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哀願

「痛てえ!痛ってえ!!!」

 右足を押さえ、激痛に耐える浪岡。のた打ち回りながら赤子の様に叫び声を上げる。

「ぐ・・・ぐおおお・・・。」

「いいザマだな。浪岡。」

 浪岡の前に姿を現した弥太郎と、一歩引いて弥太郎を見つめるアンジュ。

「・・・に、蜷川。」

「これから何が起こるか分かってるだろ?・・・死刑執行だ。」

 拳銃を突きつけ、威圧する。立場は完全に逆転し、涙目で弥太郎を見上げる浪岡。

「た、頼む・・。許してくれ。」

「は?何を言ってやがる。てめえは俺が全人類で一番憎んでいる人間だ。許す訳無いだろ。」

「・・・・。」

 命乞いをする浪岡とそれを受け入れない弥太郎。そして、そのやり取りをアンジュは無言で見続ける。

「お、お前の妻や子供の事は悪いと思っている。・・俺の突発的な行動だ。すべて、俺に非がある。」

「口でなら何とでも言える。その場の都合でベラベラ喋るな。反吐が出る。」

「ほ、本当だ。実際、俺は獄中でも罪の意識に潰されそうになり生きて来た。反省している。・・本当にすまなかった。」

「っ・・・。」

 許しを請うためのセリフ。だが、その言葉の薄さに弥太郎は苛立ちを覚える。

「ふざけるな!!!」


『パァン!!』


「ガアアアアアアッ!!!」

 腹部を撃たれ、叫び声を上げる浪岡。言葉では弥太郎から許しを得ることは出来ない。だが、浪岡にはもう謝罪の言葉を述べる事しか出来ない。

(す、隙だ・・・何としても隙を衝ければ・・・。俺にはまだ爆弾がある。)

「ゆ、許してくれ許してくれ。」

 土下座し、何度も何度も額を地面に押し付ける。そして、その体勢のまま動くことを止める。

「てめえ・・・ふざけんな!!」

「ガッ!!」

 弥太郎は浪岡の頭を蹴り飛ばす。衝撃に耐え切れず、浪岡は床の上を転がった後、身を起こそうとする。

「ぐ・・。」

「どうした?てめえの土下座は頭を蹴り飛ばされただけで終わるのか?てめえが思う最大限の謝罪の表現だろ?続けろよ。」

「う・・・。」

 弥太郎の言葉を聞き、浪岡は一瞬固まる。だが、彼の言葉を受け入れ、再び地面に額を擦りつける。

 爆弾が付着している可能性を考え、靴を脱ぎ捨てる弥太郎。そして、二発の弾丸を彼に打ち込む。痛みに対して、浪岡の悲鳴が段々と小さくなる。

「・・・アンジュ。」

「な、なに?」

「以前、『金』の話をしたよな?」

「う、うん。人間の欲しい物が手に入るって言う。」

「そうだ。教えておく。人間にも金で手に入らない物は存在する。それは死んだ人間だ。蘇生法が無い人間界では、いくら金を積もうとも死者を生き返らせる事は出来ない。こいつは俺の愛する人間を亡き者にした。それは分かるな?」

「・・・うん。」

「死者は蘇らない・・。だが、最低限の謝罪を証明する手段がある。それが『金』だ。」

「・・・・。」

 土下座を続ける浪岡に銃を突きつけたまま、弥太郎は言葉を続ける。

「賠償金ってやつだ。裁判の結果と言うのは絶対的でな。当然こいつにも支払う様に命じられた。だが、こいつが今まで収めた金額。・・0円だ。」

「0?無しって事か?絶対何だろ?なんで?」

「はっ!そいつはこっちが聞きたいね。なにが『悪い』だ『すまなかった』だ!最低限の事さえ出来ない奴の言葉を信じれる訳ねえだろ!」

「ぐ・・・。」

 激昂する弥太郎に、自分の言葉が届かないと確信する。そして、彼が自分にトドメを刺す時が近づいている事にも気付く。歯ぎしりをし、打開策を練る。だが、どうしても詰んでいるこの状況で、そんな策など出て来ない・・・。

「く・・くそ・・。」

 涙を流し、弥太郎に殺意の眼差しを向ける。だが、弥太郎も引かない。拳銃を突きつけ、浪岡を睨み返す。

「う・・うわああ!!!」

 右手を伸ばし、浪岡を掴もうとする。その瞬間。


『パァン!!パァン!!パァン!!パァン!!パァン・・・』


 幾つもの銃声が響く。室内で反響し、その度に浪岡の体が血で染まる。だが、弥太郎は引き金を引く指を止める事は無い。何発も何発も同じ行動を繰り返し、彼の命が尽きても尚、銃弾を撃ち続ける。やがて・・・。

「はあ・・はあ・・はあ・・・はは・・はははっ・・・。」

「・・・や、弥太郎。」

「はははっ・・・。ざまあみろよ。動かないでやんの。」

 亡骸となった浪岡の体を蹴り飛ばし、乾いた笑い声を上げる弥太郎。何度も何度も蹴り飛ばされるが、物と化した浪岡の体はその衝撃を受け入れ続ける。

「弥太郎・・・満足したか?」

「・・・。」

「敵討ちだったんだろ?どんな気分だ?」

「気分は良いさ。だが、敵討ちなんて聞こえの良いもんじゃない。殺すのが目的なら、簡単に殺していたさ。甚振り、弄び、その度心が昂り・・・。結局、俺もこいつとあまり変わらないんだろうな。」

 弥太郎も知らなかった自分の感情。平穏の中で暮らしてきた彼にとって、ここまで気持ちが昂った事は無い。我を忘れ、引き金を引き続き恨みを込めた銃弾が次々と浪岡の体に突き刺さる。浪岡の泣き顔、崩れた姿。すべてが最高のスパイスとなり、今までの恨みすべてが解き放たれた。最中、前妻の姿も愛娘の姿も思い浮かべる事無く。

「・・・愚かな生き物だな。人間ってのは。アンジュ。お前の言っている事が良く分かったよ。」

「ううん・・。ただ、弥太郎。この感情は知らなかった方が良かったのかも知れない。さっきのあんた、完全に壊れてたからさ・・・。」

「・・・大丈夫だよ。もうしない。後にも先にもこいつ以上に恨みを持った人間は居ない。それに現世でこれをやったら俺は犯罪人だ。言っただろ?家族が居るんだ。」

 心配するアンジュに笑みを見せる弥太郎。彼女の頭を優しく叩き、大きくため息を吐く。

「さて、じゃあ戻るか。ゲームとやらは続いているんだし。」

「あ、ああ・・。」

「敵はあと一人。俺は現世に戻りたいんだ。」

「そ、そうだな。帰還の権利も手に入れた事だし。これは大きな強みだ。」

 表情が元の弥太郎に戻り、少しほっとするアンジュ。そして、妖術を使い、元の世界へ戻ろうとする。

 彼女が妖術を発動する寸前、浪岡の遺体を見て弥太郎は長年の恨みが晴らされた事を改めて実感する。

「・・・・・。」

(これで・・終わったんだな。)


「うっ・・眩しい。」

 木漏れ日が弥太郎の目に刺さり、思わずそれを手で遮る。木が倒れ、焼け野原になった一帯。浪岡と戦闘を繰り広げた場所に戻って来た二人。

「!!」

「アンジュ?」

「弥太郎!気を付けろ!!」

 アンジュが何かに気付き、後ろに居る弥太郎の顔を見ようとした瞬間。


『パァン!!』

「!!」

 森の中から銃声が響く。そして、弥太郎の体が『ぐらり』と揺ら突き、ゆっくりと地面に倒れる。その様子を目の当たりにし、アンジュは一瞬、硬直する。

「や、弥太郎――っ!!!」

 叫び声を上げる間もなく弥太郎は倒れた。脳天を撃たれ、出血する。体がビクンビクンと痙攣を起こし、アンジュの呼びかけにも反応を見せない。

「カナンダ!!居るんだろ!!?」

 指輪から伝わる刺激。シンと対峙した時と同じくらいの強い事から、かなり近い場所に潜んでいる事が分かる。

「死んだか。さすがに頭を殺られちゃ生きてはいれないだろ。」

 現れた一人の人間。そして、その隣で彼と同じようにニヤリと笑うカナンダの姿。

「アンジュ。まさかお前が生き残っていたとはな。その小さい体でよく頑張った。褒めてやるよ。」

「・・・てめえ。うっ!!」

 カナンダを睨みつけた瞬間、アンジュの体に異変が起こる。息がつまり、呼吸が出来ずに苦しみだす。

(こ、これ・・弥太郎が死んだから・・・。)

 紫色の液体となり、消滅したシン。パートナーを失った妖怪が最後に辿る末路。その姿がアンジュの脳裏によみがえる。

「ふぉっふぉっふぉ。この状況では権利も役には立つまい。我々の勝ちじゃな。」

「これがカナンダの仲間か。聞いてはいたが、こんなに小さいとはな。可哀想に、まだ子供じゃないか。」

 苦しむアンジュを見て勝利を確信するガイアとカナンダ。彼女の体から煙が上がり、消滅の時が近づく。

「ぐ・・があ・・。」

(だ、だめ・・。視界が歪む・・。)

 目の前がぼやけ、自分の死期を悟る。そして、立つ事すら出来ず、二人の前で両膝を着く。


『パァン!!』

「?」

 突然の銃声。カナンダは思わずガイアを見る。だが、ガイアは銃を下ろし、発砲した様子は無い。だが、彼の顔から勝利の笑みが消えていた。思わずその視線の先を見る。

「・・・外したか・・だけど。」

『パァン!!パァン!!』

 銃声が再び響く。そして、発砲された弾丸はカナンダを捉える。不用意な接近を行い、その弾丸から逃れることは出来ない。

「何故・・お前が拳銃を・・・。」

 拳銃を所持しているのは人間。爆弾を持たない人間ならば尚更。アンジュのパートナーが彼女に拳銃を渡したとは思えない。だとすると、出てくる答えは一つ。

(そ、そうか・・。携帯と同じように誰から奪いやがったな・・・。)

 彼女が所持している理由に気付いた瞬間、カナンダは地面に倒れ絶命する。

「馬鹿が・・油断したな・・・。」

(浪岡の拳銃を拾っておいて良かった・・・。カナンダさえ殺せば・・・。)

 ガイアの顔を見つめ、そしてゆっくりと彼女の意識は消えて行く・・。

「死んだ・・か。」

 煙を上げ、液体となっていくアンジュとカナンダを呆然と見つめるガイア。もう一つの弥太郎の死体に目を移し、その後、黒い携帯を見つめ、画面に誰も表示されていない事を確認する。

「へっ。これだけ近づけば印は一つだわな・・・。」

 画面に表示された印は一つ。少なくとも、ジオラマ内にはこの場所以外に生存者はいない。権利を使い、帰る事を考えたその時、ジオラマ内に声が響く。

「おめでとう。藤村君。君は見事、ゲームを制することに成功した。」

 パチパチと拍手の音と共に響く声の主。その主が牛頭鬼であることに気付くガイア。

「へっ・・。牛頭鬼か。」

「こちらにも色々と準備がある。君も疲れただろう。帰還を使い、しばらく部屋で休むが良い。」


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