イチゴ1
夕食の後には、政成の持ってきたイチゴが出された。
「甘…」
良美はそう言いながらも、爪楊枝でイチゴを食べ続けている。由香子は黙ってイチゴを食べた。熟れたイチゴが舌に絡みつく。鼻に香りがまとわりついた。
「政成、彼女いるんやって」
「…ふーん」
「もういい歳やし、結婚したらいいのに」
由香子は手を止めた。指先に力が入る。爪楊枝がミシッと音をたてて折れた。
「もういらんの?」
「…うん。何か、甘すぎてお腹いっぱい」
「そうやな」
良美は机の中央に置いていたお皿を、自分の方へ引き寄せた。
「おじさんって、結婚できると思う?」
「何やその言い方。政成は面倒見とかいいし、できるやろ」
「……お母さんがおじさんのこと褒めるなんて、珍しいな」
「…そう?」
良美はふぅっと息を吐き、爪楊枝を置いた。ラップを取り出してイチゴの皿に巻く。「甘すぎやわ」と呟いて冷蔵庫にしまった。再び席につく。
向かい合う2人に沈黙が続く。由香子は勘付いていた。良美が自分に政成のことをあきらめさせようとしていることを。だから、普段しないような政成の話をしている。「彼女がいるし、結婚したらいいのに」と。
由香子は別に本気で政成を好きだと思ったことはない。ただ、自分に優しくしてくれる人が政成だけだったというだけだ。良美の思い過ごしなのだが、自分から政成を遠のけようとしている姿は、醜く無様で悲しかった。
「お母さんはおじさんのこと嫌いやと思ってた」
「…好きも嫌いもないわ。家族やし……」
「私はおじさんのこと好き」
「………そう。なら、イチゴのお礼言っといて」
「ふっ…。分かった」
由香子は上の歯の裏を舐めた。まだイチゴの甘ったるさが残っていた。




