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四春期  作者: 新庄
橋本 美波
19/34

名前

 

 好きな人が学校を休んだ。たったそれだけのことだったのに、美波の今日の1日は退屈なものになった。勉強が辛い。給食もおいしくない。体育のランニングで横腹が痛くなる。牛乳を一気飲みしたせいだ。



 インターホンを押す。玄関からは背の低い女性が出てきた。神経質そうな細長の目が将也とよく似ている。

 

 「あらー。美波ちゃん久しぶり!」


 佳代は満面の笑みを浮かべ、玄関に美波を引き入れる。門を抜けると甘い香りが美波の鼻をくすぐった。足もとに目を向ける。石段の隅にある植木には薄ピンクの可愛らしい花が咲いていた。


 「久しぶりです。将ちゃ……っと、将也君います?」

「いややわぁー。昔みたいに将ちゃんって言ったげて」

「でも、親の前でそう言うと怒られるから」

「照れとるねんで。美波ちゃん、お見舞いに来てくれたん?」

「あっ、プリント届けに。渡しといてください」


 美波がカバンからプリントを取り出すと、佳代は二階の窓に向かって「将!!」と叫んだ。


 「えっ!? いいですよ。将ちゃん、カゼなんじゃ…」

「もう熱は下がってんのよ。せっかくやし、しゃべり」


 断る間もなく、将也が家の中の階段から降りてきた。玄関に顔をだす。ヨレヨレのTシャツに、ジャージのズボンをはいている。母親だけだと油断していたのか、お腹をポリポリと掻いていた。


 「…橋本!?」


 将也は慌ててシャツをととのえる。美波は細い眉を下げて笑った。将也のだらしなさに苦笑したのではない。「橋本」という言葉が悲しくなったのだ。

 小6までは将也に「みなちゃん」と呼ばれていた。中学に上がってからは苗字になった。美波はそのことについて何もつっこまなかったが、名を呼ばれるたびに将也が遠くなっていく気がした。


 「プリント。将ちゃ…明日来れるん?」

「ありがと。行ける…」


 母親の前だからか、病み上がりだからか、将也の態度はそっけなかった。


 「今日のノートとか見る? 今、あるけど」

「明日、島崎に見してもらうからいい」

「孝太君? あの子字汚いやん。美波ちゃんに見してもらい」


 佳代はなぜか将也をしかりつけた。女らしい娘を持っていないせいか、佳代が美波を気に入っているのは確かだった。


 「……」


 将也はしぶしぶ。美波からノートを受けたった。

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