廃墟
「・・・ほう。一人殺られたか。」
携帯の画面を見つめ、声を上げるカナンダ。
「どうした?」
「いや、他の奴に近づいて行った奴が居たのじゃが、印が消えておる。つまり、誰かが殺られおった。これで残りは2人か。」
30分前に見た時は自分たちを除き、敵は3人だった。印が一つ消え、喜びに満ちた顔を見せるカナンダ。
「そいつは帰還の権利を手に入れたって事か。襲えねえな。」
「逆じゃ。こいつを襲う。」
「は?」
「残り二人。こうなっては余程の怪我でもせぬ限り、帰還は使わぬじゃろう。権利を持つ人間は早めに潰す必要がある。」
「なら、もう一人の方を潰すべきじゃないか?こいつの方が殺りやすいだろう。さっきの奴も、他の奴が権利を得るのを嫌がるならば、どちらかを殺しに行くはずだ。」
生存者は現在3人。敵となるのは二人。つまり、権利を持った人間が一人殺せば、他の奴は権利を得ることが出来ない。
「そう。つまり、権利の無い者は、得ようとする。逆に得ている者はそれを阻止する必要がある。その後のこいつを見張り、他の奴と距離を置く様ならば、手負いの可能性が高い。」
「諦めたって可能性は?権利を得るのを優先し、動いたと。」
「その可能性もあるにはあるが、それよりも可能性が高いのは今の時点で外へと出ている人間が居た場合じゃ。この少人数の状態で、一人加わるか加わらないかで大きく戦況が変わる。」
ジオラマの外へと出る前、生存者は自分を含め、5人だった。そして、再びここへと戻って来た時、その人数は3人に変わっていた。
「同じ人物が一夜で二人も殺すとは考えにくい。それぞれ違う人物が殺し、計二人殺されたか、殺されたのが一人で帰還を使ったのが一人。それで計二人が居なくなったか。」
「二人殺されたなら、俺達以外は権利を持っている可能性が高くないか?それを見極める為にも、生き残ってるもう一人の方を殺しておいた方が・・・。」
「いや、おそらくこいつも帰還を持っている。考えてみろ。わざわざ山へ登り、人を殺しに行く奴が居るか?余程の事情があるか、余程の馬鹿かのどちらかじゃ。この二人は我々が戻ってくる前から居た奴等じゃ。我々が来たのを見て、急いで行動に移したのじゃろう。」
「そのために山を登ったと?」
「ああ。」
カナンダの意見を聞き、無言になるガイア。確かに、戦うのが難しい山へ登ってまで権利を得ようとするなら、それなりに覚悟が居る。仕掛けた方に勝機があったか、事情があったか。
(その事情がもう一人が帰還を持っているって事か。だが、それなら俺達を襲った方がいいとは思うが・・・。)
帰還の件に関しても、二人居なくなったのは確か。しかし、帰還を使った可能性も十分にある。今一つ、カナンダの意見に納得がいかない。
(だが、山に登ってまで戦いを仕掛けたのは不自然だ。そう考えると、もう一人の奴も帰還を持っている可能性は高いな・・。それならば手負いでいる可能性に賭けたほうがいいか?)
「分かった。だが、ここまで来たら苦戦は必至。ヤバイと思ったら引くからな。」
「構わぬ。こっちは帰還が無いからのう。生き残る事が一番大事じゃ。権利を得るのは2番目。」
すべてに納得したわけでは無いが、ガイアはカナンダの言う通り動くことにする。終盤に差し掛かり、こちらも帰還の権利は欲しい。だが、それ以上に敵が権利を持っている事の方がガイアにとっては厄介であった。
「動きが無いな・・・。」
索敵画面を見つめ、考え込む浪岡。帰還後、彼は目立った行動をしなかった。時間だけが流れ、自然と人数は減っていった。
「一人、帰還から戻って来ない奴がいるな。」
浪岡が戻ってきて暫くして、帰還を使い外へと飛んだ人物が一人居た。そして、その入れ違いで戻って来た人物も一人。その後、その人物が誰とも接していない事から彼が権利を持っていないと確信する。
「もう一人は戦闘をしたため、どう考えても権利を持っている。狙うならこっち。相手の方も俺を狙ってくるだろう・・・と思ってたんだが。」
画面から一人消え、二人になった瞬間、狙われる事を危惧していた。だが、その予想とは裏腹に、帰還を持っていない敵は自分に目をくれず、もう一人の方へと向かっていった。
「帰還の間は行動が分からない。俺が権利を持っていると思ったのか?それともなにか考えが・・もしや、組んでいるとか?」
二人が組んでいる可能性。この少数の状況でそれをするだろうか?生き残るのは一人だけ。結局、どちらかは消える事となる。
「組んでるならば敵は俺一人。二人がかりなら殺すのは容易いと思うだろうな。だが、その後に二人は殺し合いをしなければならない。さすがに組んでいる可能性は無いか。」
あっさりとその可能性は消える。ならば、やはり・・・。
「こいつは戦いに行っている。ここは傍観した方が良さそうだな。」
緑に覆われた森の中で、一際目立つ大きな建造物。最初に来た時、カナンダとガイアはこの建物を探索した。だが、拠点にするにはあまりにも目立つ事と、利点が無いと言う理由から、すぐにその場を離れることにした。
「前にここを調べたが、食料も何も無い。外観の通り、廃墟って感じだったがな。」
「うむ。イザナミ様の作った建物じゃ。人が住んでいた訳ではあるまい。索敵で見ていたが、ここを根城にしていた奴はおらぬ。探索した奴は何人か居たであろうがな。夜露は凌げるが、目立ち過ぎじゃ。」
「その場所にわざわざ立てこもったわけだ。どうも匂うな。」
「うむ。誘われている感じはするな。指輪に反応は無い。とすると、爆弾が設置されているかもしれん。油断するでないぞ。」
不気味さを増した建物に、思わず息を呑むガイア。爆弾に警戒し、入口を避け、窓から侵入する二人。薄暗い室内へと入り込み、中を探索する。
「中心部付近に居るな。だが、これ以上は分からぬ。細かくは表示されぬからな。精々、誤差は10m位かのう。」
索敵で見ると、敵までにはまだ距離が或る。だが、そこでカナンダはある事に気付く。
「高さが表示されん。索敵では何階に居るかは分からん。ここまで来ると、こいつはあまり役には立たんな。」
「そいつが狙いか?ここで爆弾を使われると少し厄介だな。四方を囲まれてちゃ、逃げ場が無いぜ。」
廊下の幅は結構広い。それが唯一の救いだろう。室内と言う閉じ込められた場所では外の様には動けない。
「へっ。敵も考えてるな。索敵を逃れるため、意図的にここを選んだとなると、相当頭が切れる奴か、もしくは・・・経験者だな。」
「来たぞ・・・。」
「うん・・。」
暗闇の中、秀一の声に応える由紀子。籠城作戦を決行し、初めの侵入者が忍び込む。
「見ろ。俺達は一人として敵に認識されている。この建物の造りは分かったな?殺らなきゃ殺られる。素早く動けよ。」
「大丈夫。目も慣れてるし・・。それより秀一も気を付けて。相手はガイアかも知れないんだから。」
「ああ・・それとお前が言ってた化け物。あれも訳が分からんな。」
「そいつに会ったら逃げた方がいいかも。爆弾も効かないし。とにかく、生き残ってよ。」
「ああ・・。俺達にはもう・・後が無いんだ。」




