雑談
幾つもある地獄の一つ。『ナラカ』と呼ばれるこの場所では、今日も人間の悲鳴が絶える事無く響き渡る。だが、此処に居る魔物達にとって、それは聞き慣れたいつも通りの光景である。
「あー疲れた。」
休憩部屋の床に倒れ込む一人の少女。名を『アンジュ』と言う。見た目は幼いが、ここで働く立派な獄卒である。
「おう、おつかれ。水でも飲むか?」
「んー。飲む飲む。」
仲間の大柄な獄卒に迎えられ、差し出された水をゴクゴクと夢中で飲み干す。
「美味そうに飲みやがって。なあ、アンジュ。今日の様子はどうだ?」
「プハー!!うめえ。あ?まあ普通だよ。そこまで忙しくは無いけど、人間に声を出させ続けないとジャラムの奴が怒るからさ。」
「ああ・・。あるある。ジャラムの奴は上から言われるからな。」
同じ獄卒の『シン』と世間話を楽しむアンジュ。束の間の休息に行う談笑が彼女の楽しみであった。上司の悪口から始まった話は盛り上がり、話題を変えながら世間話を楽しむ二人。
「人間も面倒臭いよな。入って来たばかりの人間は生意気でしょうがない。私なんて容姿がこれだから怖くは見られないし。」
「ははっ。ガツンとやっちまえばいいんだよ。急所を外せば死なないんだから。」
「ったく。『弱い』と思ったら頭に乗るからな。まあ、だからナラカに連れて来られたんだろうけど。」
亀裂の入った愛用のコップにトクトクと水を入れるアンジュ。実力では人間に負ける事は無いが、その幼い姿から初対面の人間は彼女の命令に対し、横柄な態度を取る事が多い。
「大声出すように調教するのも疲れるんだから。育てるこっちの苦労も分かって欲しいよ。」
「ああ、それは思うな。逃げようとするのは分かるが、戦って負けるのが分かってる癖に偉そうな態度の奴もいるしな。『プライド』って言うらしいぞ。あれ。」
「『ぷらいど?』なんだそれ?習性か?」
初めて聞く言葉に食いつくアンジュ。そして、予想通りの食いつきにシンは思わず笑う。
「ちげえよ。人間は下だと思った奴に過剰なまでの危害を与えるだろ?」
「ああ。」
「危害を与える方は、『俺はこいつより上だ』と思うわけだ。それは暴力的な意味だけでなく、仕事の立場でもそう。『人間を見下すのが人間』だ。そして、その思いが積み重なった物が『プライド』」
自慢げに『プライド』についての説明をするシンを見て、誰かから聞いた話である事に気付くアンジュ。だが、『いつもの事・・』と思い、情報の出所についての詮索はしなかった。
「生意気だった人間が、ある時を境に従順になるときがあるだろ?つまり、プライドが崩れた瞬間だ。そうなっちまうとあいつは俺達に反抗することを諦める。」
「・・へえ。面倒臭い生き物だな。そんなもん何になるんだよ。『自分の事しか考えない』って意味じゃねえの?」
「でも、これが無かったら大変らしいぞ。プライドが低過ぎると自我を保てなくなるって話だ。」
「・・へえ。」
(『話』ねえ。やっぱり誰かから聞きやがったな。)
字数を減らして投稿することにしました。始まったばかりで詳しいことは言えませんが、書いていて楽しい作品です。