そうだ、前向きに生きよう。希望はきっとそこにある。【39】
馬車を走らせること丸二日。
俺たちはついに【ガーネラ】へとたどり着くことができた!
……。
街の中心地にある広場の噴水を前にして、俺は両腕を大きく広げて高らかとそう言い放った。
ここが始まりの街とあってか、街の人口は観光地並みに多い。
皆似たような格好をしているせいか個々で目立つことはなく、このようなパフォーマンスでもしなければ一気に注目が集うことはない。
誰の気持ちも一様で、白い目を俺に向けてそっと距離を置いてくる。
モップが俺の被っているフードをくいくいと引っ張ってきた。
それと同時におっちゃんが頭の中で話しかけてくる。
『もういい。そのくらい目立てば充分だ』
俺は素に戻って両腕を下ろし、さりげない仕草で辺りを見回す。
神殿兵は?
『去った。どうやら上手く誤魔化せたようだな』
もう俺を尾行してこないってことか?
『いや、そうとは限らん。検問所であれだけ不審に怪しまれれば、しばらくのお付き合いはよろしくだ』
……。
俺は真剣な顔して内心でおっちゃんと会話を続ける。
なぁ、おっちゃん。
『なんだ?』
これからどうする?
『何が?』
何がって、イナさんのことだよ。もう一緒にいるべきじゃない。危険だよ。検問所での話聞いただろ? 黒騎士が確実に俺たちを追いかけてきている。
『【アタン】と【アネル】が黒騎士の襲撃を受けて壊滅したって騒ぎか。たしかに偶然にしては確実に同じルートを通ってきているな。あの時道を違わず【アネル】に到着していたら確かにヤバかったかもしれん』
なぁおっちゃん。俺、思ったんだ。イナさんには悪いけどこれ以上一緒に居るべきじゃない。彼女を巻き込みたくないんだ。
『だがお前一人でこれからどうする? 彼女無しにこの国で生き延びられると思うのか?』
俺は一人じゃない。おっちゃんもいるしディーマンもいる。デシデシもモップもスライムも、俺には仲間がいるんだ。きっとこれからだって何とかなる。それにこの国を脱出したところで俺の現状は変わらないんだ。ここは俺が住んでいた世界とは違う。帰らなければならないんだよ、元の世界に。
戻ろう、おっちゃん。セディスが居た街に。きっと元に戻れる方法がセディスの家ン中にあるはずだ。
『戻るのはいいが、徒歩であの街まで戻るのか? 相当な距離だぞ?』
それでも戻るんだよ。ケンタウロスもいるし、それにいつかはDもここに戻ってくる。俺には仲間がいる。黒騎士だって一度襲った場所には来ないはずだ。
『黒騎士は神出鬼没だ。どこにだってすぐに現れる』
俺が力を使えばの話だろう? 使わない限りはすぐに現れない。
『ほぉ。少しは要領がわかるようになってきたじゃないか。そうと分かればさっそく彼女のところへ戻ろう。お前の仲間はみんなそこに居る』
……。
俺は呆れるようにため息を吐いて人差し指を眉間に当てた。
そうだよな。なにやってんだろ、俺。
『良いきっかけが作れたな。まぁ黙って去るよりは彼女に何か一言声をかけてやるべきだ。あの本も何冊かは受け取ってやれ』
だよな。
俺は体を方向転換してイナさんのいるところへと向かおうと踏み出した。
――そんな時だった。
何からか逃げるように、急ぎ走る一人の女の子が俺にぶつかってきた。




