持論
男子が女子に優しくする。たったそれだけで、男としての評価は上がっていく。女子が男子に話しかけるのと、男子が女子に話しかけるのではだいぶ意味が違ってくる。女子がそういう目で見てくるからだ。男子が女子に話しかけるだけで噂がたったりする。俺の持論。
「…男子はいいよね」
その言葉に耳を疑った。橋本を見下ろす。短い髪が湿気ではねていた。
「…そうでもないけど」
本心だった。喜多山悠は、この世界において女子という生物が絶対だと確信している。
女子1人がが男子グループと遊ぶのはいい。男子が女子グループと遊ぶのはやっぱり違和感がある。ゲイとか、チャラいイメージができてしまう。女子が少年漫画を読む。男子が少女漫画を読む。やっぱり後者の方に違和感を感じる。男装。女装。…これは似合うか似合わないかの話かもしれない。女子が間違えて男子トイレ。男子が間違えて女子トイレ。男子は当然変態扱いされる。
この世界において、女子は絶対だ。だから女子はめんどくさい。
「俺、ここでいいわ。ありがとな」
悠は持っていた傘を橋本に返す。首をかがめて傘から外に出て、走り出そうとした。が、橋本に止められる。
「これ、木田さん。のりっちの傘やから……!」
「…おー。明日あったらお礼言っとく。橋本も言えよ」
「うん…。じゃあ、ばいばい」
「じゃーな」
水たまりも気にせずに走った。玄関に入り、足元に目をやる。泥がズボンのすそにしみこんでいた。洗わないと取れないほどの汚れだ。悲鳴を上げたのは、母親の絵里奈だった。脱衣所から乾燥機にかけたタオルを引っ張りだしてきた。嫌がる悠の頭をワシャワシャと拭く。
「何で電話せんかったんよー。うち、ずっと家におったのに」
怒っている様子はまったくない。むしろ悲しんでいる様子だ。専業主婦の絵里奈は買い物以外での外出は少ない。家でゆったり過ごしているせいか、声を荒げることもなかった。
「……友達、に、傘に入れてもらったから」
悠は絵里奈からタオルをとり、自分で頭を拭きはじめた。乾燥機にかけたばかりのタオルはとてもあたたかい。でも、機械の匂いが髪にまとわりついてきた。
「そう? ならいいんよ。いじはって雨の中濡れて帰ってきたんかと思ったわ」
「いじ?」
「中2男子が母親に迎えに来てもらうなんて恥ずかしいわっていう意地よ。そんな意地だけはもたんといてな」
息子の声を真似たつもりなのだろうが、絵里奈の声は全然似ていなかった。悠はタオルでにやける口元を隠す。
「里美は大丈夫やろか。小学校には置き傘あるけど。あの子の友達の千広ちゃんは家が遠いんよね」
絵里奈はよく他人の子供の心配をする。自分より他の子供に優しいのをみてきた。小さい頃は寂しく思ったこともあるが、今ではどうでもいい。
「母さん、俺風呂入る」
「タンスから黒い寝巻を引っ張り出す。いや、もう着すぎて灰色に近くなっている。
「そやね。カゼひかんように入り。湯は? 入れる?」
「シャワーだけでいいわ」
「ダメやで。つかり」
尋ねたくせに、自分の意思を押し付けてくる絵里奈。悠は絵里奈を見下げる。中2になって、身長差が10センチほどに広がっていた。
「はよ入りたいねん。湯溜まるまで待ってられへん」
「もう…」




