男子
その夜。美羽は友人の奈々に電話をした。ことの要件を伝えると、受話器の向こうから怒鳴り声が聞こえた。
『何そいつ!? 女から結婚の話させといて怖い? ふざけんなよ。美羽、ドレスが似合うようにダイエットもしたのに」
奈々は友人の彼氏をそいつ呼ばわりするように、遠慮がない。そこがいいところでもある。
「しょーがないよ。ダイヤなんて似合わないっていわれちゃったし」
美羽は無理に笑い声をあげた。顔が笑っていたかはわからない。電話のいいところは表情が相手に見られないことだ。
『男って鈍いよ。頭でも殴ればちょっとは冴えるんじゃない?』
おどけ気味に奈々が言う。電話越しに、ベットがぎしぎしという音が聞こえた。奈々がファイティングポーズをとっているのではと想像してしまった美羽は、吹き出した。
また月曜日が始まった。由香子はいつものように家を出る。眩しい朝日が黒髪を照らした。
学校へ行く。東野はすでに教室にいた。椅子に腰かけてボーっとしている。
「おはよう」
東野が言う。由香子も「おはよう」と答えた。男子とあいさつを交わしたのは今日が初めてだ。家庭の事情を知り、同情してくれる大人はたくさんいる。でもこういった知り合いを持ったのは初めてだ。
由香子は「大人になりたい」と言った東野に興味がわいていた。
「…何やねん。 顔見てくんな」
「ふっ…。ごめん」
END




