かもしれない運転を心がけよう【45】
ケンタウロスが暗い顔して俺の隣でぼそりと呟く。
「もしかしたら神殿兵に殺されるかもしれない」
怖ぇーこと言うなよ!
街の中心地となる、巡礼者が行き交う神殿敷地の広い庭園の道中で、俺は緊張の面持ちでケンタウロスを連れて歩いていた。
神殿へと伸びる一本の長い道。
東西南北。四本あるその西の道。
その先には荘厳な門が聳え立っている。
高い塀に囲まれた金色の神殿──それがこの街の最もたる中心地だった。
ケンタウロスの手押し車の中で、水晶玉と本の入った風呂敷を首に巻いたデシデシが顔を出し、俺に不安そうな声で言ってくる。
「ほ、本当に入るデシか? K」
……は、入るしかねぇだろ。ここまで来たら。
ケンタウロスがぼそりと、
「もしかしたらこの先に死──」
言わせねぇぞ、コラ。
小猿が俺の肩で言ってくる。
「しかし小僧っ子よ。何かしらの計画は立てておるのか?」
反対の肩でモップが鼻で笑ってくる。
『無計画で捕まったら笑えるな』
笑えよ。無計画だよ。作戦なんて思いつかねぇよ。
すると俺の頭上にいたスライムが跳びはねるようにして地上に降り、そのままどこかへと跳ねていく。
お、おい!
肩で小猿が聞いてくる。
「どうしたんじゃ? 小僧っ子」
スライムの奴がどこかに行こうとしているんだ。
おっちゃんが俺の頭の中で言ってくる。
『そのまま追いかけろ』
え?
『スライムはお前をどこかに導こうとしている』
導くってどこに?
『とにかく後を追え』
わかった。
言われるがままに俺はスライムの後を追いかけた。
※
道端となる木の下で、スライムはそこで休憩していた一人の女の子にじゃれつく。
最初は小さな悲鳴を上げて驚いていた女の子だったが、それがスライムとわかるとすぐに仲良くなった。
駆け寄ってきた俺に女の子が聞いてくる。
「これ、お兄ちゃんのスライム?」
あ、あぁそうなんだ。ごめんな、悪いスライムじゃないから。
「お兄ちゃんってもしかして使役魔術師?」
問われ、俺は目を泳がせて頬を掻いた。
内心でおっちゃんに助けを求める。
どうしよう、おっちゃん。
『賭けだな。お前に任せる』
ま、任せるって
『スライムが懐くくらいだ。スライムを信じてやれ』
わ、わかった。
俺はとりあえずその子の質問に肯定してみることにした。
うーん、と……。そうかもしれない。
途端に女の子の表情が華やぐ。とても嬉しそうに何かの期待を込めて、
「じゃぁもしかしてラーチラ階級の人?」
え? いや、えっと……
返答に戸惑う俺を見て、女の子の表情が途端に暗くなる。テンションを落として期待外れとばかりに、
「じゃぁもしかしてラープラ?」
俺は微妙に首を傾げながら笑みをひきつらせ答える。
そ、そうかもしれない。
「なーんだ。お兄ちゃんってまだ見習いだったんだ」
見習いっていうか、その……うーん、見習いかもしれない。
すると俺の後ろから女性の声が聞こえてきた。
「アミル」
「あ、お母さん!」
どうやらこの女の子の母親だったようだ。
女の子がスライムを抱いたまま母親のもとへと向かう。
あ、おい。そのスライム返してくれ。
俺が声を掛けると、女の子がすぐに母親に俺のことを言い始めた。両手の平の上にのせたスライムを母親に見せ、
「お母さん。あのお兄ちゃんね、ラープラなんだって」
母親が俺へと目を向ける。
うげっ。
俺は逃げ出そうと無言で足を引いた。
すると母親は俺に向かってやんわりと微笑み、片手を胸に当てて挨拶してくる。
「あなたに神のご加護があらんことを。私からあなたに何か贈らせてください」
俺は内心焦りまくる。
え? いや、え? ど、どうしよう。なんて返せばいい?
『下手なこと言うなよ。一気に身バレするぞ』
じゃぁなんて言えばいい? そんなすぐ言葉なんて思いつかねぇよ!
すると俺の隣にいたケンタウロスが真顔で一歩前に進み出て母親に言った。
「ご婦人、もしや今日のパンティーは白色ですか?」




