アンジュとシン
「はい、二人目。」
血の海に浮かび、肉塊となった名も知らぬ男。返り血を浴び、不敵な笑みを浮かべるガイア。
「張り合いが無いな。前回の方が強かったぜ。これじゃまるで狩りだな。」
「うむ・・。ガイアよ。やはり一度帰らないか?今の状態で殺しを行っても、我々に得は無い。」
「他の奴の権利を消させるんだろ?十分得はあるじゃねえか。」
「それはそうじゃが・・・。」
「それに、残りの標的は4人。次の権利を取れるかも分からない。」
「だが、その間に他の奴等が殺し合いをしてくれる。今ならまだ次の権利を得られる可能性も十分ある。一度、安全な場所に帰り、策を練り直そうではないか。」
カナンダの言葉に無言になるガイア。
「・・・・・。」
(2日経ち、高揚感は薄れてきた。ここら辺で一度帰還するのも悪くは無い。)
「・・・分かったよ。無理して戦う必要も無いしな。帰還を使うか。少しの間、ゆっくりさせてもらおう。」
「よし、では使うぞ。お主も暫く休むが良い。」
カナンダとガイアが帰還を使って間もなく、入れ違いでジオラマの中へと戻った人物が居た。浪岡だった。鋭気を養い、再びジオラマへと戻って来た。
「残りは4人か。大分減ったな。」
携帯の画面を見て残りの人数を確認する浪岡。帰還を使って映らない奴もいるだろう。だが、帰還を使うには人の命が必要。何人かが殺された事を実感し、固唾を呑む浪岡。
(ゆっくりとはしていられないな。)
「ふむ・・。2日目の脱落者は一人だけ。ペースは良いが、ばらつきがあるな。」
ふるいに掛けられ、次々と脱落していく参加者たち。全員が牛頭鬼の用意した人物であることから、少しせつなくなる。
「携帯を取り上げた奴が2人も居るとはな。参加者としてはガイアが優秀だな。2人も殺している。・・・おっと。」
人の気配に気付き、モニターを消す牛頭鬼。背後の扉が開き、ガイアが姿を見せる。
「よう、久しぶり。」
「うむ。君と会うのは何年振りだろうな。元気にしてたかい?」
「白々しい。死んだからここに来たんだろう。生憎、思い出話に花を咲かせるつもりは無くてね。・・・イザナミは?てっきり居ると思ったが。」
「残念、彼女は忙しい。時間があれば来るとは言っていたが。」
「そうか・・。あいつに・・いや、あいつにも伝えておいてくれ。勝つのは俺だ。残りの奴等に負ける気はしない。」
「ほう・・。」
負けず嫌いな子供の様な行動。ガイアの強気な発言を聞き、牛頭鬼は彼の性格を思い出す。
「相変わらずの性格だな。だが、ゲームが進むにつれ、生き残るのは難しくなる。非情なだけでは勝つことは出来ない。」
「状況判断には自信があるつもりだ。俺がそれだけじゃないって事を教えてやるよ。」
「ふっ・・。ここで口論しても何にもならん。君の活躍は画面で見させてもらうから安心したまえ。」
「そうだな。まあ、見ていてくれ。俺が参加している以上、他の奴らが勝つ可能性は無い。お前らが楽しめる様な内容にならないかも知れないな。」
牛頭鬼に背を向け、再び自室へと戻るガイア。その姿を見送り、溜め息をつく牛頭鬼。
「やれやれ・・。カナンダ君も厄介な奴を連れて来たものだ。確かに、実力はあるからな。そのために彼女を用意したのだがな。果たしてどうなるか・・・。」
次の日。たどり着いた河原で水を飲むアンジュと弥太郎。
「プハア!!うめえ。見ろよ、魚が居るぞ。食えるのかな?」
「ん?さあな。・・・ふう。水ってうまいんだな。」
「あ?何言ってんだ?水は美味いだろ。でも、牛頭鬼様に飲ませてもらった『お茶』とか言う飲み物も美味かったなあ。」
「まあ、お茶は美味い。冷たい麦茶が飲みてえなあ。」
「麦茶?何だそれ。」
「ん?麦茶も知らないのか。名前の通り、麦から抽出したお茶だよ。香ばしくってうめえの。」
「へえ。一回、飲んでみてえなあ。」
「珍しがってはいるが、お茶ってもんは結構何からでも出来るんだぞ。例えばほれ、そこの地面に生えている雑草。あれを天日干しして、お湯の中に入れればお湯に味が付く。まあ、美味いかは知らねえが。」
「なるほど、そういうのをお茶って言うのか。それもお金があれば飲めるのか?」
「ははは。そうだな。お前は呑み込みが早いな。大分、人間界の仕組みが分かって来たな。」
純粋な質問に思わず笑う弥太郎。憩いの時間を満喫する二人。だが・・。
「・・・!!」
「どうした?」
「静かに・・。指輪に反応。」
アンジュの指に刺激が伝わる。和やかな空気は変わり、それと同時に二人に緊張が走る。
「前と同じ奴か?」
「それは分かんないよ。だけど、備えておいて。多分・・私達を狙ってる。」
刺激が僅かに強くなっている。真っ直ぐにこちらに向かっている証拠だった。固唾を呑み、銃を握りしめる弥太郎。
「どうする?」
「弥太郎は隠れてな。私は人間に殺される事は無い。殺されるとすれば・・・。」
「シンとカナンダって奴か?でも、お前の仲間なんだろ?いくらなんでも・・。」
「戦いの最中だ。お互いがお互いを狙っているならばそんなものは関係ない。向こうも本気で狙ってくるさ。」
「じゃ、じゃあお前も隠れろよ。」
「いや、ここは攻めるよ。弥太郎。あんたも覚悟しときな。同族だからって相手に躊躇するんじゃないよ。殺らなきゃあんたが殺られるんだから。」
「・・ああ。それくらいの覚悟はしてるよ。」
「いざと言う時に体が硬直ってのは勘弁だよ。」
「・・・分かってる。」
「!!・・・消えやがった。」
「は?どういう事だ?」
携帯の画面を見ながら歩くシンだったが、突然、携帯の画面から反応が消えた。表示されていたマークが消え、困惑する二人。
「分からない。帰還を使ったか?指輪に反応があったから、アンジュかカナンダの筈だが。」
「権利を使ったなら、もう居ねえってことか。どうする?」
「いや、指輪の反応は残ったままだ。」
「は?どういうことだ?他の印がそいつじゃねえの?」
「いや、他の奴等とは離れてるからそれは無いと思うが・・・。とにかく行ってみるか。」
指輪の反応は強いまま。逃げる様子も無く、相手はシンと望月の二人を待っている。
(誰だ?アンジュか、カナンダか。罠でもありそうだな。こんなことをするのはカナンダだが、相手の人間はどうやって索敵から逃げやがった?索敵に映らない方法があるのか?それとも、帰還は人間だけ外に帰って、妖怪はそのままなのか?そんな事、聞いてないぞ。)
色々と仮説を立てるシン。だが、どれもしっくりとは来ない。答えが出ないまま、正体の見えない相手に困惑する。やがて・・・。
「誰か居やがるな。あれは・・・ガキか?」
「アンジュ・・。」
「へえ、じゃああいつが言っていた悪魔か。」
特徴は聞いていたが、実際に小さいアンジュの姿を見て安心する望月。人間である望月よりは強いが、サポート役である彼女はシンを攻撃することは出来ない。
それに、こちらにはシンが居る。悪魔同士の戦いならばこちらに分があるのは明らか。
「よう、お前だったのか。てっきりカナンダかと思ったがな。」
「・・・用件は分かってるがね。一応聞いてやるよ。何の用だい?」
「おいおい、戦場で会っておいて『何の用?』は無いだろ。てめえのサポート相手の人間に用があるんだよ。どこに隠した?辺りには居ないようだな。」
「・・・辺りには居ない?どうしてそんな事が言える?」
シンの言葉が引っ掛かる。この場に現れたばかりで、ろくに周りも見ていないくせに『弥太郎が近くに居ない』と言い切った。
(シンの能力か?いや、妖力を筋肉に当てているシンにそんな力は無い。)
「・・なぜ言い切れる?確信がある様な言い方だね。」
「ん?そうか?」
「おい、喋りすぎだぞ。」
背後からシンの失態を指摘する望月。『悪い悪い』と謝りながら、シンは再びアンジュに話しかける。
「まあ、それはいいとして・・。話を戻す。人間を出しな。この状態でお前に勝ち目が無いのは分かってるだろ。」
「・・・・。」
「紹介してやる。俺のパートナー、望月だ。普通にやればお前はこいつに負ける事は無い。だが、制約がある以上、こいつにダメージを与える事は出来ねえ。さらに・・俺が居る。意味が分かるな。」
「まあね、獄卒の中でも力自慢のあんたに私が勝てるはずない。そういう事だろ?」
「そうだ。どうする?人間を出すか?」
(こちらとしても人間が居ない以上、攻撃が出来ない。とすると、アンジュから聞き出すしかないな。)
拳を握り、威嚇するシン。攻撃する意志を見てアンジュの体に緊張が走る。窮地に追い込まれた事を確認し、肌に触れる空気が冷たくなる。
(まともにやっても勝ち目はない。だが・・・。)
「やるしか無い!!!」
「!!」
先に仕掛けたのはアンジュ。小さな体を更に低くし、シンへと襲いかかる。
「あめえよ!!」
間合いに入る事を予想し、右拳を突き出すシン。だが、その寸前、アンジュは素早く身を翻す。
「!!」
突然の回避。覚悟を決めたはずだったアンジュの意外な行動に、一瞬呆気にとられるシン。
そして、目で追うと同時に彼女が逃げるのではなく、ある方向に向かっている事に気付く。
「望月ぃぃいいい!!!」
彼女の狙いを知り、必死に叫ぶシン。その声を聞き、アンジュが自分の方へと向かっている事を知る。
(馬鹿な!?俺達は人間を襲えない筈だ。なぜ望月を狙う!?)
猛スピードで望月の方へと襲いかかるアンジュ。そして、開いた手を伸ばし望月の体を捕まえようとした瞬間。
『フッ・・』
「!!」
望月の体が素早く反転し、アンジュの右手から逃げて行く。そして、アンジュがそれを理解した瞬間・・・
『ズドン!!』
「!!ぐうぅ・・。」
小さく呻き声を上げるアンジュ。腹に突き刺さる衝撃。鉛が埋め込まれ、それが溶け出して身体に広がる様な重い感覚。
(何・・今の・・人間の動きじゃない・・・。)
予想外の動きに朦朧とするアンジュ。今まで自分が扱った人間で、こんな動きをしたものは居ない。目の前から一瞬消え、同時に反撃まで行った。困惑したまま体の自由が効かず、身動きが取れない。
「あっぶねえ。なんて動きしやがるんだ。このガキ。」
アンジュの胸倉を掴み、頬を一発、二発と叩き込む望月。
「ぐっ!!うう・・。」
「へっ。シンの奴と違ってダメージはあるみたいだな。手応えはあった。人間ならば大人でも昏倒してるだろうな。意識があるだけ大したもんだ。・・・答えな。てめえが連れ込んだ人間はどこだ?」
「う・・ぐぅう・・。」
アンジュの体が軽々と持ち上げられる。呻き声を上げるだけで、抵抗することが出来ない。
「どうした?お前は俺に攻撃が出来ないんだろ?残念ながら、俺はお前を好きに出来る。刃向う事なんて不可能。」
彼女の髪を鷲掴みにし、アンジュに対し、絶対的な立場を見せつける望月。
「そうだな・・・だが・・・それは直接的な攻撃だ・・。」
「あ?」
「間接的な攻撃なら・・出来るんだよ!!」
望月の手を掴み、必死に妖力を漂わせるアンジュ。目視できる光がアンジュの体から望月の体に移動し始めたその時、シンはアンジュの思惑に気付く。
「離れろ望月!!」
声を上げた瞬間、望月の体がまばゆい光に包まれる。そして、その光が消えると同時に、望月は姿を消した。
「あ・・あ・・・。アンジュ・・・。てめえ・・・。」
「やったぞ・・弥太郎。あとは・・お前次第だ。」




