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迷宮の輪舞(ロンド)  作者: いかすみ
迷宮探索1
18/27

18 日没

日没



日が沈んで、星が見えてきた。


急に周りが暗くなる。


前方の煙を見失ったこともあり一旦立ち止まった。


暗がりで、方角を失ったら大変だからだ。


着ている上着を脱いで方向だけの記録を残しておく。


これだけ、周りに何もない平原では方角を失えば迷うだけだ。


背後の走ってきた痕を確認して方角に間違いないのを確かめる。


痕といっても、数分前のところまでだ。


それより先は既に何も無いように消えていた。


そこで、初めて違和感を感じた。


普通、走っているときでも歩幅は一メートル前後だ。


足の速いものなら二メートルを越える場合もあるだろう。


しかし、背後の足跡はどう見ても三メートルを越えていた。


隆之自身普通に走っているつもりでいた。


一体何が起こっているのか?


周りの変化があまりに無いため気付かなかった。


しかも、かなりの速度で走っていた感じだ。




方向を定めるために、天測を行う。


ここで、方角を見失ったら大変だ。


見えていた煙は夕暮れ前に急速に小さくなっていた。


朝になれば、消えている可能性もある。


方向を見失わないためにはできるだけ早くたどり着く必要があった。


炊煙の煙なら良い。


しかし、火事のような突発的な煙なら二度と確認できないからだ。


あれだけ、離れた位置からみえたのならその可能性が高かった。




星空は、隆之の全然知らない物だ。


もっとも、都会生活と引き篭もり気味の隆之では日本の空でも妖しい。


そもそも、星空を観測した記憶がない。


しかし、北斗七星とカシオペア座、天の川、白鳥座ぐらいは知っていた。


オリオン座の三ツ星なども覚えている物の一つだ。


見上げて、知っている星座を必死に探す。


けれども、知っている星座が全く見当たらない。


地平線まで確認したけど全く違う空だ。


それらの、ことから『異世界』と完全に認識した。




太陽が沈んだことで、日の入れ替わりは考えられる。


それと、地平線の星が沈む。


そのことから、この大地が『回っている』と考えた。


大地が回っているなら軸が必ず存在していると思われる。


そして、地平線の星の動きを観察した。


暗闇を動いては方角を見失う可能性が高かったからだ。


まして、周りに方角を確認する物が何もない。


下手動いたら同じ所を回りかねない。


何かの本で読んだけど、人間の足は均等ではない。


目標が無いと無意識に曲がって歩いている。


大きな円を描いて回ってしまう可能性だ。


大きな円なので、曲がりに気付かない。


背後の走行跡を見ても気付かない可能性は大きかった。




太陽の高さから北海道に近い緯度と感じた。


それなら、北極星に近い存在は割りと高い位置になる。


星の動きから動かない星を見定める。


確認の方法は寝そべって草の先端でチェックしていった。


案の定、割と天頂に近い方向に北極星?を見つける。


運が良い事に割りと明るい星だ。


おまけに、周りの星の明るさからわかりやすい。


まるで、北極星を囲むように等間隔で明るい星が四つ輝いていた。




昼間のうちに、確認しておいた街の方角と北極星の角度を開いた指で覚える。


記録を取る様な物は何も持っていない。


在るのは、着ている服と肉体だけだ。


服は新品同様でポケットには何も入っていない。


身につけていた財布さえ無い状態だ。


こちらの世界に来る時着ていた服を再現しているだけ。


再現と気付いたのはズボンの染みだ。


この服にはそのズボンの染みが付いていなかった。


卸し立て同然の服だ。


それなのに新品なら付いているたたみシワとも言うべき線が入っていない。


もっとも、全裸で放り出されなくて幸いだったのか?


そんな状態なので、身体には道具にするような物は何も無い。


肉体で、角度を記録できる物は限られていた。


手の形だ。


パーの形に開いた手の平の中指と薬指だった。


中指を町の方向に合わせて、薬指を北極星に当てると丁度良かった。


この角度さえ覚えておけば、方角が大きく狂うことはないだろう。


指の太さの誤差ぐらいは仕方がないところだ。




隆之は、真っ暗で見えない地上を幻の街目掛けて歩き始めた。


行動するなら夜しかないからだ。


もし煙が見えなければ、方角が判らなくなる。


それだけに、方角の目安が付くうちに向かいたかった。


それと、昼間になるかどうかの判断も付きかねる。


長い夜の可能性もあったからだ。




時計を持たない隆之としては時間は感覚的な物だ。


星の確認のため、二時間ほど休んでいる。


周りの様子は目がなれて来たので見えた。


なにより、見えないことで意識をすべて感覚に頼った。


音、風、匂いなど感覚を動員して周りの状況を探りながらの疾走だ。


どれぐらいの距離を走っているかの感覚さえおぼろげだ。


そして、走り始めて一時間ほどで、視界が急に明るくなった。


日の出ではない。


地平線に見えたのは大きな月だった。


それが、黒々とした大地を白く照らす。


思わず見とれて、足を止めていた。




その時に、気付いた。


隆之が囲まれていることに。


正確には、見えた。


襲撃者は音も無く周りを囲んでいる。


明るいだけに、その正体はすぐに判った。


四足の獣だ。


一瞬、『狼?』と考えた。


けれども、その姿はどうみても犬だ。


どうやら、野犬の群れに囲まれたらしい。


素手の隆之では抵抗の余地も無かった。




『こんな時、小説などでは召喚武器が存在すのに!』


しょうも無い事を考える。


『剣よあれ!』と考えれば手に剣が現われるのがお決まりだ。


あるいは、魔法でも良いけど・・・


いくら、考えても手には何も出なかった。


考えて見たら、剣を手に入れても使い方を良く知らない。


魔法も同様だ。


『だれか、助けてくれないかな?、出来れば美女限定』


隆之の考える事はその程度だ。


小説ではお決まりのパターンだ。


しかし、現実は涎をたらして牙を剥く野犬の前に風前の灯火だった。



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