表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

紅に染まる

今回は紅美鈴×秋静葉のお話です。


急に決まった紅葉狩りだったが、乗り気ではない美鈴は神様に出会い……


ガールズラブ要素あります。苦手な方はご遠慮下さい。

 今日は紅葉狩りに行こうと、お嬢様は唐突に言い出した。

 ここは幼き吸血鬼――レミリア・スカーレットが治める紅魔館。その主が行こうと言い出したのだから、それに反対する人妖は基本的にいない。いるとすれば地下の図書館にいる魔女くらいのものだが、その魔女も珍しく、外出する気分になったらしい。話はとんとん拍子に進み、全員で紅葉狩りへ行くことになった。

 しかし、花見なら何度も参加してきた私達も、紅葉狩りというのは経験がない。そもそも、その紅葉狩りと言う言葉を知ったのも、博麗霊夢が紅魔館に来て、妖怪の山が綺麗に色付いているという話題から広がったものだった。

 紅葉など、特に珍しい現象でもない。しかし、それを楽しむのもまた一興かとも思う。

 だが私は、あまりこの行事に乗り気ではない。何せ、霊夢や魔理沙を始め、山の妖怪も集まっての紅葉狩りだと聞く。ただそれは紅葉狩りとは名ばかりの、宴会に過ぎない。私も宴会が嫌いな訳ではないのだが、妖怪の山というのが引っかかる。

 妖怪の山は、妖怪という名を冠しながらも、神様の多く集まる場所である。少なくとも、私達妖怪がいてあまり心地の良い場所ではないだろう。同じ幻想郷に住む者だとしても、相容れることが出来ない場合だってある。

 神と妖怪。それは表裏一体であると私は考えている。表裏一体とは、相容れることが無い以上に、犬猿の仲であることが通例である。もっとも、神などとは関係無く、会ったこともない者と上手くいくかいかないかなんて解らないのが普通ではあるが、私の経験は、この行事に面倒臭さを警鐘していた。

「どうしたの美鈴?」

「あ、咲夜さん。……今日は大変な一日になりそうですね」

「そうかしら。私は楽しみよ。紅魔館にも楓なんかは生えていて紅葉するけど、妖怪の山はそんな規模じゃないらしいじゃない。一面が赤や黄色に染まるなんて、何だか素敵じゃない。……美鈴は楽しみじゃないの?」

「そうですね……。楽しみと言えば楽しみですが。しかし妹様も交えて、魔理沙も、知らない者も多くいる場で、果たして大丈夫でしょうか?」

「あら、貴女にしては珍しく、心配しているのね。でも大丈夫よ。妹様もこの幻想郷にだいぶ慣れてきたみたいだし、それに魔理沙がいればむしろ大人しいもの。それに知らない人だっているかもしれないけど……きっと大丈夫よ」

 咲夜さんはくすりと笑うと、昼食やおつまみを作る為にキッチンへと向かっていった。

 嬉しそうな気を纏う咲夜さん。果たして何が彼女を上機嫌にさせるのかまでは解りかねるが、それでも咲夜さんが喜んでくれるなら、私も少し楽しい気分になれる。そんな気がした。


 妖怪の山。そこは正しく妖怪の巣窟のような所で、噂に聞いていた神様のねぐらとはどこか違った印象を受けた。驚いたのは天狗が統制を取っていることで、河童がそれに従っていることだ。紅魔館にも天狗は一匹よく紛れ込んでくるが、まさかここまで組織的に動いているとは思ってもいなかった。精々、新聞を作って勝手に配りまくっている妖怪かと心配までしていた程だったのだが。

 特に、哨戒に当たる天狗の精巧さ。これには驚かされた。紅魔館、もとい西洋は個々の能力を尊重して独立する面がある。しかしこれはそれとは正反対の、集団を生かす為の組織的な働きである。それはあまり私達は得意とはしないし、それを極めようとは思ってもいない。当たり前のことだが、文化圏の違うところに来たと思わざるを得ない。

 それにしても、統率が取れていることは素晴らしいことなのだが、如何せん居心地は悪かった。どこかから見張られている気配がするのだ。どこからかは解らないのだが、どこにいても見張られている気配。きっと天狗の能力なのだろうが、宴会の時くらいはどうにか出来ないものだろうか。……いや、宴会の時だからこそ、だろうか。余所者が自分達のテリトリーに入っている今こそが、警戒する一番の時だろう。仕方がないなと、私は小さく溜息を吐いた。

「あら、綺麗な紅葉はお気に召さないかしら」

 唐突に、背後から声を掛けられた。幾ら警戒の目を気にしていたとはいえ、まさか背後に立たれるまで気付かないものだろうか。

 しかし、その疑問は簡単に解くことが出来た。目の前にいる紅葉の髪飾りを付けた金髪の女性は、神だったからだ。きっと、この秋に最も力を蓄える神に違いない。能力の最盛期。それはムラとも言えるが、裏を返せば最盛期にはとんでもない力を得ることが出来るという、諸刃の剣である。そしてその諸刃の剣が私の背後に、ひたと添えられていたのだ。

「いえ、綺麗だと思いますよ。特にこの紅葉なんて、色んな色が入っていて本当に綺麗」

「ありがとう。そう言って頂けると有り難いわ。私は、八百万の神の一柱、紅葉を司る神の秋静葉と申します。貴女は?」

「私は紅美鈴。紅魔館という館で門番をしているしがない妖怪です」

「あら、紅魔館。存じ上げていますよ。よく文さんの新聞に出てくる赤い建物ですよね。個性的な面々が集まる、愉快な場所、でしたかしら?」

 正直、むっとした。私達は見世物でもなければ、新聞の為にネタを作っている訳でもない。ただただ紙面上の、それもでっち上げ甚だしい新聞の記事を鵜呑みにして会話するなんて、失礼なことこの上ない。

「あぁ、文々。新聞のことをさも現実のように話すのは失礼でしたね。申し訳ございません。あの新聞の胡散臭さは、私達も存じております故」

「そうですね。まぁ確かに私達は個性的な面々ですし……記事にもしやすいのだとは思うのですが。何度か妹様に痛い目に遭わされているのに、良くもまぁ天狗は懲りないなあと関心すらしてしまう程です」

 くすくすと、お互いに笑い合う。それ程までに天狗とは、余所様に首を突っ込む性格らしい。共通の認識は、幾許か心の壁を打ち砕いてくれた。

「ところで、紅葉を司ると言うことは、この山々を染める木々達は、貴女が色づけられたのですか?」

「そうですよ。それが私の唯一の力。春の桜程、人を集めることは中々出来ないけれど、いかにも季節に沿った、良い能力だと私は考えていますが……」

「確かに、見ていて気持ちが良いですね。この山に生える木々からはどこか力を感じますが、もしかしたら貴女の力もそれに添えられているのかもしれませんね」

「そうかもしれません。桜は春に力を解放する様に、紅葉は秋にそうなるもの。私はその瞬間に、ほんの少しだけ、力添えしているだけですわ。……それにしても、貴女が縋っている木は、どこか萎縮している。貴女自身、妖力は相当抑えているみたいだけれど、隠し切れていないのはどこか苛々しているからかしら」

 見破られてしまった。まぁ、あまり隠す気も無かったが。この知らない土地であっても、紅魔館の面々を守るのが私の仕事。そして、外との区切りを付けるのもこの私。いつもより、妖力を放出しているのは、事実である。

「そんなに警戒しなくても良いですよ。私は何もする気はありませんし。何よりも、こんな綺麗な木々達を、傷つける行為はしたくないので」

「私だって、下手に戦闘なんてしたくありません。こんな楽しい宴ですもの。折角だから楽しまないと」

 そう言うと、彼女はどこからか徳利を持ち出してきて、私に御猪口を押しつけた。それに反対する理由も無く、私は注がれた酒をくっと飲み干す。糀の甘い味わいと、すっきりとした香りが鼻に抜けていく。どちらかと言えば甘口のその酒は、視界一杯に広がる赤や黄色ととても良く合った。

「美味しいでしょう。今日は特別だからって、天狗が秘蔵の樽を開けたみたいだから。こんな宴会なんて、妖怪の山で行われるなんてことは今までなかったから、天狗もどうしたら良いのかいまいち解っていないのでしょう」

 くすくすと笑いながら、彼女は手酌で酒を注ごうとしていたので、そっと手を伸ばして徳利に手を添えた。彼女も注いで貰うことを期待していたのか、戸惑いなく徳利を離した。

 白い釉薬の掛かった徳利は指触り良く、描かれた農耕の姿は恐らく、五穀豊穣を期待してのものだろう。対して注がれる御猪口は素焼きのざらざらとしたもので、部分部分に赤茶だったり焦げ茶だったりと、様々な色合いを見せている。土を焼き上げた猪口に、農耕を象った徳利から豊穣そのものである酒を注ぐ。一見ちぐはぐなその組み合わせは、ともすればよく考えられていると、そう感じた。

「でも、収穫も終わったこの時期に、五穀豊穣を願うのも、少し贅沢な気もしますね」

「そうでしょうか。今年も良く採れたから、来年も良く採れますように。そして今年と同じく頑張って生きていけるように。そんな心が込められているように私は感じますけどね」

「そうですね。そんな考え方も面白いです。ただ豊穣の願いなんて、なかなか叶うものではありませんが」

「そんな事はありませんよ。私の妹――穣子と言いますが、彼女は豊穣を司ります。だから人間は、彼女を奉り、祭りを行います」

 その言葉から、どこか寂しげな気配が感じられた。それもそうだろう。方や豊穣を司り、人々からちやほやされる神。方や静かに山を色付け、人々を感心させる神。どちらも力を持っていることに変わりはないが、それでも、最終的に選ばれるのは食欲を満たす、豊穣である。そんな妹を持って、姉として得意満面、と言う訳にもいかないのが心情であろう。ほんの少し、そんな嫉妬を感じることが出来た。

「……私達妖怪からしたら、食べることよりもこうやって感じ取ることの方が重要だったりしますから、私はこの紅葉も好きですよ。今日は紅葉狩りに来て本当に良かった」

「気にして頂いてありがとうございます。私自身、嫉妬をしていることは感じているのです。やはり、神とは言え感情を持つ者。天照大神も天岩戸にお隠れになったように、私にも少しばかりの感情があります。ただ、こうして紅葉狩りという形で私の力を見に来て頂けることは、とても嬉しいのです」

 そう言うと、彼女はもう一献と徳利を傾けた。その酒は、どこか優しさに満ちた味がした。


 紅葉狩りも終わり、紅魔館に平穏が訪れて数日。私はいつものように門番をしていたが、ちょいちょいと咲夜さんに呼ばれていることに気付いた。彼女は中庭の中央に立ち、一本の木を見上げている。

「遂に、紅魔館の楓も紅葉が始まったわね」

「そうですねぇ。綺麗な紅色です。まるで館と同じ色みたい」

「そうね。秋晴れの綺麗な青にとても良く栄えて、とっても綺麗……」

 うっとりと空を見上げる咲夜さんに、少しの間、見取れてしまった。その咲夜さんときたら、本当に優しそうな笑みを浮かべている。それが何とも愛おしくて、後ろからぎゅっと抱き締めた。

「美鈴……。あなたの髪も、紅葉みたいに綺麗な紅ね。本当に……綺麗」

 背の高い私が屈むようにしての歪な口付け。白く透き通る咲夜さんの肌が間近に紅潮していく。触れ合った唇が離れた時、咲夜さんはくるりとこちらを向いて、私に抱き付いた。

「美鈴は、暖かいね。これから寒くなるけれど、私を……暖めてね?」

「勿論ですよ。咲夜さん……」


 ふと、紅葉は先の神様の力だと言うことを思い出して、妖怪ながらにして思わず、神に感謝をしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ