地下は好きじゃない【51】
いつ気を失ったのかも覚えていない。
気がつけば俺は、薄暗い地下の冷たい石畳の上でうつ伏せて寝ていた。
両手は背中側で縛られ、両足には囚人のごとく短いチェーンで繋がった枷がはめられている。そして口には厚い布生地の猿ぐつわ。
ありとあらゆる方法の魔法魔術を封じる為なのだろう。
魔法のある世界でこんな原始的なやり方しかできないものかと笑いがこみ上げてきたが、実際、よく考えてみれば賢いやり方であった。
……魔法陣が描けない。
俺は魔法陣を描く方法しか魔法は知らない。
あ、そういや手を叩いて明かりを付ける方法も──
ダメだ。手が使えない。
結局魔法魔術関係は全て使えないということだ。
まぁ使えないなら使えないでその方が良い。
俺はごろりと寝返り、仰向けとなって他人事のように呆然と天井を見つめた。
石だ。
空気が湿っているせいか、カビなのかコケなのかわからないものがあちこちに生えている。
またごろりとさらに寝返れば。
鉄の牢を挟んで小さなスペースと階段。その階段の入り口は金網状の鉄で封じられていて、そこから頼りない明かりが漏れていた。
情けなくため息を吐く。
あの後デシデシは上手く神殿の外へと逃げ出せただろうか。
不安を覚えるも、同じ牢にいないことで少し希望は持てた。
そういやさっきから、おっちゃんの声が聞こえない。
モップが肩にいない。
どうやらまた離れ離れになってしまったようだ。
どこかで生きているよな? おっちゃん。
無事でいてくれることを願いたい。
脳裏に思い返す、乱闘騒ぎ。
あの乱闘の後にも関わらず、なぜか俺の体に痛みは残ってなかった。
感覚だけではあるが、どうやらどこも怪我をしていないようだ。
ふと。
今までひっそりと隠れていたのであろう。俺の懐からスライムが、ひょこと顔を出す。
相棒!
俺は思わず首をもたげてスライムを見る。
スライムは俺の頭上へと移動して乗っかると、周囲を気遣うようこっそりと俺に回復魔法をかけてくれた。
そっか。お前が俺の傷を治してくれていたんだな。
俺を励まそうとしてか、スライムが俺の頭上で元気に飛び跳ねる。
さんきゅー相棒。俺はもう大丈夫だ。
スライムの無事がわかっただけでも、俺は安心感に包まれた。
きっと他の仲間もどこかで上手く生きているはずだ。
確信はなかったけど、なぜかそう思えた。
――その時だった。
上階からドアの開く音と誰かの足音が聞こえてくる。
スライムが急いで俺の懐に入り込んで身を隠す。
俺は気を張り詰めると、これから来るであろう人物を知るために、全てのものに耳を澄ませた。




