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ナイス・タイミングだ!【62】


 俺がハッと顔を上げた時。

 絡まるように鳴り響く金属音とともに周囲にどよめきが走った。


 見れば神官が振り上げた大刀に鎖が巻き付いて阻止している。

 黒い外套衣を着た青年は、冷静に眼鏡を人差し指でくいっと上げると真顔で言い放つ。


「なんかすごく厄介なことに首をつっこんでしまったような気がする」


 俺の心が舞い躍る。

 ナイス・タイミングだ、D!


 セディスや周囲の神殿兵が攻撃態勢に入る。

「何者だ!」

「黒騎士か!?」


 Dの衣服が黒かったからだろう。Dの肩に小猿がよじのぼって言い返す。

「誰が黒騎士じゃ! あんなクソったれどもと一緒にしてもらっては困るな!」


 セディスが鼻で笑って言う。

「どちらも同じことです。我々の邪魔をすれば許しませんよ」


 小猿がDに言う。

「さぁ思う存分戦え、D。経験値が上がり放題じゃぞ」

 しかし、Dは首を横に振る。

「僕には時間が無い。閉館の時間まであと五分だ。五分でこの場を切り上げなければならない」

「向こうの世界のバイトとやらを気にしている場合か!」

「定時厳守のバイトだから無理」


 えっと。なんか会話が……


 隙を見て巫女が俺のところに駆けつけてくる。

 駆け寄ってくるなり、巫女はいきなり俺の隣にいた一人の神殿兵のすねを思いきり蹴飛ばした。

 痛みにその場にうずくまる神殿兵。


 おっちゃんが俺の頭の中で叫んでくる。

『今だ! 逃げるぞ!』


 俺は笑った。


 了解!


 自由になった手足を動かし、俺はその場から立ち上がった。

 迫ってきたもう一人の神殿兵を殴り飛ばす。

 相手のカウンターをとれたのか、殴られた神殿兵は地に倒れたまま起き上がってこない。


 あー、クソ痛っぇッ!


 殴った右手に走る痛み。

 俺は顔を歪めて右手を振る。


 壇上の異変に気付いたセディスが俺たちを見て焦ったように叫び、神殿兵に指示を出す。

「彼を捕まえるのです、早く!」


 巫女が俺の手をとる。

『なにしている! 捕まる前に逃げるぞ、急げ!』


 巫女に手を引かれ、俺は祭壇の裏手──大神殿内部へと駆け出した。



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