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四春期  作者: 新庄
西川 由香子
14/34

三つ巴


 「おじさん?」


 由香子の家の門前に政成が立っていた。ばつが悪そうな顔を見ると、由香子とはちあわせしてしまったらしい。由香子はめぐり合わせに胸を高鳴らせる。先ほどまで東野と話していた内容など吹き飛んでしまいそうだ。

 最初は目を泳がせて下唇を噛んでいた政成だったが、由香子の変わらない態度に安堵した。キスの罪悪感を抱いて過ごしていた日々が、少し救われた気がした。


 「どうしたん?」

「あっ、母さん…おばあちゃんからイチゴもらったから、届けに来た」

「見せて」


 使い古されたスーパーの袋を開けると、熟したイチゴの香りがした。真っ赤な色が由香子の目に映る。


 「おいしそう。お店以外のやつって、久しぶり」

「おばあちゃん、イチゴ作りはじめたんだって。手紙に、一人でいると趣味が増えすぎて困るって書いてあった」


 由香子の祖母。つまり、良美と政成の母親は、由香子たちと離れて暮らしている。政成が一度一緒に住まないかと提案したが、あっさりと断られてしまった。一方の良美は、政成を通してでしか母親との関係を持たない。由香子は、良美が母親を憎んでいることを政成に聞かされた。小5の時だ。お正月に政成の車で祖母の家へと向かう途中だった。

 祖母は、2人が幼い頃に夫と離婚をし、女手ひとつで子供を育てたという。1人で頑張りすぎたせいか、子供の教育には厳しいところも多々あったらしい。良美はそんな家庭事情を憎んだ。母親がすべての悪因だと考えるようになってしまったらしい。

 そんな良美の影響のせいで、由香子自身も祖母との交流が乏しくなっている。最近知った祖母の近況といえば、元夫がガンで亡くなったことだ。


 「ありがとう」

「うん」

「…上がってく?」

「ん?」

「何か、お母さんに話があるんかなって思ったんやけど」

「ははっ。すごいね…。人の心が読めるの?」


 政成は下唇を噛んだ。


 「何の話?」

「大人の話。秘密だよ」

「…子供扱いせんといて」

「前は子供のままでいたいって言ってたのに」

「それは…!」


 その瞬間、強い風が吹いた。2人の後ろでガサガサとビニールの袋がたなびく音がした。振り返ると、良美が眉をしかめて立っていた。風で乱れた短い髪。スーパーの買い物袋を強く握るふくよかな手。その視線は由香子にではなく、政成に向けられていた。

 

 「兄さん。何しに来たん…」

「母さんからイチゴもらったから、届けに。由香子ちゃんともばったり会った」


 政成は良美の前にイチゴの入った袋を差し出した。甘ったるい匂いが良美の鼻をかすめる。良美は顔をしかめた。

 

 「…由香子。家に入っとり」

「おじさん、イチゴもらう。日に当たりっぱなしは腐りそうやし」

「…うん。ありがとう」


 由香子は政成からイチゴを受け取ると、玄関の扉をしめた。

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