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Xの企み【55】


 階段を踏みしめていくことで上階に連れて行かれたのはわかった。

 目隠しをしたのは逃走経路を図られないようにする為か。

 そこからどう移動したのかはわからない。

 強制的に歩かされ、俺はそのことにただ素直に従うことしかできなかった。


 どのくらい歩いただろう。

 ずいぶんと平坦な道を歩かされた気がする。

 足枷のチェーンの音や足音が響いて聞こえきたのはそこがまだ地下だったせいか。

 再び階段を上ることで、物音は響かなくなった。

 上ってすぐ角を曲がる。

 そこからまたしばらく歩き──。

 ある場所で立ち止まらされた。

 扉の開く音が聞こえてくる。

 そのまま再び歩かされ、しばらく歩いて椅子に座らされる。

 もちろんそこで自由にしてくれるわけではない。

 両手足は拘束され目隠しも猿ぐつわもされたまま、俺は体ごと椅子にヒモ状の物で身動きできないほどもきつく縛られ固定された。


 番兵が俺に言ってくる。

「そのままここにいろ」


 動けないんだからここにいるしかねぇだろ。


 ふと、一人分多く足音が聞こえてくる。

 誰かが部屋に入ってきたのだろう。


「ゼニさん。副神官様がお呼びです。後のことは僕がします」


 うげっ。この声、X。


「そうか。ではここはイクスに任そう。行こう」

 番兵と伝令兵が部屋を出て行くのが音でわかった。

 静かにドアが閉まる。

 どうやらここにいるのはXだけか。

 Xが落ち着いた足取りで俺に近づいてくる。

 俺の前でその足を止め、そして何を思ってか俺の猿ぐつわを外し、さらに目隠しを外してきた。

 視界は開け、光が差し込むことで俺は一瞬目を閉じた。

 部屋の明るさに目が慣れてきた頃、ゆっくりと目を開いていく。


 そして、知る。

 今自分が置かれた場所を。

 唖然と俺は声を上げずにはいられなかった。


 なんだよ、ここ……。


 予想外のことに驚きを隠せず、激しく周囲を見回す。

 謁見の間を思わせる豪奢で大きく広い部屋にXと俺の二人だけ。

 その王座とも思える場所に俺は座らされていた。


 ど、どういうことだ? これ。


 クツクツと笑うXの声が聞こえ、俺はXのいる方へと目を向けた。

 そばに立つ金髪で碧眼の優男──X。

 Xが俺に言ってくる。


「ここは神の間と呼ばれる神聖な場所。セディスは祭りの日に、正式に君をクトゥルクに据える気でいるのさ」


 ちょ、待て……。


「焦ったところでもう手遅れ。ゲームオーバーだよ、K。ログアウトは不可能。今の君の姿はアバターじゃない。この世界に体ごと召喚されたんだからね。どこへも逃げられないよ。君はこのまま神に祭り上げられ、そして祭りの日にセディスの合成獣キメラに喰われるんだ」


 その言葉に俺はゾクリと背中に悪寒を走らせた。

 な、なんだって……


 Xが微笑する。

「──と、これはあくまでセディスの目的だ。僕は違う」


 スッ、と。

 Xの片手が伸び、俺の首を掴んだ。


「僕の目的は君がクトゥルクの力に目覚めてくれること。その為だけにセディスに協力したんだ。計画がどうこう言っていたが僕には関係ない。キメラに喰われる前に僕が君を殺してあげるよ」


 Xの手が仄かに光る。

 ともに俺の喉に焼けるような痛みが走った。


 がはッ!


 衝動的に俺は激しく咳き込んだ。

 Xの表情から笑みが消える。

 鋭く、負の感情を俺にぶつけるようにして見下ろし、Xは言ってくる。


「ここまでされても君は何の抵抗もしてこないんだね。力が使えないことをいつまでも言い訳にしないでほしいな。僕を馬鹿にしているとしか思えないよ。

 クトゥルクが最強だというこの世界のルールに従うつもりはない。最強の君に勝つことが僕の全てだ。その為には君が力に目覚めてもらわないと困るんだ」


 Xは俺の首から手を離した。

 ジリジリと焼けるような激痛が喉の奥に鈍く残る。


「君の為にイベントを用意したんだ。僕は大神官の弱みを握っていてね、僕の助言は何でも聞いてくれるようになったんだ。だから、僕はこう助言してみた。

 クトゥルクを祭る日にエスピオナージの女を生贄に捧げてみてはどうかって」


 俺はXに向けて癇癪かんしゃくに叫んだ。


 ふざけん……!


 声が出ないことに気付き、俺は愕然がくぜんとする。

 Xがにやりと笑う。


「君の声を魔法で封じてやったのさ。大勢の信者が集まる祭りの日にクトゥルクであることを否定されたら困るからね。これで君は神になるしかなくなった。たとえ君が神になることなく誰かが生贄を救ったとしても、その時は代わりに僕が自らの手で綾原奈々を殺す。儀式の失敗と同時にね。綾原奈々は僕のすぐ手の届くところにいる。殺そうと思えばいつでもできるんだ。それを覚えておいて」


 一方的に受けてばかりで反撃できず、俺は奥歯を噛み締めて苛立たしげに椅子の背に後頭部をぶつけた。


 それを見てXが満足げに頷く。

「それでいい。怒りを受け入れるんだ。僕が巫女様の死を受け入れたように、君もそうやってクトゥルクの力に目覚めなよ。

 ──それが二人を救う、ただ一つの道だ」



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