14 思わぬ苦労
思わぬ苦労
順調に迷宮が稼ぎ出して困った問題が出てきた。
現在、四十五階まで作っているところだ。
迷宮を作るのが楽しみになってきたところだった。
そこに出てきた大問題だ。
問題は何か?
それは、資産が一億Gを越えることだ。
目標を達成してしまえばお払い箱になる。
そうなることへの不安だった。
前は一週間で十万G程度だ。
それが、今では一日で二十万Gを越えるようになってきた。
油断していれば、三十万Gを超えることもしばしば。
あれから、三ヶ月を経過して資産は軽く八千万Gを超えていた。
迷路ポイントを目一杯買い込んで資産を減らしてもすぐに溜まる。
楽しい事だけに、目標を達成して終りたくない。
増えていく資産を減らすために窮余の策を弄した。
それは、宝箱をばら撒いた事だ。
資産を減らすことが目的のため、すぐに開けられるように浅い階に配置。
浅い階ではほとんどの升目に宝箱を配置するほどの数だ。
事実、宝箱を配置するとすぐに開放が行われて賞品の回数Gが与えられた。
一階なら1G、二階なら2Gだ。
その辺は、迷路の規制が設けられており、無条件の放出は出来なかった。
それでも、資産は見る見る減っていく。
作戦は一時的に成功だった。
しかし、成功はそこまでだ。
一月後には収入が加速した。
宝箱目当てにさらに多くの冒険者を呼び込んだからだ。
それも、高レベルの冒険者までもが宝箱に狂奔した結果は・・・
宝箱でいくら消費しても、じりじりと収入が増えて一億を越える寸前だった。
そして、待ちに待った月末になる。
その時点では、迷路を作ることより宝箱を配置するのに苦労していたほどだ。
支出より収入の方が多いのだから当然だ。
月末に飛び込んだ時には安心したほどだった。
その時の資産は九千万Gを超えていた。
あと一週間遅かったらアウトだ。
迷路ポイントを限界まで購入して資産を五千Gまで少なくさせる。
これ以下ではさすがに、運営費として使ってしまう可能性があったからだ。
黒字経営で破産はしたくなかった。
迷路は八十階まで作られた。
隆之の作った迷路の最大の特徴は
行き止まりのない迷路だ。
細かい行き止まりは数多くあるけど、直ぐに判る程度だった。
他には、広大な大きさを持つこと。
階段室が入り口すぐ脇に作られていること。
モンスターの種類が豊富なことだ。
それ以外、宝箱がやたらに多いことは苦笑いの一言だった。
この世界のモンスターは隆之以外の迷路ではほとんどが一種類だ。
モンスターと銘打っているが作者の恐怖イメージが具体化されただけ。
あとは、その大小でレベルが決まる。
レベルが上がることに大きくなって脅威が増した。
冒険者達には判り易いモンスターレベルだった。
迷宮の名前にモンスターの名前が付いていたのは当たり前といえば当たり前。
犬迷宮、猿迷宮、蛇迷宮などだ。
けれども、隆之の迷路は違う。
隆之のイメージには数万種類のモンスターイメージがある。
そして、イメージの数だけモンスターは作られた。
そのため、五階置きにモンスターの総入れ替えが行われる。
それゆえ、迷路の中には数多くのモンスターが存在した。
その変化だけでも冒険者達が戸惑ったほどだ。
そして、そのイメージが凄いのは必ず弱点を有していたこともある。
いや、弱点を攻める以外倒しようの無いモンスターも存在していた。
今までの世界観では、魔法は魔法師の得意分野だけで通じた。
けれども、隆之の迷宮ではそれは通じない。
魔法師は否が応でも、全属性に通じなくてはいけなかった。
それと、戦士職の者達も同様だ。
『魔法剣』という属性魔法を有した剣もある。
今までの迷宮は剣一本のみで済んだ。
けれども、隆之の迷宮では物理ダメージ不可のモンスターも存在する。
まして、属性耐性のあるモンスターもだ。
当然、魔法職の支援なくして迷宮探索は不可能になった。
初めは、モンスターの種類が多いことで驚かれた。
酒場でも盛んにその事が話をされていた。
けれども、弱点が情報のやり取りとして飛び交うのはすぐだ。
階が深くなるにつれて、秘匿性も増す。
やがて、それが情報の売買まで発展した。
迷路に携わる情報の売買が飛躍的に増す。
迷宮外の迷宮職業に『情報屋』という職業が産まれたときだ。
隆之が施したモンスターの制約にもう一つあった。
それは、背後から襲うことを規制した。
それと、乱入だ。
ただし、全部ではない。
迷路の階数分のパーセント制約だ。
だから、一階では99%背後から襲われることがない。
それと、目の前の戦いに集中できる。
そのため、浅い階では六人パーティーが普通となった。
背後から襲われる警戒感が薄まり、後衛の配置が省かれる。
大きな迷路だけに集団で侵入するパーティーには福音となった。
大きいだけに全方位への警戒が必要だったからだ。
少ない人数で迷路探索が出来る。
少ない人数は、パーティーのレベルアップが楽だ。
当然、前衛と後衛がしっかり別れて活動する形だった。
おまけに、モンスターの魔法耐性もいろいろ用意していた。
その加減で魔法職の底上げを謀る。
その意味で、冒険者のレベル上昇が早い。
そのお陰で、多くの冒険者が早々に深い階に移動を行った。
そこに、宝箱の増殖が行われる。
罠もいろいろ検討した。
しかし、毒針、毒ガス、アラームがほとんどだ。
その辺は、菊に無理数のeを計算させて対応させる。
(自然対数の底となる数で計算して出すことが出来る数)
そこに出てくる数字を乱数のようにして使う。
あまり細かくしても意味が無いので適当に切り上げさせたけど・・・
「五億桁まで計算して使いきれません」という返事だった。
宝箱の大量設置は、大量の高レベル盗賊の闊歩となる。
正確には、盗賊のレベルが急速に上昇した。
『盗賊』という職業の重要性が急速に増した結果だ。
今までは戦士や魔法師の影に隠れていた職業がクローズアップされた。
それと、予想外の結果も生まれる。
レベルが高い冒険者の低レベル階の徘徊だ。
高いレベルの冒険者は体力が多い。
低レベルのモンスターの攻撃など相手にもしない。
ダメージが気にならない程度だ。
まさに無双状態だった。
そして、低レベル盗賊の護衛などを行っていた。
あくまで、主は盗賊の護衛だ。
まあ、息抜きに無双を楽しむレベルだった。
迷宮トライとは違って宝箱からの収入で生活できるほどだ。
一方、迷宮経営の方でも変化はある。
高レベル冒険者の低階層徘徊は、収入に繋がった。
モンスターのダメージリスクの無い収入だ。
やはり、数で当たれば当然一撃が入る。
もっとも、相手にもダメージがない。
そのため、モンスターの攻撃が当たることは気にもしていない。
あくまで、護衛対象の盗賊を守ることが主だ。
それが、迷路に対しては確実な収入に繋がる。
結果は、『宝箱をばら撒いた以上の収入』として跳ね返ってきたほどだ。
宝箱を低層にばら撒いたことがより多くの収入に繋がった。