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迷い【44】


『あー……頭痛ぇー……ガンガンする……気分悪ぃー』


 翌日。

 俺は人通りのまばらな表通りの道を歩いていた。

 陽が昇ったというのにこの街の朝は遅いのか、どこの店もまだ閉まっている。


『あー……頭痛ぇー……』


 俺の肩の上ではモップがうめき声を上げながら、ぐったりと伸び倒れていた。まるで竿にかけられた干物のようだ。

 その反対の肩で小猿が「やれやれ」とお手上げする。


「まだまだ若造だのぉ、お主。あの程度の飲みで二日酔いとは。どうやらこの勝負、ワシの勝ちじゃな」


 いや、だから何の勝負だよこれ。


『あー……気分悪ぃー』


 さっきからうるさいんだけど、おっちゃん。


 俺の足元で、本を入れた風呂敷を首に巻いたデシデシが不安そうな顔を浮かべて服を引いてくる。

「この本持ってどこに行こうとしているんデシか? K」


 ケンタウロスを迎えに行くんだ。そしてイナさんとの約束通り、このまま街を出よう。


 デシデシが目を丸くする。

「ま、街を出るデシか!? 彼女イナを置いて街を出るデシか!?」


 ……。

 俺はその言葉に足を止めた。

 街を見回しながら、そして思う。

 この街を出て、俺はこれからどこへ行こうとしているんだろう。

 仮に本を持って国を抜け出すことに成功したとして、俺に行くあてなんてない。

 この世界で生きていく自信もない。

 デシデシもモップもスライムもおっちゃんもディーマンも、みんなこの世界の住人だ。

 だけど俺は違う。

 本当は帰りたいんだ。元の世界に。

 帰る方法を見つけて、俺だけこの世界から抜け出して……。


 俺は顔に手を当て、自分で自分を呆れ笑った。

 なんかずっと色んなことから逃げてばっかじゃんか。俺。



 ※



 ──二時間前。宿屋。


「ケイ。あんた今日はここに居な」


 え?


 ベッドのシーツを整えていたイナさんにそう言われ、俺は呆然とした。


 なんで?


「昨日から街の様子がおかしい。何かの祭りの準備を始めようとしている。あたい、ちょっと神殿に行って調べてくるから、あんたはいざという時の為にここに残ってな」


 残るって……。


「二時間待ってもあたいが帰ってこなかったら本を持って街を出な。あたいの馬車は……好きに使っていいから」


 イナさん!


「言っといただろう? どちらかが必ず本をこの国から持ち出すって。二時間待ってもあたいが帰ってこなかったら何かあったってことだから、本を持って早めにこの街を出な。本はいつでも持ち出せるようにベッドの下にまとめてあるから」


 何もそこまで危険なことをしなくてもいいだろ。近くにいる誰かに聞けばいい。


「何をどう聞くってんだい? 現地人なら知ってて当然のことだったら? 警戒するのは何も神殿兵だけじゃないんだよ。この街の住民だって異国人だと知ったら袋叩きにするんだからね」


 イナさん……。


「あたいが神殿に行って調べてくるから、あんたはここで二時間だけ待ってな。もし二時間待っても帰ってこなかったらすぐにここを離れるんだ。できるだけ遠くに。いいね?」



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