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四春期  作者: 新庄
橋本 美波
26/34

雷鳴


 『今日は雨に打たれたい気分なの』。昔読んだ少女漫画の主人公のセリフだ。今ならその気分というものが少しわかるような気がする。校舎の入り口から空を見上げる。大粒の雨が地面に落ちていく。アスファルトの色が黒さを増していた。『空も泣いている』。これも少女漫画のセリフだ。誰のセリフかは思い出せなかった。


 「みーちゃん?」


 懐かしいあだ名に驚く。振り返ると、木田のり子が微笑んでいた。


 「やっぱり。どうしたん? 傘ないん?」


 木田は久しぶりと言わなかった。嬉しそうな笑顔だけを見せている。

 

 「あっ……」


 美波は動揺した。木田と話しているところを誰かに見られたくない。


 「私の傘使い? 置き傘あるねん」


 木田は強引に傘を渡すと、校舎の中に戻っていった。


 「の…のりっちは帰らんの?」


 話しているところを見られたくないと思いながらも、美波は木田を呼び止める。このまま性格の悪い女子で終わるのも嫌だった。


 「私、今から部活やから。みーちゃんは中止?」

「…うん」

「グランドびちゃびちゃやもんな」

「……うん」




 受け取った傘を見る。淡い水色だった。自分がこの傘をさすには勇気がいると思った。そして、これをどうやって木田に返そうかという問題が発生した。雷と雨の騒音で考えがまとまらない。


 「いーれて」


 やけに高いテンションで隣りにやってきたのは喜多山だ。


 「喜多山、部活は?」

「雨で中止です」

「あっそ」


 傘をさすと淡い水色が頭上に広がる。にやにやと喜多山が入ってくる。


 「これ、木田さんの傘やから」

「へぇー。木田さんと仲良いんや」

「……別に。てか、知ってるんや。木田のり子」

「去年同じクラス」

「ふーん…」


 最悪だった。木田のり子という人物を知っている人に、自分たちの関係を知られた。


 「木田さんと仲良いなんて意外」

「…っさい」

「えっ!? なんて?」


 雨音のせいで、お互いの声が聞きづらい。しばらく沈黙が続いた後、喜多山が話題を出してきた。

 

 「最近、橋本機嫌悪いな」

「別に、そうでもない」

「でた。『別に』。機嫌悪いとすぐそういう」

「めざとい」

「じゃあ、めざとい俺からの質問。それは東野に関係している」


 雷鳴が山に響いた。山に囲まれたこの町は音がよく響く。美波は立ち止まる。足がすくんだのだ。雷鳴に。核心をついた喜多山の問いに。

 喜多山は空を見上げて「近いな」と呟いた。動き出さない美波から、傘を取り上げた。持ち手の熱さを感じる。


 「…あたりか」


 無駄な好奇心やデリカシーのない喜多山の言葉に、美波は怒らなかった。むしろチャンスだ。ばれているのなら、このまま吐き出してしまえばいい。 喜多山が歩き始める。美波も足を動かした。


 「…何で、こんなに好きやのに分かってくれへんのかね。最近東野にむかついてしかたないんやけど」

「橋本って、結構女々しいよな。サバサバ気取ってるけど」

「誰が好きでやってると思ってんの!? うちは、男に媚びるような自称サバサバ系女子とは違うんやから」

「何その女子?」


 喜多山は吹き出す。美波は自称サバサバ系女子の生態を真剣に語り始めた。

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