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虫唾

階段を昇り、2階へと行こうとする。

「隠れては居ないと思うが。とりあえず1階は何も無かったな。」

「外観からすると、ここは3階建ての建物じゃ。次の回あたりに忍んでそうな気はするが・・。」

「ああ・・。だが、本体よりも気を付けなければいけない物がある。それは・・・。」


『ドゴオオォオオン!!』


「!!・・・こいつだよ!!」

 突然階段の天井が崩れ始める。咄嗟に後ろに下がり、落ちてくる瓦礫から逃れようとするガイア。

 廊下に倒れ込み、難を逃れた事に安堵する。

「ふーっ・・。ふざけた真似しやがって。」

 階段に溜まった瓦礫に目をやる。逃げ遅れていたなら、自分はあの瓦礫の下だったろう。大小の瓦礫を見て、冷や汗を流す。

「大丈夫か?」

「まあ・・な。・・うっ!!」

 立ち上がろうとした瞬間、右足に痛みが走る。

「ちょっと捻っちまったかな。まあ、外傷でもないし、大丈夫だろ。」

「見せて見ろ。」

 ガイアの足に手を当て、妖術を使うカナンダ。その瞬間、吸い上げられるようにガイアの足から痛みが消える。

「!!・・・すげえ。」

「なに、これくらい朝飯前じゃ。傷口に触れなくても治せるが、触れると治りが早いのでな。もう治っただろ?」

「あ、ああ・・。」

 立ち上がり、痛みが無いか調べてみる。さっきまでの痛みは無く、錯覚かと思わせる程であった。

「それよりどうする?2階に行くなら入口の方にもう一つ階段はあったが。今なら帰る事も可能じゃ。体勢を立て直すのも悪くは無い。」

「・・・いや、このまま進む。爆弾を使ったとなると次の爆弾の心配は無い。それよりあいつらの動きはどうだ?」

「・・今のところ、動きは無いな。」

「よし、瓦礫を昇り、2階に行く。3階への道は無くなってしまったが2階までなら行けるだろう。」

 瓦礫に気を付け、慎重に階段を昇る。ぽっかりと穴が開き、上への階段が綺麗に無くなっていた。

「やってくれたな・・・。」

 爆弾の破壊力を物語る大穴。威力は『大』。コンクリート製の階段を潰す程の爆発。まともに当たればどうなるか・・。思わず苦笑いを浮かべるガイア。

 2階へと昇り、辺りを見回す。物音ひとつせず、人の気配は無い。だが・・・。

「ガイア!・・敵が動いておる。こっちに向かっておる!」

 携帯を見て、異変に気付くカナンダ。印が僅かに動き、こちらに向けて移動していた。

「廊下に人影は無い・・。違う!攻撃を仕掛けている訳じゃない。これは、逃げている!!」

 人影が無いのを見て確信する。奴が居るのは2階より上。つまり3階か屋上。爆弾による攻撃が失敗に終わったからか、敵が自分達から逃げようとしている事に気付く。ダッシュで敵を追いかけ、反対側の階段へと走るガイア。

「印をすり抜けた・・。その通りじゃ。奴は上の階に居るぞ!!」

 印は一度、画面上で重なり合い、すぐに二つに戻る。すり抜けたのを見て、敵が上の階に居る事が明らかになる。

「逃すかよ!!」

(逃げる?どこに?)

 口に出した瞬間に自問自答する。この先は屋上。それに、逃げるならば帰還を使う筈。『もしや・・』と思い、階段の前で急に足を止めるガイア。

「どうした?」

 走るのを止めたガイアを不思議に思うカナンダ。そして、次の瞬間。


『ドゴオオオオオオン!!』


「!!」

「やはりな。・・罠だったか。」

 爆風が顔を掠め、ガラガラと階段が崩れ落ちる。

「爆弾?よく気付いたな。」

「いや、半信半疑ではあった。俺にも分からない事がある。」

 あのまま走り続けていれば、死んでいた。爆弾の威力を見て、肝を冷やすガイアとカナンダ。

「爆弾は使用後、再び設置する必要がある。だが、奴にそんな動きは無かった。」

「う・・うむ。索敵画面は注意して見ていたからのう。それは間違いない。」

「じゃあ、なんでここが爆発する?」

「わ、ワシを疑っておるのか?」

 ここに来るように誘導したと思い、困惑するカナンダ。

「違う、そうじゃない。つまり・・敵は二人居るんだよ。」

「!!」

 ガイアが答えを口に出した瞬間、映っていた敵の印が僅かにずれる。そして、ずれた印はゆっくりとこちらへと近づいてくる。

「・・・敵の印がズレおった。一人と思っていたが、どうやら二人居たらしい。なるほどな。ワシ等はこやつらの手の平の上で遊ばれていたと言う訳か。索敵に映る印と建物内で発生する高低差の利用。こやつら、相当に頭が切れるな。」

「だが、向こうが動いて来たという事は、今の罠には相当、自信があったんだろう。俺達が生き残っている事に対し、焦っている様に見えるな。」

「抜かるなよ。こんな近距離に3人も居たのでは、索敵も役には立たん。」

「ああ・・。」


 二度目の爆発。煙は落ち着き、2階への階段は無残にも落ちている。

「・・・・。」

(タイミングはバッチリだった。だが、帰還の権利を得ては居ない。まだ生きていると言う事か。)

 ロープを使い、階段を下りる秀一。辺りを見回すが、人の姿は無い。拳銃を持つ手に力が入る。そして、瓦礫の破片を拾い爆弾に変える。

「何処に居る?怪しいのは、このロッカーか?それとも別の部屋か?」

 索敵の印は約10m単位で移動する。その範囲内にあるのは、掃除用具入れである古いロッカー。そして、ギリギリ手前にある部屋にも隠れている可能性がある。爆弾に変えた瓦礫を投げ、ロッカーを爆発させる。鉄製のロッカーはグシャグシャになるが、人の姿は見当たらない。

「・・・という事は。」

 隠れられる場所はあと一つ。敵が潜んでいる場所を突き止め、再び緊張が走る。適当な物を拾い、再び爆弾を作ろうとした瞬間。


『パァン!!』

「ぐっ!?」

 銃声が響き、激痛が秀一の背中を襲う。後ろを振り向き、銃を構えようとするが。

「遅い。」


『パァン!! パァン!!』

 体を打ち抜かれ、地面に倒れる秀一。体の力が抜ける中、必死に敵の顔を見ようとする。

「う・ぐう・・・。」

「秀一?・・へえ。お前だったのか。」

「が、ガイア・・・。どこに隠れて・・。」

「下の階だよ。お前がやった事を利用させてもらった。あの牛も面白い人材を集めてくる。まさか再びお前を殺す事になるとはな。」

 すでに体の自由が効かない。窮地に追い込まれ、秀一は死を覚悟する。

「残り一人を言いな。どんな奴だ?」

「っ・・・。」


『パァン!!』


「ガアアアアッ!!!!」

 急所を外し、肩を撃つ。致命傷になる事は無く、秀一の悲痛な叫び声が静寂な建物内に響き渡る。

「・・・良い声だな。てめえの相方にもこの声は聞こえただろうな。安心しな。察しはついてる。てめえが生き返るなら、もう一人参加させたい奴がいるだろ?由紀子だな?」

「!!」

「その顔、図星か。」

「て、てめえ・・由紀子に何かしてみろ・・俺が・・。」


『パァン!!』

「がっ!!」

「少し黙ってろ。おい、カナンダ。こいつを運んでくれないか?それと、そのうるさい口を詰め物でもして黙らせておいてくれ。俺がやったんじゃ爆弾を植えつけられちまうからな。」

「やれやれ、敬老精神が無いのう。殺せばいいのに、何をする気じゃ?」

「誘き出すのに昔から使われる有効な手段ってのがあるんだよ。人間の感情を見たいのなら、今から良い物が見れるぜ。」

「ほう・・。それは面白そうじゃ。」


「今の声・・・秀一。」

 声にならない声ではあったが、僅かに秀一の声に似た悲鳴。携帯を開き、少し距離がある事を確認し、ロープを使い、慎重に2階へと下りる由紀子。悲鳴と同時に聞こえた銃声。そして、銃声はその後も何発かが建物内に響いた。秀一の身を案じながら恐る恐る廊下へと近寄る。

「・・秀一?」

 由紀子に見せつけるかの様に廊下の中央に堂々と横たわる人間。罠と感じながらも、その人間の体格と雰囲気から、秀一である事を確信する。

「どうしよう・・。」

携帯を見るが、索敵の画面に表示されているのは一つの印だけ。印が重なり合い、索敵が全く効果を出さない。携帯を閉じ、銃に変化させる。

(明らかに罠。でも・・。)

 彼を見殺しには出来ない。長考しながらも、由紀子は倒れ込む人間に近づく。ピクリとも動かない人間。気を失っているのか、すでに絶命しているのか。

「秀一!」

 由紀子が思った通り、倒れ込んでいた人物は秀一だった。猿ぐつわに使われたタオルを外し、口に突っ込まれたハンカチを取り出す。

「秀一!秀一!!」

「うぅ・・・。ゲホッゲホッ!!」

 口の中の水分を奪われ、むせる秀一。苦しそうにする彼を見て、意識が戻った事を確認し、由紀子は胸を撫で下ろす。

「良かった・・・。」


『パァン!!』


「!?」

 背後からの射撃。由紀子の肩に刺激が伝わり、一瞬で彼女の肩が血で染まる。

「ああああああっ!!」

「ゆ、由紀・・子。」

 悲鳴を上げる由紀子。後ろを振り向き、何が起こったのかを確認する。銃を片手に、したり顔で現れたガイアを見て憎悪が噴き出す。

「ガイア・・てめえ。」

「おっと、怖い怖い。」


『パァン!パァン!!』

 2発、3発と彼女の体に銃弾を撃ち込む。急所を狙わずに、四肢を狙い、彼女を弱らせる事に重点を置く。のた打ち回りながら血で染まっていく由紀子。秀一もその光景を目の前にしながら動くことが出来ない。

「ぐ・・う・・。」

「もう抵抗出来ないだろう。哀れだな。罠と知っていながらも倒れている人物が恋人だと分かったら近寄らずにはいられない。これが愛ってやつかね。」

 床に落ちた彼女の拳銃を遠くへと蹴り飛ばす。身動きの出来ない二人を見下ろし、満面の笑みを浮かべ、拳銃を突きつける。

「久しぶりだな、由紀子。お前も居ると思ったよ。」

「ふぉっふぉっふぉ。こいつが前回の対戦者か。」

 ガイアの背後から現れた一人の老人。人間とは違うギョロ目。そして、短い牙。自然と山で会った化け物を思い出す。

「ああ・・。こいつら二人は恋人同士だ。前のゲームでも二人で行動していたな。そいつを利用してこいつに爆弾を付けて解放し、合流したところで爆発させてやったんだ。傑作だったぜ。目の前で殺してやるつもりだったが、爆発させて見たら二人とも死んだからな。余程、密着していたんだろうな。ある意味で幸せな死に方だぜ。」

「ぐ・・貴様!!」

 愚弄され、怒りが込み上げる。小さく震えながら、ガイアを睨みつける由紀子。そして、彼女が怒り顔を見て愉悦するガイアとカナンダ。

「ふぉっふぉ。ガイア、お主、余程恨まれておるのう。この娘、今にも噛みつきそうな勢いじゃ。」

「あ?心配すんな。大丈夫。何も出来ねえよ。こいつに残されているのは爆弾だけだ。手足もろくに動かせない。爆弾に変換する物も限られている。精々、唾を吐き出すくらいだろ。」

「ぐ・・・。」

「だが、そんなお前にも残された道が一つある。分かるだろ?」

 睨まれている事を意識しながら、自分の目線をゆっくりと移動する。そして、釣られてガイアの視線の先に目を移す由紀子。その先に居たのは・・・。

「秀一・・。」

「そうだ。お前に残されているのは帰還の権利を手に入れる事。俺から権利を手に入れるのは難しい。だが、隣に絶好の素材が居る。これを使うしかないだろう?」

「あ・・あ・・。」

「どうした?手を伸ばせば届く距離だ。お前が秀一を殺すならば俺は手を出さない。死にたくは無いだろ?こいつを殺して逃げたらどうだ?」

 由紀子の心を揺さぶる。そして、その言葉に応える様に秀一に向け、血で赤く染まった右腕を必死に伸ばす。

「ゆき・・こ。」

 彼女の伸ばした手を自ら掴む秀一。そして、彼女の行為を受け入れようとする。

「ガイア・・あんたの思う様にはならないわよ。」

「あん?」

 冷たくなった秀一の手。その冷たさから彼の命も付きかけている事を察する。

「秀一、あなたなら私の考え・・分かってくれるわよね。」

「ああ・・。お前もな。」

「ガイア、『私達』はあなたの手では死なない。そして、帰還の権利も与えないわ。」

「!!てめえ。」

 ガイアを睨みつけていた顔が一瞬、解き放たれ、笑顔に戻る。そして、その瞬間に爆発が起こる。


『ドゴオォォォォォン!!』


「ぐ・・・。」

一瞬で吹き飛ぶ二人の身体。体液や臓器が辺りに飛び散り、手で爆風を遮りながら二人の体液を浴びるガイア。

「・・・あのアマ。」

 爆風の後、消滅した二人。顔に浴びた血液を拭いながら奥歯を強く噛む。

「自決しおったか。生き残る可能性を捨てて二人で死ぬとは。人間という生き物は分からんのう。」

「ああ・・。俺にも分からねえよ。『愛』とか言うふざけた感情だろう。」

「『愛』?ああ、性的欲求を綺麗に見せる為の言葉か。」

「そうだ。二人で居る事に喜びを感じているんだろう。馬鹿が!まさか心中するとは思わなかったぜ。」

ガイアの頭には『二人同時に死ぬ』と言う発想は無かった。殺せないか、由紀子か秀一、どちらかが死ぬか。二人で行動している以上、『自動帰還』は無いだろう。どちらかを殺した直後、生き残った方を葬る。それがガイアの狙いだった。

 結果、二人を葬る事には成功したが、帰還の権利は得ることが出来ない。予想外の行動に苛立ちが沸き起こる。

「くそっ!!くそっ!!」

「まあ、落ち着け。ワシとしては面白いものが見れたので満足だがな。これで残りは一人。それは良しとしよう。」

(詰めが甘かったな。最後の最後でやつらの心を読み違えおったか。)


「ふふっ。『愛』か。」

 画面を見つめ、にやつく牛頭鬼。それを見て、思わずイザナミは苦笑いを浮かべる。

「お前が馬鹿にする感情だな。」

「ああ、虫唾が走るね。だが、あそこまでやられては否定も出来まい。少なくともあの二人の決意は相当なもんだ。拷問を何年も受け、その苦痛を知っておきながら『死』を選んだ。『生き残りたい』と思うのが普通だがね。」

「繋がっていたいんだろう。性的な意味では無く、心からお互いを受け入れていたんだろうね。まあ、こんな形のリタイアも悪くは無い。」

 感慨に浸りながら紫煙を吐き出すイザナミ。二人の行動に対し、彼女も否定はしない。

「・・・君はあれだね。録画を楽しみにしておくと言いながら、結構見ているな。」

「・・・うるさい。」

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