは何を使っていたんだ?」

以前に使っていた武器があるなら、その武器の癖も残っているだろう。

それに、間合いの短い武器にまったく慣れていないなら、それなりに教えておいたほうがいい。

「以前は…」

言葉を区切り、アイシスが俺から視線を外す。

「大剣を…使っていました」

「大剣…ね」

小さく復唱しても、アイシスからの否定はない…聞き間違いではなさそうだ。

大剣なんて、アイシスの身長と同程度のものも珍しくない。

小柄なこの体格では、まず使いこなせない代物だろう。

「どうして、大剣を使っていたんだ?」

「それを使えるようになれば、認めてやると」

言い辛そうに視線をそらして、アイシスがつぶやく。

「そうか」

さっきの奴らなら、簡単に想像ができるな。

扱えないことを承知の上でそんなことを言い出し、アイシスを嘲笑っていたんだろう。

「最初は、持ち上がりすらしなくて…。

 持ち上げても、打ち下ろした後は無防備になって…」

満足に振り回すこともできない武器では、偶然に負けることもありえない。

アイシスが勝てなかったというのも、至極当然なのかもしれないな。

「そのダガー、今使ってみないか?」

「え?」

「ロウとも約束したわけだし、一度も使ったことのない武器を持って行くより、不安はないはずだ」

少しでも手に馴染ませておいたほうが、何かあったときに武器に心を許せる。

それに、ロウが冷やかしや一見の客に見せないような秘蔵の一品であるなら、アイシスの心を武器が掴むこともある。

「えっと…」

戸惑いながら、アイシスが俺へと向かい、ダガーを強く握り締める。

「初めてなんだから、思うとおりに振ってみればいい。

 振りにくいと思ったら、少しずつ変えてみるんだ」

「はい」

アイシスの一撃を正面から受け止め、澄んだ綺麗な音が響く。

見事な一直線の振り下ろしだ、少しでも左右に揺らげば、音はすぐに鈍る。

「続けていいぞ」

一撃で止まっていたアイシスが、たしかめるように次の攻撃を繰り出してくる。

相手の腕に負担が掛からないように、丁寧に攻撃をダガーで受け止めていく。

「?」

急に手を止めると、不思議そうな表情でダガーをじっと見ている。

「どうした?」

「いえ、音が…大きくて」

耳の奥まで響いてくるような重量感のある音は、慣れないと耳に痛いかもしれない。

それに、全力でないのにここまで音が響くのが、不思議でしょうがない…か。

「綺麗な音だろう? 太刀筋が良くなければ、こんなにいい音は出ない」

「え?」

「続けてみれば、お世辞かどうかはダガーが教えてくれる」

「…?」

半信半疑で、アイシスがもう一度ダガーを振るう。

今度は、アイシスの角度から少しずらして攻撃を受け止めた。

「…!?」

鈍い音とともに、俺の腕に痺れが走る。

きっと、アイシスが感じた衝撃は俺よりもずっと強烈だろう。

「言ったとおりだろう?

 余計なことを考えないで、ダガーに慣れることに集中したほうがいい」

「はい」



体重の乗せ方、姿勢の制御。

通るべき軌跡と、そのときに力を入れるべき場所。

だんだんとアイシスが掴み始めているのか、おぼつかない動きが、少しずつ安定し始める。

明日に疲れを残さないなら、このぐらいで終わらせておくべき…か。

「………」

攻撃が途切れた一瞬で、アイシスが飛び込めないように立ち方を変える。

「いくぞ」

小さく一言だけ呟いて、アイシスのダガーに目掛けて俺のダガーを振り下ろした。

「…!」

鈍い衝撃が腕へと伝わり、一際大きな音が響く。

ダガーを離してもいないし、受け止めた腕も流されていない。

あの一撃を受け止める腕力を養えたなら、大剣を持っていた意味は十分にあるな。

「受けきれた…か。初めてダガーを握ったとは思えないな」

「ホント、すごいじゃない」

いつからそこにいたのか、長い髪を風に揺らされて、シアさんが微笑んでいる。

そこそこ周りには気を配っていたつもりだが、そんな程度で気づける相手じゃないな。

「二人とも、楽しそうでいいわね」

「いえ、そんな…」

「しかめっ面や恐い顔しても、効果があがるわけじゃないわ。

 だったら、毎日続けてもいいと思うぐらい、イヤじゃないほうが大事よ」

否定するアイシスを、歩きながらシアさんが優しく諭す。

そのまま近づいて来たかと思うと、すっと細い腕が俺とアイシスの肩へと巻きつく。

次の瞬間には、二人ともシアさんの頬が触れるぐらい近くに、抱き寄せられていた。

「え…と…」

戸惑って、アイシスが身体を離そうとする。

抵抗しても無駄…アイシスも、すぐに分かるだろう。

「ほらほら、二人とも遠慮しないの」

ふわりと鼻をくすぐる、甘い匂いに包まれる。

それだけで、さっきまでの疲れなんて、吹き飛ばされてしまう。

「………」

しばらく抵抗していたアイシスの反応を満足そうに笑い、シアさんが俺たちを解放する。

警戒しているアイシスは、さっきより疲れたみたいだった。

「今度、ティストちゃんに私の相手もお願いしようかしら。

 ここのところ、ちょっと運動不足なのよね」

腰に手をあてて、シアさんが小さくため息をつく。

運動不足でそれだけ綺麗な体型を維持できるんだから、すごいとしか言いようがない。

「その相手は、帰ってきたら…で、いいですか?」

「もちろん。約束よ」

楽しそうにシアさんが笑う。

ユイと同じ、屈託のない笑顔は見ていて気持ちが良くなる。

「さ、帰りましょ」

自然にアイシスの手を取って、シアさんが歩き出す。

その微笑ましい姿を少し後ろから眺めていようとしたら、俺にも手が差し出される。

「ほら、ティストちゃんも」

「………」

さすがに、この年で子供のように手を繋ぐのも、なんだか恥ずかしい。

「手を繋ぐより、腕を組む方がいい?」

悪戯っぽい笑顔で、シアさんが上目遣いに覗き込んでくる。

観念して手を差し出すと、シアさんの指が俺の指に絡められた。

「よかったわ」

「何がですか?」

「あんまりやりすぎると、ユイがむくれるから」

気恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じながら、ライズ&セットまでの家路を辿たどった。

この人には、いつまで経ってもかなわない。

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