可愛げ
「モテたい…」
悠の隣で橋本が呟いた。最近では珍しいことではない。悠に自分の好きな人を打ち明けて以来、橋本は独り言が多くなった。もちろん、悠の隣ではだが。あれからというもの、2人が一緒に過ごす時間は確実に増えていた。別に悠に男友達がいないわけではない。移動教室は友達と行くし、昼休みも友達と過ごしていた。だが、最近は妙になついてくる橋本のせいで、周りが距離をとりはじめていた。変な噂がたたなければいいが。
今は給食を終えた昼休み。橋本は悠の隣の席に座っていた。もちろん、そこは元々別の男子の席だ。
「モテるやろ。男子とよく話してるし」
「みんな彼女とか好きな子おるし。女子にサバサバ扱いされてるうちと話したら安心って感じ。…なんじゃない?」
橋本は終始、悠と目を合わせなかった。教室の窓から真昼の太陽の陽がさしこんでいる。机の上を照らす光を橋本はじっと見ていた。
「…里美ちゃんはモテるでしょう?」
さきほどから標準語が混じっている。違和感を感じた。
「あぁー…あいつな。まぁ…。てか、小3にモテとかあるんですかね」
「なんで標準語? 兄妹でにてへんよな。喜多山って愛想ないし」
「似なくていい」
「妹は兄が構ってくれないから、他の男に甘えだしたんちゃう?」
橋本はくくっと、不敵な笑みを見せる。吹っ切れたせいか、性悪さをさらけ出してきている。
「かわいげないよね。喜多山」
悠はため息をついた。そんな冗談をいった橋本を睨んでやるつもりだった。だが、悠が見た橋本の顔は物憂げで、さっきまでの不敵さはなかった。
「……何? 可愛げがあってほしいん」
「…さぁ。でも、友達としてはちょっと寂しいかも?」
「俺に可愛げがあったら、キモイやろ」
「ははっ。そうかも」
そこで、授業をつげる5分前のチャイムがなった。
「友達としては」。その言葉が悠の頭から離れなかった。日差しが机に反射して、顔を刺激してくる。眉間のあたりがズキズキと痛んだ。
「席、戻ったら? 邪魔になるで」
「はいはい」
相合傘をした雨の日。あれから天候が崩れることはなかった。晴天が続いている。




