神殿侵入。やがてそれは一つにつながる【49】
本神殿の中に位置する大神殿は近づけば近づくほど、その一際大きな存在を放ってきた。
荘厳で威圧的。
神聖に相応しく感じる構造ながらも、大神殿を守る為にあちこちに駐在する多くの神殿兵の数により、どこか軍事を抱える要塞のようにも見えた。
大神殿へは迂闊に近づけない。
神殿兵の数が予想以上に多すぎる。
俺は大神殿には近づかず、その途中の祈り場と思われる場所で何かを探す振りをしていた。
建物は独特で神聖。紋様を描いたものや、魔法陣らしきものを象ったものもある。
ポストくらいの小さいなサイズもあれば屋敷並みに大きいサイズのものもある。
細い棒のようなものもあれば、太い樹木のようなものまである。
同じ場所にありながらもそれぞれ違う。
どうやら祈りの場には何かしらの意味があるらしく、順番めいたものはない。
何時間も同じ場所に居続ける人もいれば、数分でその場を離れ別の場所へ移る人も居る。
幸いにも人が多かったのが助かった。
この人ごみでは神殿兵も一人一人を怪しむことはできないだろう。
巡回する神殿兵の目を気にしながらも俺はその付近を観察して回った。
見習いの使役魔術師なのだろうか、それぞれの獣をつれた人たちが各々の祈りを捧げている。
ただひたすら祈るだけの人もいれば、何かをぶつぶつと唱えている人もいる。大地に伏せは立ちを繰り返している人もいれば、魔法で光を生み出して呆けている人もいた。
俺はたまに足元のデシデシが離れていないか心配に目をやる。
デシデシも俺を見上げて泣きそうな顔で言ってくる。
「も、もう帰りたいデシよ、K。怖いデシ」
大丈夫。イナさんの無事がわかったら一旦ここを離れよう。
俺は自分にも言い聞かせるようにしてデシデシを励ました。
怖い気持ちは俺も同じだ。
あまりの緊張感に手の平にはじっとりと汗がにじみ出る。
何か失敗してしまうのでは、と考えるたびに死が脳裏を過ぎり、不安と恐怖で心が押しつぶされそうになった。
信仰を強くおびた異文化の中で、俺は強い緊張感とともに神聖な雰囲気にのまれて完全に萎縮してしまっていた。
この調子だと本神殿に入り込む勇気はない。
そう、何かきっかけさえ作れれば。
道行く人とすれ違うたびに、怪しまれているのではないだろうかと疑うような目で見てしまう。
そう思えば思うほど、俺の中の不信感は煽られ、しだいに視線をあちこちに動かし落ち着かなくなってきた。
『大丈夫だ』
おっちゃんが俺の頭の中で言ってくる。
その一言が今の俺にはとても心強かった。
『機会を待て。チャンスは必ず訪れる。それをじっと待つんだ』
わかった。
俺は小さく頷く。
チリリン、チリリン。
ふと、静かなる鈴の音が遠方から響き渡った。
鈴の聞こえる方向から何かの行列がやってくる。
人々は退き、静かに道を開けていった。
一様に口を閉ざして祈るように頭を垂れる。
人ごみに紛れるようにして不自然なきよう俺も周囲に合わせて頭を垂れる。
通り行く行列は階級高そうな人物たちだと見受けられた。
偉そうに豪奢な輿に乗ってふんぞりかえる小太りの男。
次いでその後ろから来る神輿に──
俺は思わずハッと目を見張った。
そこに乗った人物に見覚えがあったからだ。
白い巫女のような聖職者的服装と、腰の辺りまで伸ばした栗色の髪。その左右少しだけ無音の鈴の付いた髪留めをした女の子──あの時俺に水晶玉を託した女の子だった。
良かった。無事だったんだ……。
俺は胸を撫で下ろす。
だが、その女の子の表情は浮かない様子だった。巫女としての神聖なシンボルというよりも、ただ無理やり飾りをやらされているかのような、そんな感じに見えた。
急にデシデシが焦ったように俺の服を引っ張ってくる。
俺は足元にいるデシデシに目を向けた。
小声で苛立たしく理由を問う。
なんだよ、こんな時に。
デシデシも小声で返してきた。
「K、あれを見るデシよ!」
あれってなんだよ。
デシデシがどこかを懸命に指し示している。
「ほら、あれデシ! 女の子の乗った輿の後ろを歩いている人物デシ!」
言われて俺はようやく彼女の神輿の後ろを歩く人物に目を向けた。
見た瞬間、
俺は大きく息を飲み込んだまま呆然と口を開けた。
デシデシが尚も俺の服を引いて小声で言葉を続けてくる。
「あの時セディスの地下で見た仮面デシ! あれと全く同じ仮面を被っているデシ!」
俺の脳裏にあの時のことがよみがえってきた。
セディスの行動に違和感を覚えたあの日の夜、調査の為にと忍び込んだ地下の中でデシデシとふざけあったあの時。
尾羽を付けた仮面で顔半分を隠したデシデシに俺は驚いて腰を抜かした。
あの時見たあのマスケラと全く同じだ──。
そういう、ことだったのかよ……。




