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迷宮の輪舞(ロンド)  作者: いかすみ
迷宮制作編
16/27

16 帰還後、そして

帰還後、そして



『はっ』と気付くと現実に戻っていた。


突き飛ばされた格好のままだ。


記憶にある位置より二・三歩下がっていた。


その目の前をすり抜けていくバイク。


突き飛ばされた反動で、危ないところを救われた印象だ。


あの女神の突き飛ばしはこの状況を作ったのだろう。


その意味で、隆之の方も救われたところだ。


女神の介入がなかったら、バイクに引っ掛けられていた。




バイクは通過直後にブレーキターンで路上に止まる。


見事な停止に一瞬見とれてしまうほどだ。


目の前の彼女も振り返ってこちらを見ていた。


その直後、隆之の前後に留まるバイクの集団。


こちらの方は若い者の集まりだ。


後ろに高校生らしい女の子も乗っていた。


彼の仲間と思われる一団だ。


隆之は暴走族に囲まれた印象だった。





リーダーの進路を塞いだ事に文句を言いたそうな仲間達。


かなり険悪な状態だ。


結果的には事故になる寸前だったのだから・・・


『この場合、歩行者が正しいのでは?』


そうは思っても数の前で強気の発言は出来ない。


僅かな睨み合いの時間が過ぎる。


その時に声が掛かった。




「待て!」


リーダーの一喝で場が静まる。


バイクを止めた男がゆっくりと迫ってきた。


奴隷解放の時とは迫力が違う。


しかし、隆之の前に立つとしっかり頭を下げた。


「この礼はいつかさせてもらうけど、とりあえずは『ありがとうございました

 』」


そう言って、最敬礼するリーダーだ。


周りの者は何の事かわからずに戸惑っている。


あの世界のことは彼等には判らないから当然だ。


しかし、リーダーの男は確実に隆之に救われたことは感謝していた。


向こうの世界でもしきりに礼を述べていたからだ。


本当なら、老人になるまで世界に晒される運命。


それを、救った隆之だった。




遠くで、警察のパトカーの音が聞こえる。


バイクの集団は逃げるように離れていく。


残ったのは、現場を遠巻きに囲む野次馬と助けた彼女だ。


「杉並隆之さんですよね」


一団が離れたところで彼女が声をかけて来た。


彼女から名前を言われて驚く。


迷宮で助けた時に驚いた表情をした彼女だ。


隆之は見かけた程度だけど、彼女の方は隆之を知っていた。


名前を呼ばれたことで、それが事実だったことを知る。




道路の上では話ができないので、目的の店の前に移動。


そこで改めて彼女に聞く。


「あなたは?」


「覚えていないんですか? 妹さんの友人の高瀬たかせ 美穂みほです」


『覚えていないですか?』


そう言われても紹介された覚えも無い。


「・・・」


絶句していると彼女の方が反応した。


「!御免なさい。そう言えば紹介もまだですよね。いつも聞いていたからてっ

 きり。御免なさい。改めて自己紹介しますね」


「いえ、お名前は今聞きましたから。高瀬さんと呼べばいいのかな」


「・・・出来れば、美穂と読んでいただければ」


少し顔を赤らめて返事をする彼女だ。


「え?」


「お兄さんには、感謝しきれないほどの恩を受けたので・・・あれなんだった

 のかな? ・・・でもこうして会えたならできれば」


なぜ、感謝しているのかその内容は思い出せない感じだ。


しかし、感謝の気持ちだけは残っている印象。


この辺は、あの暴走族の兄ちゃんも同じなんだろう。


どうやら、吊橋効果か?


精神的にはかなり追い詰められている時助けた。


その影響で、かなり感謝している様子だ。


ただ、雰囲気的には何が行われていたのか覚えていない。


覚えていたら、もっと羞恥心を前面的にだしているからだ。


酒場で全裸を晒した時のように・・・




助けられた感謝の念だけは残っているらしい。


いきなり、恋愛に近い効果か?


彼女は発言の後、突然腕を取る。


女性からそのように積極的なアプローチを受けたことのない隆之だ。


その状況には戸惑うばかりだった。




「隆之さんは大学祭は?」


「今帰るところ」


「それなら、暇ですよね」


嬉しそうに、暇を確認する彼女だ。


「一応・・・」


家に帰る予定だったけど・・・


女性と一緒に居られる貴重な経験を棒に振りたくない。


それと、あちらの世界で感覚的には一年近くいた。


その影響で、家に帰る意識はどこかに飛んでいった感じだ。


大学が随分久しぶりのような感覚だった。


この世界が恵まれていることを、改めて再認識する。


おまけに、直ぐ横には人も羨む美人がいるのだ。


これこそ、夢のような印象だった。




「私と大学祭は駄目?」


上目遣いで問いかけてくる美穂。


美女にそのような目つきで問いかけられたら反則だ。


選択の余地は残っていない。


ほとんど、条件反射でうなずいた。


こうして、隆之は抜け出してきた大学祭に戻る事になった。




妹も美人だ。


けれども、美穂は違うタイプの美人だった。


そんな彼女が全幅の信頼を寄せているように腕を絡めて来る。


門を通過したところから鋭い視線を浴びせられた。


門周辺で、可愛い子を軟派しようとしていた男達だ。


周りの男達の目つきにはあからさまな嫉妬の目つきをされる。


慣れない経験だけに戸惑う隆之だった。




そして、隆之達が向かった先は・・・


妹のいるサークルだ。


追い出される同然に抜け出してきた場所だった。


美穂も妹と同じサークルメンバーだ。


美穂は、休憩時間に野暮用でお店に寄っただけ。


隆之がいるなら、野暮用の方は後回しだった。




隆之が、いまさら戻ったらどんな顔をされるやら。


そう考えながら、再びサークルに顔を出す。


サークルには妹の友人を含めたたくさんの女子大生がいた。


華やかな場所だ。


出し物はデート喫茶の装いで、男の人と話をする場だった。


当然、会場に詰め寄せるのは普段女性と接した事のない男ばかり。


もっとも、おさわりも接触も無しの健全な営業だ。


勿論、お持ち帰りもなし。


ただ、話をするだけだ。


大学祭でも目玉に挙げられるイベントだった。




それだけ、有名なサークルだ。


改めて、ハーレムのような場所に隆之が存在する違和感を感じた。


なにしろ、女性は自由に入れる。


けれども、男性は厳しい制限があった。


現有女性会員の紹介(二人以上)以外では入会できないシステムだ。


それも、紹介できるのは一人だけ。


一人紹介すれば、もう枠を使い切ってしまう。


そんな、サークルにすんなり入会できた理由は妹の紹介だ。


逆か。


妹を誘うために隆之の入会が条件だった。




そのサークルの中で、一際騒がしい場所がある。


五人掛けの席で、四人を相手に話をしている女性が居た。


そこでは、妹が男達?の取り巻きに囲まれている。


男だけではないところがなんとも・・・


隆之と美穂は、その集団に接近する。





妹の弥生は男達に囲まれてつまらなそうにしていた。


営業スマイルをだしているけど・・・


見慣れている隆之には丸判りの顔だ。


隆之の居る時には見せない顔だった。


どこか、疲れたような顔。


『隆之が居なければ羽目を外している』


隆之は、そう思っていた。


それだけに、意外な顔だった。




「弥生!」


美穂が妹に向かって声を上げる。


弥生がこちらを見た。


そして、声を掛けた美穂を見る。


当然、その隣にいる隆之の顔を見つけた。


その一瞬に浮かんだ顔は戸惑い。


直後に花が咲いたような笑顔を浮かべる。


しかし、その顔が曇ったのはすぐだ。




妹の視線で、隣にいた女性もこちらに気付く。


彼女の方は紹介された覚えがある。


酒井さかい 美和みわさんだ。


なぜか、隆之に対して妹を取り合っている?関係だった。


きつい視線を隆之に送って来た。


彼女の視線を意識したとき、時間が止まる。


今度は、はっきりと意識ができた。



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