エピローグ
「勝者はガイアか。久しぶりだね。あの子が勝つなんて。」
「うむ。有言実行となったわけだ。アンジュももう少しだったが、あと一歩届かずか。残念ながら人間が殺された場合、妖怪は死ぬが、妖怪が死んでも人間は死なない。このゲームの主役は人間。妖怪はあくまでサポート役。」
画面に映された紫色の水溜り。液体となった彼女を見てイザナミは切なそうに溜息を吐く。
「麦茶も無駄になっちまったね。二人で飲むかい?」
「うむ・・。たまには悪くないな。」
「だけどワイングラスで麦茶というのもなんだかね・・・。」
クスリと笑いながらワイングラスにトクトクと麦茶を注ぐ。差し出された麦茶を一気に飲み干す牛頭鬼。そして、香りを嗅いだ後、牛頭鬼と同じように一気に喉に流し込むイザナミ。
「香ばしいな。麦茶も中々、美味いではないか。」
「フーッ・・。そうだね。・・・これからこれを飲むたびにあの子を思い出しそうだね。」
グラスを軽く回し、残った麦茶を揺らすイザナミ。その切ない表情のまま、隣に置いてある煙管に手を伸ばす。
「弥太郎の奴との相性も良かっただけに残念だね。いいコンビだったのに。」
「そうだな。すまんな、協力してもらって。何分、私一人じゃアンジュのジオラマの中は見れなくてな。」
「気にするな。私もあの子の戦いを見たかったし。それに、それだけの価値はあったよ。」
イザナミの作ったジオラマはどこでも見ることが出来る。だが、アンジュの作ったジオラマの中は見る事が出来ない。その為、同じくジオラマを作る事の出来るイザナミに中を映せるよう協力してもらっていた。
「弥太郎の奴も浪岡は殺せたんだ。それも屈辱的に。それだけでもまだ救われただろうね。」
「・・・浪岡稔。地獄で戦っている事から分かる通り、彼はもう人間界には存在しない。彼は20年も前に他界した人間だ。」
後ろの本棚から一冊の本を取り出し、ペラペラと捲るイザナミ。そして、あるページで手を止める。
「見せてもらったよ。浪岡の経歴。出所後に『川野 健一』と名前を変え、生活を始める。だが、人付き合いが下手でトラブルが絶えず、どの仕事も長続きしない。やがて再び部屋に籠り始め、その後、自室で首を吊り自殺をする。」
「まあ、よくある話だ。仮に彼が勝者となっていたなら、彼は何を願ったのだろうか。」
「さあね。それは浪岡で無いと分からないよ。それこそ星の数ほど欲望があるんだから。」
煙を吐き出し、遠い目を浮かべるイザナミ。煙草盆に雁首を打ち付け灰を捨てる。
「・・それじゃあ勝者に会ってやるか。久しぶりだね、あの子に会うのも。」
「変わっていないぞ。相変わらずの生意気さだ。」
「ふふっ・・。牛頭鬼とは性格が合わないかもね。紳士の欠片も無い男だし。」
シャワーを浴び、くつろいでいたガイアを部屋へと招き入れる牛頭鬼。
「久しぶりだねガイア。まずはおめでとう。」
「・・イザナミ。ふっ。牛頭鬼から言葉は聞いたか?言った通り、勝ち残ってやったぜ。」
「聞いてるよ。どうだった今回は?昔の仲間を殺したんだろ?」
「仲間?もうそんな関係じゃないのはお前がよく知ってるだろ。」
皮肉交じりのイザナミの言葉。その言葉を適当に流し、用意された麦茶に口を付けるガイア。
「珍しいな。前はいつも紅茶ばっかり飲んでたのに。」
「今もそうだよ。『たまにはいいだろ』と思ってね。日本人のあんたには慣れ親しんだ味だろ?」
「まあ・・。ワイングラスで飲むのは初めてだけどな。」
麦茶でのどを潤し、お茶菓子を食べるガイア。久しぶりに口の中に広がる甘みが彼の疲労を癒す。
「うめえな。これ。」
「栗饅頭だよ。獄中暮らしで菓子なんて食べる機会も少なかっただろ。気に入ったんなら好きなだけ食べな。」
一つ二つと包み紙を開け、栗饅頭を味わうガイア。余程気に入ったのか、その手が止まる様子は無い。
「さて、雑談は終わりだ。単刀直入に言う。ガイア君、君の願いは何だ?蘇りか?それとも転生か?その場合は記憶を消させてもらうが。」
「遠慮するよ。再び現世に戻っても俺は殺人を繰り返す。そして、いずれは捕まり同じ道を辿る。それに、この経験を失って生まれ変わる気も無い。」
「ほう・・。だとすればどうする?ここに居座る気か?」
「へへっ・・。半分当たり。俺を次のゲームにも参加させてくれ。」
紅茶を飲み干し、一息つくガイア。悩んだ様子も無く、元から決めていたであろう彼の願いを不思議に思うイザナミ。
「次のゲームへの参加?それがガイアの願いか?酔狂にも程があるね。」
「分かんないだろうな。俺はもう死んだ人間だ。現世に生き返ろうなんて思いはこれっぽっちも無い。だが、私利私欲は満たしたくてね。簡単に殺人を行える環境。それが欲しいんだよ。」
「人間を殺すだけではだめなのか?潰れた魂であればいくらでも用意できるが。」
「違げえよ。狙われてる状況で殺すから面白れえんじゃねえか。解体するのが目的じゃない。一方的に追い込むのも悪くは無いが、それだけじゃ物足りない。」
「なるほど・・。」
ガイアの言葉をそれなりに理解する牛頭鬼。
(どうやら魅せられているのは殺害では無く殺し合い。殺す事で得る快感とは別に命を狙われる危機にも憑りつかれているらしいな。)
「・・・よかろう。だが、ゲームに参加する以上、消滅の危険がある事を覚えておけ。常に勝負は参加者に対等な条件で行われる。もし、負ける様ならば・・・。」
「分かってるよ。じゃあ、願いは叶えてくれるんだな?」
「ああ・・。君は勝者だ。その願い、叶えてやろう。」
こうして今回のゲームは幕を閉じた。パートナーであるカナンダは死に、ガイア一人が生き残る結果となった。殺し合いに魅せられたガイア。死ぬまで止まらないであろう彼の狂気。彼を葬る者はいつ現れるのだろうか。




