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震え

アンジュの作り出した真っ白な空間。イザナミが作った物とは違い、広めな部屋くらいの小さな物。その中で拳銃を握り、来るべき時を待ちながら、弥太郎は一人静かにアンジュとのやり取りを思い出す。


「私が様子を見る。戦いに発展した時、可能ならば人間をそっちに送ってやるよ。飛ばされた場所から動くなよ。絶好の位置に飛ばしてやるんだから。」

「あ・・ああ。だが、他の奴等はお前より強いんだろ?大丈夫なのか?」

「大丈夫な訳無いだろ。私の身体能力はあくまで人間よりは上ってくらいなんだから。下手したら拳銃ってやつでもやられちまうかもな。」

「無理して戦わなくてもいいんじゃないか?」

「弱気な事を言うなよ。心が揺れるじゃないか。へへっ。これはチャンスだよ。あんた、私のジオラマを褒めてくれたよね。あれで気付いたんだよ。拠点に使うんじゃない。これは最高の『鳥籠とりかご』だってね。」

「鳥籠?」

「そう。わたしが敵を捕らえて送る。それを弥太郎が始末する。簡単だろ?」

「だが、悪魔の場合は?俺が勝てるとは思えねえが。」

「向こうも手出しは出来ない。言っただろ?鳥籠だって。その時は弥太郎だけ出してやるよ。」

「・・・悪くは無いが。」

 アンジュの提案に否定の言葉が出て来ない。ただ、問題はアンジュが敵をジオラマに送れるかと言う事。

「心配するな。精神的に揺れてくれると助かるんだけどね。殴って来たなら拳を掴み捕ってやるよ。」

 気丈に笑顔を見せるアンジュ。本人は笑顔のつもりだろうが、引きつった顔を見て、それが空元気であることを知る。

「無茶はするなよ。」

「お前もな。多分、弥太郎が死んだら・・・私も死ぬから。」

「え?」

「何でも無い。とにかく、しくじるんじゃないよ。」


 見も知らぬ相手。そいつに狙いを付けて引き金を引くだけの簡単な作業。だが、どうしてだろう。手の震えが止まらない。手の震えだけでない。体の中から飛び出してきそうな程に高鳴る心臓の音。

 それは、今から自分が誰かを殺す事に怯えているからだろう。頭で理解する弥太郎。深呼吸を吐き、『落ち着け』と体に命じる。固唾を呑み、ノドを潤す。

(今までの事を思い出せ。例えば、浪岡の顔。50年以上経ってても忘れることは無かったぜ。あの無念を晴らすんだ。引き金を引くくらい容易いことだろう?)

 自分に言い聞かせ、来るべき時を待つ。そして・・・。


『フッ・・』

(来た!!)

 一瞬だった。目の前に現れた男の広い背中。咄嗟にその男に照準を合わせ、引き金を持つ指に力を入れる。脳裏を巡る様々な記憶。最後に見せたアンジュの気丈な顔。浪岡の不敵な笑み。肉塊と化した愛妻と子供。


「・・ここは?」

 何も無い空間に飛ばされ、呆然とする望月。現状が理解できず、立ち尽くす彼の耳に破裂音が響く。『パァン』という音が響いた瞬間、彼の体を何かが突き抜ける。背中を棒で押された様な衝撃。だが、その衝撃は背中から胸へと突き抜ける。

「え?」

 思わず後ろを向く望月。見たことも無い男が拳銃を構え、自分を睨みつけている。その男の銃が白い煙を上げているのを見て、自分の体に何が起きたのかに気付く。

「撃た・・れた?」

『パァン!!パァン!!』

 再び響く銃声。そして、自分の体を突き抜けて行く銃弾。どうすることも出来ず、血を流しながら銃弾を受け続ける望月。


「ふざけんな!!戻せ!!てめえ!!」

「くっ・・。」

 亀の様に丸くなるアンジュを蹴り続けるシン。あの能力がジオラマへ送る手段である事を彼は知っていた。

「そうだ・・!帰還!!」

 帰還の事を思い出す。権利を得ている以上、使える事は間違いない。この状況から逃げるため、帰還を発動する。だが・・・。

「・・・・。」

 何も起こらない。念じるだけだと言ったはずだ。何故・・・。

「何故だ!!死んでなかったのか?俺達は誰も殺してないのか?そんな事は無い。何故だ!?」

「なるほどね・・・。」

「?・・・何がだ?」

 傷だらけの顔を見せながらニヤリと笑うアンジュ。

「どうやらパートナーを隔離されてちゃ使えないみたいだね。ここはイザナミ様の作り出した世界。だけど、あんたのパートナー、望月とか言う人間が居るのは私の作った世界。そこに移動されて居ては使えないみたいだね。当然、あんた一人だけが戻る事も出来ない訳だ。」

「ぐ・・・。何が可笑しい!!!」

 シンがアンジュに向けてケリを放とうとした瞬間・・

「うっ!!・・・・・ガハッ!!」

 突然、苦しみ出すシン。喉を押さえ、嗚咽する。異変を見て何が起こったのか分からず逆に困惑するアンジュ。

「なんだ?なにが・・・。」

「ぐうう・・・ガアアアッッッ!!!」

 苦しんだ後、地面に倒れ込む。そして・・・。


『ブスブスブス・・・』

 

「シン・・・何だこれ。液体化してやがる。」

 倒れ込み、シンの体から煙が上がる。その身体が徐々に溶け出し、紫色の液体が流れ、地面へと染みて行く。

「やっぱり・・・。私達とパートナーである人間は繋がっているみたいだね。そう甘い話は無いって事か。」

 


「ありがとう。無事、望月を殺せたみたいだね。」

「礼を言われる筋合いはないよ。」

 アンジュの腫れあがった顔とボロボロの体を見て彼女が必死に戦っていた事を知る弥太郎。自分がやったのは拳銃の引き金を引いただけ。それに比べれば礼を言われる様な事は何もやっていない。

「・・・それよりこれが本当にお前の仲間か?」

 紫色の水溜りを見て冷や汗を掻く弥太郎。それを見てコクリと頷くアンジュ。

「そうだね。これで分かったよ。弥太郎が死ねば私も死ぬ。言い切れないが、おそらく私が死んでも弥太郎は消えることになるだろうね。」

「そうじゃないと現象の説明が出来ねえもんな。それは帰還とは別にどこの世界で死んでも同じって事か。この指輪のせいか?」

「さあね。言っとくけど指を切ってもこの指輪は無くならないよ。そんな安易な方法で逃れられる物でも無い。」

 深刻な顔で液体になった仲間を見つめるアンジュ。その表情を横目に弥太郎は、仲間を失った彼女の心情を察する。

「なんだこれ?」

 シンの体だった液体を見てアンジュが何かに気付く。水溜りの中に浮かぶ黒い物体。それを拾い上げ、不思議そうに見つめる。

「貸してみろ。これは、携帯電話だな。ちょっと古いタイプだけど。」

「携帯電話?それって・・・。」

「いや、お前の仲間は持ってないんだろ?なんでこいつが持ってるんだ?」

 携帯を開く弥太郎。液晶に映し出された画面を見つめ、ボタンを押すが、何も反応しない。

「動かないな・・。この印は何だろう?もしかして・・・。」

「それ、おそらく『索敵』ってやつだ!!さては、誰かから奪い取りやがったな!」

「奪い取る?なるほどね。その手があったか。アンジュの話じゃ権利を使おうとしてたんだっけ。誰かは殺してたってことは、そいつから奪い取ったって事か。これは良い物を手に入れた。使わせてもらおうぜ。指輪と複合すれば強力な武器になるだろう。さて、権利も獲得した。一旦、これを使って外へと出るか。」

「は?勿体ないだろ。別にこのままでも良くないか?」

「馬鹿、休める時に休んでおくものだ。そんなボロボロの体で敵の襲撃に耐えられるのか?」

「う・・・。それは・・そうだけど。・・・良いのか?」

「俺が言ってるんだ。だったら決まりだな。」

 弥太郎の言葉に甘え、帰還を使う。生死を掛けた戦いから離脱する事を選び、一時の平和が二人に訪れる。

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