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覚醒しようとする力【63】


 俺と巫女は神殿の窓から庭園に出て、その茂みの中に隠れていた。


「居たか?」

「いや、こっちには居ない」

「捜せ! この近くに隠れているはずだ」


 慌しく神殿兵たちが神殿内を行き来していくのが窓越しに見える。


 俺はマスケラを頭上に押し上げておっちゃんに尋ねる。

 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 イナさんもDもディーマンも、上手く逃げ切れると思うか?


 巫女が鼻で笑う。

 合わせるように俺の頭の中でおっちゃんが答えてきた。

『ディーマンも俺も様々な戦場を生き抜いてきたからな。あぁいう戦況には慣れている』


 カッ、と。

 祭壇のある方角から強い閃光が走った。

 しばらく強く光った後、光は徐々に消えていく。


『あのディーマンが手立てもなく易々と敵地に突っ込んでくるはずがない。なんらかの逃げ道くらいは用意しているさ。捕まった仲間を奪えないほどの戦力なら俺も最初から援護を頼んでいない』


 突然、頭に鈍く金きり音のような痛みが走る。

 急に襲ってきた痛みに、俺はかき掴むように額を押さえた。


 巫女が心配に俺を見てくる。

『どうした? 大丈夫か?』


 痛みが治まり、俺は額から手を退けて首を横に振る。

 なんでもない。大丈夫。


『そうか。それよりも今心配すべきは綾原奈々だ。Xには近寄るなと警告してはいたんだが』


 あのXのことだ。きっと他の手立てを考えているに──ッぐ。


 再び俺の頭に鈍く響く痛みが走る。

 あまりに耐え難い激痛に、俺は頭を掻き毟るように掴んだ。


『おい、本当に大丈夫なのか?』


 だ、大丈夫。


 本当は大丈夫なんかじゃなかった。

 痛みによるショックか、俺の顔からスッと血が引いていくのがわかった。

 頭が少しクラクラする。

 俺の頭の中で、またあの声が聞こえてくる。

 とても幼い子供の声。


 戦ウノ……?


 少しして、痛みが潮引くように治まっていく。


 俺はおっちゃんに尋ねた。

 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 俺の心の声っておっちゃんには聞こえているんだよな?


『こうして会話できているからな』


 だったらさっき俺の頭の中に聞こえてきた別の声もおっちゃんには聞こえぶッ──。


 問答無用に。巫女は俺の頭を荒く掴んでそのまま地面に打ち付けた。

 それと同時に神殿兵の声が飛んでくる。


「居たか?」

「いや、居ない」

「もっとよく捜せ!」


 神殿兵の足音が遠のき、しばらくしておっちゃんが何事なく平然と俺の頭の中で答えを返してくる。


『その声に耳を貸すな。それはお前にしか聞こえないクトゥルクの声だ』


 地面に顔を打ちつけたまま、俺は内心でおっちゃんに問いかける。

 クトゥルクの、声……?


『北の砦の時も白い子犬がお前に話しかけてきたはずだ。今聞こえている言葉と同じことをな』


 俺は記憶を探り、思い返した。

 そういえば言葉じゃなかったけど、たしかにあの時、子犬は俺を見て──


『その声に答えるな。答えた瞬間、お前はクトゥルクの力に意識を呑まれるぞ。あの時みたいにな』



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