副神官セディス【52】
足音や物音から推測して、上階には番兵が一人いるようだ。入ってきた人物に男がかしこまった口調で告げる。
「副神官様」
「少し様子を見にきました。ここに大神官は?」
セディスの声だ。
「はっ。指示通り、事は内密に処理してございます。ご安心を」
「ご苦労でした。くれぐれもあの大神官の耳には入れないようにしていてください。あぁ見えて勘は鋭い御方ですからね。死んだはずの人間がここで生きていると知れたら大変なことになります。せっかくの計画を邪魔されては後々の処分が面倒ですからね」
「承知しました」
「あなたはこれまでに良き働きをしてくれました。いずれ近いうち、クトゥルクの祝福があなたのもとへ訪れるでしょう」
「使命を尽くせたことに感謝します」
セディスがクスと笑う。そして話を切り替える。
「今そこに奈々を連れてきています。彼女の為に温かい紅茶と焼き菓子の準備をお願いします」
「承知しました」
俺はその会話を聞いて眉をひそめる。
奈々だと? まさかアイツのことなのか?
「奈々、入りなさい」
ドアの開く音が聞こえ、一人の足音が聞こえてくる。
「セディス。いくら彼に問おうとも宝玉は戻りません。宝玉は私が隠したのですから」
――この声、綾原!
「下で話しましょう、奈々。ここであなたと言い合っても言葉は平行線のまま。何の解決にもなりません」
「彼を拷問しようと無駄です。彼は何も知りません。宝玉の本当の在り処は私しか知らないことです。拷問をするなら私にすれば──」
「奈々」
静かに、冷たくも落ち着き払った口調でセディスは綾原の言葉を止めた。
「巫女の後ろ盾を持つあなたに、私が手を下せるとお思いですか?
あなたが何を発言しようとどんな行動に出ようと、それはあなたの自由です。ここはあなたにとっての自由な世界。好きにしてもらって構いません。しかし、ただ一つだけ忠告があります。私に指図する権利があなたには無いということを心に留めておいていただきたい。よろしいですね?
――下で話しましょう、奈々。話はそれからです」
……。
会話が止まった。
しばらくして足音だけが響いてくる。
地下に通じる金網状の鉄が、番兵の手により口を開ける。
入り口から中へ。
薄暗い地下に、二人の人物が無言のまま階段を下りてきた。
セディスと綾原だった。




