砂利
火曜日の6限目はLHR。「進路調査」と、重い言葉とは不釣り合いな薄っぺらい紙が配られた。担任は誰でもわかるような記入の仕方を詳細に述べた。美波はいつも思う。進路調査になんの意味があるのか。未来のために計画を立てるのは大切だとは思う。ただ、大人は子供をせかしすぎる。子供のことをすべて把握したがる。なぜだろうか。
「橋本。書いた?」
「…まだ」
体をひねり、後ろの男子のプリントを覗く。高校の名前が書いてあった。
「もう決めとん?」
「俺、あほやからここぐらいしか行くとこないねん。選択肢がないだけや」
義務教育が終わったのに勉強なんてしたくない。中卒で就職なんて無理だから高校へ行く。ニートにだけはなりたくない。これが本音だ。
嫌な話題は家に帰ってからも続いた。夕食中に母親の市子が「今日、進路調査あったのよね」と確信をもって聞いてきたのだ。おそらく東野の母親からの情報だろう。東野の母親は、将也の話からして、かなり教育家だ。市子は流されやすい性分なうえに世間体を気にしがちだ。東野の母親の影響を大いに受けていた。
「将也君な、成績下がってるらしくて…。塾を考えとるんやって。美波も一緒に行ったら? 高校行くねんからな」
美波が高校進学を親に公言したことはない。世間ではほとんどが高校に進学する。市子の頭では、世間の行動が娘の行動になっている。もし、中卒で就職が普通なら、美波は市子に就職を強要されるだろう。
「将ちゃんが塾行きたいって言ったん?」
「えっ…。知らんけど、考えてるって」
「絶対ちゃうわ。あそこの母親、無理やり行かせるに決まっとる」
「しゃーないやん。高校入学できんかったらどうすんの? 嫌ではすまへんねんで。……周りの子も塾行ってるやろ?」
「みんな行ってるからってなんなん」
「それは……」
市子は美波の隣で静かに味噌汁をすする拓馬に目線をやる。美波の兄である拓馬は、味噌汁をそっと置いた。
「部活引退してから考えたら? 東野くんは部活やめてるけど、美波は違うやろ」
今は他の家の事情など話してほしくない。拓馬のフォローは、美波が求めているものでも、市子が求めているものでもなかった。
「真介さんにも、塾のこと言ってみたんや…」
父の名前が出る。市子を睨む美波。
「相談だけした。塾はどうかって。お金のこともあるし……」
「お父さん、なんて」
「美波が行きたいんやったらって…。それだけ」
「じゃあ、行かへん」
「美波。ちゃんと聞いて。嫌ってだけじゃあかんのやで。高校にいける学力あんの? 志望校のレベルはどうなん? 志望校、決めとんの?」
美波の口にジャリッといやな感触がした。味噌汁の榎を噛むと、砂が舌を刺激した。
「……じゃり、入っとんねんけど」
「えっ……ごめん。洗ったんやけど…」




