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DAGGER 戦場の最前点  作者: BLACKGAMER
DAGGER -戦場の最前点-
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04章 悩む少女-2

【ティスト視点】


「この程度の報酬じゃ、労力には見合わねえな」

「もっとマシな仕事をしにいくか」

ギルドの中に入ると、何人かの男たちが壁際に立ち、紙を指差して大声で話している。

大小と身長差の激しい二人がそう話して、その団体が出口へと向かう。

どうやら、前の二人が奴らの頭らしいな。

我が物顔で広がって歩き、笑いながら出て行く奴らを横目で見送る。

「今日は何が掛かることやら」

すれ違いざまに集団の中の一人が呟いた言葉が、耳に残った。

『何が掛かる』

とても猟師に見えないその男たちの卑しい笑いから、やることは想像がついた。

「…ふぅ」

思わずため息をついてしまうが、俺と関わらない以上、何もしようがない。

そんな言葉を聞くたびに誰かを相手にしていたら、どれだけ殴り倒しても終わらない。

「リスト、もらえるか?」

奥にいるカウンターの中、くたびれた椅子に座る男へ声をかける。

無愛想に俺を睨みつけると、あてこするように酒瓶に口をつける。

まったく、大した接客だ。

「どれにするんだ?」

「一番安いのでいい」

「チッ…」

面倒くさいと舌打ちをしてリストを取り、俺へと放り投げる。

紙で三枚…俺はさっと目を通して、間違いないことを確かめる。

そうでもしないと、間違えたと白紙をよこしたり、インクが滲んで読めないものを平気で渡すからな。

「ここに置くぞ」

代金をその場において、壁沿いに歩き、敷き詰められた小さな張り紙に目を落とす。

ここにあるほとんどは、リストの元になっている情報だ。

『食材となる木の実と果物を何個ずつ集めて来る』

『行商人の運送の手伝い』

まるで、臨時の日雇い作業だな。

こういう条件なら、アイシスの希望にあうのか?

少しずれると、そこに書いてあるのは探し物。

宝石、本など、自分が探しているものの名前を書き殴ってある。

こちらのほうが、さっきよりも字は綺麗で丁寧、依頼主の連中が筆をよく握っている証拠だ。

「ん…?」

依頼の中には、盗まれた物の回収が多いな。

どこの街道で、他の国に向かう道中に、状況は違っても野盗に取られたものが大半らしい。

発見の可能性を少しでもあげようと、出来る限りの情報を提供しているらしいが…無駄なことだ。

取られた場所を指したところで、そこから見つけられる可能性なんて無に等しい。

無くしたならまだしも、盗られたなら、使われているか売り払われてしまっている。

だが、諦められるくらいなら、こんなところで依頼したりしない…か。

もう一歩横にずれると、手配書、探し人の類。

どっちにせよ、捕まえて連れて来いという意味で、どうやら一括りにされているらしい。

昔は、悪事を働いた賞金首は、生死を問わず…という条件だったが…。

本人確認ができないような死体を持って賞金を得た輩が一人、そして、また一人と増え。

そんな不埒物ふらちものに対処するために、生かして連れて来ない限り賞金が出ないこと取り決めができた。

背格好が似ているとだけで殺されては、たまったものじゃない。

「ここにも、盗賊の話が多いな」

どこで見た、どんな背格好だった、何を盗られた、どの話にも、多少の誤差はあるが…。

五人組。

盗賊討伐と書いてあるものは、大体これが書いてある。

そういえば、さっきまでここにいた連中も五人組だったな。

壁を埋め尽くすように書いてある目撃証言や被害情報は、異常なほど多い。

これほど派手に動いているなら、そのうち騎士団に捕まるだろう。

「これで、一通り…か」

ひとしきり見終えたことに満足し、ギルドを後にした。



大通りに出ると、そこかしこから焼きたてのパンや肉を焦がす香ばしい匂いが、空っぽの胃を刺激する。

そういえば、アイシスに朝食の用意をしただけで、何も食べていなかった。

家に帰ってからでもいいが、時間が中途半端になる。

それに、ラインさんやシアさんにも挨拶しておかないといけない。

毎度、あれだけお世話になっているのに、来いと言われたときに知らんふりはできない。

人混みを避けながら、俺は足早にライズ&セットへと急いだ。



「…遅かったか」

昼食時は書き入れ時。

賑わうライズ&セットの前には、長蛇の列が出来ている。

最後尾に並ぶと、俺の後ろにも瞬く間に列ができる。

相変わらずの大盛況だ。

誰もが至福の表情で店を後にし、待望の顔で代わりの人間が中に入っていく。

大通りの一等地に相応しいだけの愛され方だと思う。

そんなことをぼんやり考えていたら、待つことはそれほど苦痛じゃなかった。

美味そうな料理の匂いが胃を刺激しすぎることを除けば…だが。



「いらっしゃいませー」

明るく弾んだ声が店内に響いて、ようやく俺が歓迎される番になる。

「あら、ティストちゃん。律儀に待ってたのね、偉いじゃない。

 じゃあ、指定席にご案内ね」

今しがた空いた席ではなく、俺をいつもの席に案内してくれる。

店がこんなに混雑しているのに、そこには誰も座っていなかった。

「使ってないんですね、この席」

「誰が使っても、ユイのご機嫌が斜めになるだけだからね。

 あの子、ティストちゃんのことだけは一歩も譲らないの」

シアさんの楽しそうな笑顔に、俺のほうがなんだか気恥ずかしくなってしまう。

ただ、そうまで大切にしてもらっていることが、嬉しかった。

「そんなティストちゃんには、専用ウェイトレスを用意するからね」

素敵な笑顔を見せてくれた後に、他のテーブルの空いた皿を片付けながらシアさんが奥へと消える。

少しの間があって、足音が二つになって戻ってきた。

「ティスト、いらっしゃい」

シアさんとユイが、シルバートレイに乗せられるだけの料理を載せてきてくれる。

注文もまだなのに、俺の好きなものを見繕ってくれたみたいだ。

「じゃ、後はごゆっくり」

悪戯っぽい笑顔を残して、シアさんが他のテーブルに料理を運びにいく。

ユイは嬉しそうな顔で、俺の対面に腰を下ろした。

「来てくれたんだ」

「この前、また来るって約束したからな」

「ありがと」

俺の向かいに座ったユイが、頬を赤らめながら目を細める。

こうして嬉しそうな顔をしてくれると、来て良かったと素直に思える。

俺が料理を食べている間、ユイは楽しそうに向かいで微笑んでくれた。



俺が食べ終わったときには、椅子の半分以上が空席になっていた。

どうやら、客足も一段落したみたいだ。

「おう、久しぶりだな」

低い声に振り返ると、一仕事を終えたラインさんが厨房から出てきていた。

筋肉質で身長も高く、その巨躯に覗き込まれると圧倒されてしまう。

「お邪魔してます」

「お父さん、お疲れさま」

「時間が中途半端だな」

壁掛け時計に目を向けて、ラインさんがそうぼやく。

酒を飲むには速すぎるし、飯を食べるには遅すぎる…たしかに、微妙な時間だ。

「今度、もう一人連れて、ゆっくりお邪魔します」

「ああ、楽しみにしてるぜ。

 たまには、気の許せる野郎とゆっくり飲み明かしたいもんだ」

豪快に笑って、ラインさんが厨房へと戻っていく。

きっと、忙しかったのに、俺のためにわざわざ来てくれたんだろうな。

「お母さんが言ってたけど…。

 あたしもお母さんも女だから、お父さん、寂しいみたい」

男を相手にするほうが気兼ねがない…って気持ちは分かる気がするな。

「お父さんね、ずっとティストとお酒を飲むの、いつも楽しみにしてるの。

 それは、お母さんも、あたしもだけどね」

そうやって笑ってくれるのは、本当にありがたかった。

今度は、とっておきの酒を買ってこないとな。



来客を告げるベルが鳴り、小さな足音が店の賑わいの中で響く。

一度立ち止まったかと思うと、こちらの席に向けて一直線に足音が向かってきた。

その足音が気になり、俺は振り返って、こちらに歩いてくる姿を見た。

背中まで掛かる綺麗な金髪を揺らして、細身の女性がこちらへと歩いてくる。

襟元や袖口を飾る白の純白さや、混じりっ気のない金ボタンは、貴族でしかあつらえられないだろう。

頭の帽子と眼鏡が知的な雰囲気を醸していた。

「お食事中に邪魔をして申し訳ありません」

テーブルの横に立った女性が、透き通った綺麗な声で告げる。

知らない顔だ…ユイの知り合いか?

「ユイ、ちょっといいかしら?」

「あ、今日は…その日だったね」

相手の持っている荷物を見て、ユイの表情がわずかに曇る。

「席を外そうか?」

「ううん、大丈夫。

 これは、ティストにも関係あることだから、ここにいて欲しいの」

ユイの言葉に視線をこちらへと動かし、俺の瞳を真っ直ぐに捉えた。

ここまで熱心に顔を見られるのは、不思議な感じだな。

「貴方が、ティスト・レイア様ですか?」

「そうだが、貴女あなたは?」

「申し遅れました。ファーナ・ティルナスと申します」

貴族としての優雅で洗練された振る舞いで、恭しく頭を下げる。

その誠実な態度は、俺に向けられるには丁寧すぎて、恐縮してしまう。

「場所を変えて、少しお話させていただけませんか?」

「ああ、かまわない」

「ユイ、貴女の部屋を貸してもらえるかしら?」

「うん、大丈夫だよ」

俺と話したい…か。

どんな話を持って来たのか、まるで想像がつかないな。

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