父、母、兄、妹
「悠はまた、身長が伸びたんだって?」
夕食終わり。父親の聡一が呟いた。ビールをグビグビと飲み、顔を赤らめている。聡一はもともと恵比寿のような顔をしているせいで、酔っているのかそうでないのか分かりにくい。「165センチ」と悠が答える。聡一は驚く様子もなく高らかに笑った。やはり酔っているらしい。普段はこんな笑い方絶対にしない。絵里奈は「165センチ」と丁寧に繰り返してきた。キッチンの洗い場からリビングを覗く。悠はあぐらをかいてマンガを読んでいた。聡一はソファで寝転がっている。もうじき読んでいる新聞が掛布団になるだろう。
「悠は猫背やからもったいないわ」
「姿勢悪いんは父親譲り」
絵里奈は聡一を見てため息をついた。
「これでも俺は、剣道部やったんやぞ」
聡一は腕を曲げて筋肉を見せびらかす。
「その話は聞き飽きた。過去にすがる男ほど醜い男はいないんやって」
「誰が言ったんや?」
「クラスの女子」
「そいつホンマに中学生か? 将来が楽しみやな。はははは」
太ももを叩いて笑う聡一。
「昔は悠も可愛かったのに。そんな言葉ばっかり覚えて…」
「上がったでー。次お兄ちゃん」
悠の妹、里美がお風呂からあがってきた。濡らした髪をタオルでくるんでいる。絵里奈の真似らしいのだが、ダラダラ髪が崩れてきている。
「里美、前髪切らなー。目悪くなるで」
「里美な、前髪伸ばすねん」
「何でぇ」
絵里奈は里美の黒髪をゴシゴシと拭く。タオルを丁寧に巻き直してやった。
「よっちゃんがな、大人っぽい女の人が好きやねんて。だから伸ばすねん」
よっちゃんとは里美と同学年の男子だ。自転車屋の息子で、女子にモテているらしい。
「小3のくせにませたこと言いよる」
聡一は机上にグラスをおいた。もうビールを飲み干している。
「お兄ちゃんお風呂」
「悠はもう入ってるねんで」
代わりに絵里奈が答える。
「なんで?」
「雨に濡れたから…」
「カワイソウ。里美はな、しげ君に傘入れてもらったんやで」
「……あっそ」




