久しぶりの雨
次の日。悠は担任が教室に来るやいなや進路調査書を差し出した。担任は悠の顔を一瞥してからプリントを受け取った。
「相談したの?」
「まぁ、父親に」
「そう」
昨夜、父親とは他愛ない話をしただけだ。この高校は学科が多いとか、こっちは就職率が高いとか、そんな話。それでよかった。もし、父親にお前はここを狙えなどと言われたら、今日プリントを出すのは不可能だっただろう。人に促されて進路を決めるのだけは嫌だった。
日中は雨が降り続いていた。久しぶりの雨だ。当然部活は中止。帰りは何気なく橋本と一緒に帰ることになった。
「ちゃんと調査書だせたんや」
「うん。まぁ、適当に書いただけやけど」
「テキトーやな」
隣で橋本が笑う。飽きてれもばかにしてもいない。ただおかしそうに笑っていた。
「やっぱ、俺…橋本と付き合いたい」
傘の中でつぶやく悠。
「やっぱり?」
こちらをのぞき込んでくる橋本を、傘で遮った。しばらく傘に落ちてくる雨粒の音が続く。
「それって好きってこと? うちとおったら楽ってだけちゃうん?」
「安心できるって…イコール好きにしたらあかんの?」
「好き…ね」
橋本は妙に落ち着いている。
「俺、橋本とキスしたいって思ったことあるし」
悠は好きということを、直接的にしか表現できなかった。
「好きは認める。でも、うちは喜多山をそんな風に見たことないし。どうしたん? ひと肌恋しいとかそういうやつ?」
悠は「どうしたん?」の意味が分からなかった。告白するのがそんなに非常なことだったのだろうか。
「高校に行ったらな、そんなんいくらでもやれるで」
「なに情報」
「お兄ちゃん。高校では流れとかノリで付き合うねんて。喜多山はモテそうな顔しとるで」
「橋本もそうなるん。ノリとか…」
「なるんちゃう?」
「……」
足元の水たまりに足を踏み入れてしまった。悠のズボンの裾が濡れて色が濃くなった。水面に映る自分の顔が歪んでいる。
「大丈夫?」
「橋本は高校どこ行くん?」
「えっ…あぁ、外賀高校やけど」
「東野は?」
「外賀…。偶然やからな」
「聞いてないし」
「喜多山は?」
「決めてないって、さっき言ったやん」
「…うちらと一緒にしたら? レベル的にはそこらへんやろ」
「……」
人に進路を促されてしまった。しかも相手が橋本なんてたちが悪い。
「そしたら流れでうちと付き合えるかもしれんで」
「お前…ほんまに自分好きやな」
「お兄ちゃんと同じこと言ってる。うちが喜多山に恋愛せーへんのって、お兄ちゃんに似てるからかも」
「じゃぁ、お兄さん殺す」
「ははっ。そしたら喜多山嫌う」
END




