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四春期  作者: 新庄
東野 将也
8/34

姉と弟1

 

 輝美が帰ってきたのは午後8時。下で、カバンのドスッという重い音が聞こえた。将也はゲームの音量を少し下げる。しばらくしてから、輝美が部屋のドアをノックした。


 「カレー温めたけど食べる? 将、まだ食べてへんやろ」

 

 輝美は返事も聞かずに階段を下りていった。将也が人の問いかけに、素直に返事をしないのは把握済みだ。むかつくことはない。将也に返事を執拗に求めるのは、佳代だけだった。

 将也はゲーム機の電源を切り、リビングに向かった。ドアを開けた瞬間、カレーの匂いが鼻を刺激する。食欲をそそられた。

 机にはお皿が2つ並べてあるだけで、とても質素に見える。佳代なら、サラダくらい付けるだろうと心の中で思う。輝美は難しい顔をして、テレビのリモコンをいじっていた。クイズ番組、街中ロケ、ニュース、『家族』という見え透いたタイトルのドラマスペシャル。


 「何もないわ」


 輝美はあきらめ、リモコンを将也に渡した。将也は番組表を見る。輝美の言葉を信じていなかったわけではないが、本当になにもやっていなかった。妥協して、つまらなそうなネタ番組を選ぶ。何組かの芸人のネタが紹介されたが、2人はクスリともしなかった。観客の笑いも少ない感じがする。ふと、お笑い好きの友人の言葉を思い出した。観客の声はマイクを通されてないから、実際よりも小さく聞こえる。実際にライブに行くと、みんな爆笑してる。と、熱弁していた。


 「お母さんら、今頃おいしいもんたべてるんやろーな」


 あまりのつまらなさに輝美が呟く。スプーンで皿にこびりついたルーをまとめていた。


 「お母さんのこと、どう思う?」


 輝美は将也に尋ねた。驚きだ。今まで家族の仲裁にも入らなかった輝美が、家族のことについて答えを求めている。将也は口にスプーンをくわえたまま止まった。テレビから観客の笑いが小さく聞こえてくる。


 「お母さんに言われたんちゃうで。うちが聞いてみたくなっただけ」

「それ言うほど、嘘くさくなるで」

「ははっ。そうか…」


 輝美は苦笑いすると、カレーを口に運んだ。将也も口に含んでいた人参を飲み込む。喉にひっかかりながらゆっくりと下っていく。


 「姉ちゃんは、どう思っとん?」

「うち? うちは…趣味が合わないと思っとる」

「何やそれ」

「将は知らんと思うけど、うち、お母さんに恋バナとか強要されるねん。お母さんは娘と恋バナとかおしゃれとか楽しみたいみたいやけど、うち、こんなんやからさぁ」


 輝美はスプーンを置いた。もう皿にカレーはない。

 

 「お父さんと話す方が楽。父親嫌いの友達の方が多いけど」


 小さく呟いていく。


 「親に興味ないもんばっかり話されんのは退屈」

「姉ちゃんに趣味なんてあるん? サッカー?」


 輝美は将也にケータイの画面を見せた。画像フォルダだ。色鮮やかなイラストが広がっていた。キャラクターを描いたものもある。


 「……何?」


 すごいともきれいとも思ったが、口には出さなかった。輝美はスッとケータイをひっこめる。自分に向け、スクロールをした。


 「これ、うちが描いた」

「……はっ!?」

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