イチゴ2
「甘くておいしいね。このイチゴ」
「甘すぎやない?」
「……西川君の関西弁久しぶりに聞いた。何か面白い」
美羽は歯を見せて笑った。同じ職場で出会って6年。付き合ってから3年。東京から田舎に引っ越してきたという美羽には関西弁が新鮮なものだった。
「今日、良美と話したからかもな。あいつ、標準語嫌いやって言ってた」
「美羽は関西弁好き。何か、あったかい感じするし。今度お姉さんに会ってみたいかもー」
「…やめといた方がいい」
「えー」
政成に、美羽と良美がうまくいかないという想像はできていた。自分の一人称が「美羽」の彼女を、正直身内に紹介したくはない。良美のことだ。「ばかっっぽい女」とののしられるにちがいない。美羽のことは好きなのだが、ばかっぽい女の彼氏と思われるのも嫌だった。
「あっ…でも良美結婚するらしいから、そのうち会えるかもな」
「お姉さん結婚するんだ。再婚…ってことになるよね? 娘さんは大丈夫なの?」
「由香子ちゃんのこと心配したら、怒られたよ」
「何で?」
「…あいつは、妹じゃなくて母親だったってこと」
美羽は首を傾げた。ガラスの皿に入っていたイチゴが、きれいにさらえてある。フォークを皿の中に入れた。カランッと涼しい音がした。
「……西川君は、結婚…とか、考えてる?」
思いもよらぬ美羽の発言に、政成の口が止まった。変な噛み方をしたせいで、イチゴの種が奥歯の間に挟まってしまった。気持ち悪い感覚が政成を襲う。
「…怖いんだ。母親を見てるから、結婚しても相手を幸せにできる自信がない。…いや、自分が幸せになれないかもっていうのが怖いのかもな」
「美羽は、西川君となら良いと思ってるよ……」
「美羽のことはホントに大切に思ってる。けど、ごめん…」
政成は舌で奥歯を舐める。
「俺は、壊れない確実なものがほしいのかもな」
家族というものは簡単に壊れる。その事実が、政成を縛り付けていた。
「ダイヤって、すごく固くて壊れにくいんだって」
「…? 俺にダイヤなんて似合わないだろ」
美羽が重い雰囲気を和まそうと、冗談を言ったのだと勘違いした政成は苦笑いした。美羽も不服そうに苦笑いする。
「美羽も西川君のこと好き。だから、今はこのままでいいよ。そのかわり、お願いしてもいい?」
「…何?」
結婚を延長する対価。政成は身構えた。
「もう一回関西弁で喋って」
「えっ…! なんや、そんなんでいいんや」
「ははっ。やっぱり面白い」




