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本当のことを言ってくれないか?【43】


「どこ行ってたんだい、ケイ! 捜したんだよ!」


 それは本当に偶然だった。

 路地裏から表通りへと出た瞬間、イナさんが俺を見つけてくれたのだ。

 フードを取っていたのが幸いである。


 イナさん。俺……


 無事を確認するように、イナさんはぎゅっと俺を抱きしめてくれた。

「どこかで殺されたんじゃないかってずっと心配していたんだ。生きていてくれて良かった」


 ごめん、心配させて。俺、大丈夫だから。


 告げるとイナさんは俺から離れて、代わりにがしがしと頭を掻き撫でられた。

「もう黙ってどこかに勝手に行くんじゃないよ」


 うん、わかった。そうする。


「K~!」

 デシデシが泣きながら俺の足にしがみついてくる。

「心配したデシよ! Kはいつの間にか居なくなるから困るデシ! 勝手すぎるデシ!」


 水色スライムが俺の頭上に飛び乗ってくる。

 心配したんだよとばかりにいつも以上に頭上で跳びはねて。


 お前ら……。


 俺の肩によじのぼってきた小猿が首を傾げて問いかけてくる。

「どうした? 小僧っ子。さきほどからあまり元気がないな。あの毛むくじゃらの生き物を連れていないようじゃが何かあったのか?」


 俺は沈うつに顔を俯けて、そして無言で首を横に振った。


 イナさんが心配して言ってくる。

「きっとケイもあたい等を捜していて疲れたんだね。近くに宿をとっているんだ。そこでしばらく休もう、ケイ」



 ※



 宿は少し古びた木造三階だった。

 これでも他と比べればけっこうマシな方である。

 その二階の南端となる部屋に、俺とイナさんは相部屋でとられていた。

 同じ部屋だということは、イナさんはそのくらい俺のことを信頼してくれているのだろう。

 別々の部屋なんてとれない。取るほどの余裕が俺もイナさんもない。まず俺には金が無い。

 なんだかイナさんは俺のことを男としてではなく弟として扱ってくれているようだ。

 色々と世話をやいてくれる。

 一人っ子として育った俺には姉という存在がどういうものかよくわからないが、もし居たとしたらこんな感じだったのだろうか。

 その上無銭でお荷物な弟ときたもんだ。

 実の弟でもないのに本当に申し訳なく思う。

 食事なんかもそうだ。金が無くては何もできない。一人で何かをやろうにも字が読めない。

 俺にできることといえば唯一、会話だけだ。

 魔法も使えない。

 誰かに頼らないとこの世界では生きていけないのだ。

 何かと歯がゆい気持ちと遣る瀬無い気持ちでいっぱいだった。


 その日の夜はベッドで眠れるはずがなかった。

 俺はベッドから静かに身を起こす。

 傍で寝ていた水色スライムがすぐに起きて俺の頭上に乗っかってきた。

 微笑して。


 俺は足音を殺してベッドから降りると、すやすやと眠るデシデシとイナさんを部屋に残し、毛布を片手にそっと部屋を出た。



 ※



 宿屋の横に設けられた客専用の馬車置き場。

 馬だけは別のところに預けていて荷車だけの置き場となっている。

 盗難面を考え、荷車の中はどれも空っぽだ。

 俺は人けのないその置き場の、イナさんの荷車へと移動すると、その幌の中へとごそごそ入っていった。


 あれ?


 そこにはもうすでに先客がいた。

 小猿とモップが酒をみ交わして呑んでいる。


 いや、どうしたんだよ、それ。


「ワシのマイマネーじゃ」

 酔いの回った小猿が陽気に酒ビンを振りながら答えてきた。

 その隣でモップがちびちびと飲みながら、

『持つべきはやはり友だな』

「うむ。今コイツが良いこと言った」


 俺はあまりの酒臭さに指で鼻をつまんで手をあおいだ。

 うわっ、酒臭ッ! なにやってんだよ、おっちゃんもディーマンもこんなところで。


 ろれつ危うい口調で小猿が答えてくる。

「あんな寝静まった場所でチビチビやってられるか」

『酒場で珍獣二匹ってのも、なんだか寂しくてな』


 ここで飲んでいても充分寂しいだろ?


『まぁな』

「二匹じゃない、三人じゃ。小僧っ子も入れたら三人になる。小僧っ子、お前も早く大人になれ。ワシ等と一緒に酒飲むぞ」


 ははは。あー、えっと……

 俺は微妙な笑いで返した。


『適当にうんと言っとけ』


 あー、うん。


「よし! よく言った小僧っ子。でらく:*“#%@&……」


 ぽてむ、と。

 小猿は意味不明なことをごにょごにょ言いながら、そのまま倒れて横になった。

 すぐにグーグーと寝息が聞こえてくる。


 ちびちびと酒を口にしながらモップ。

 おっちゃんが鼻で笑う。

『ざまねぇな、ディーマン。俺の勝ちだ』


 いや、何の勝負だよこれ。


 俺はため息を吐いてモップのそばに移動すると、そこに腰を下ろした。

 尋ねる。


 もう平気なのか? おっちゃん。


『何がだ?』


 無理してないよな?


『無理って何のことだ?』


 体の心配してやってんだよ。誤魔化したり教えないとか言ったりするのはもうやめろよ。ちゃんと本当のこと俺に話してくれ。魔法を使うのと引き換えに命を削ってるって、本当なのか?


 モップが飲みかけの酒を下に置いて鼻で笑ってくる。

『お前はXの言葉を真に受けるのか?』


 だったらなんであの時いきなり倒れたんだ?


『寝不足だったんだ。突然睡魔に見舞われた』


 そうやって誤魔化すなよ、本当のこと言ってくれ。気絶したおっちゃんを見てディーマンが言ったんだ。

 無理したせいだって。大きな魔力の使い過ぎだって。


『まぁあれだ。この姿は借り物だ。本音を言えばこれ以上精神だけ飛ばすってのもなかなか疲れるものがある。通信回線をちょんと切ってやるようなもんだ。俺も休憩ぐらいする』



──Kと切り離された状態で大きな魔力を使うのはやめときなよ。今のあんたは大きな魔力を使えば使うほど死に急ぐようなものだ。セガールさんは喜ぶかもしれないけど僕が困る。あんたには死んでもらったらまだ困るんだ。Kの封印を解いてからにしてもらわないと、こんな状態のKと戦っても何の面白みもない──



 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 ……死んだりしない、よな?



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