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何やってんだよ、俺は……【38】


『やってくれたもんだな』


 頭の中に聞こえてくる、おっちゃんの呆れに満ちた声。

 馬車を降りた俺は、粉々に砕け散った道標の前にして愕然と膝を折ってうな垂れた。


 行く手に表れた二つの道。

 西か東か。

 それが記されていたはずの双方矢印の板を、俺はモップという球を投げて見事に打ち抜いたわけだ。

 ちなみにモップは無傷である。

 しかも涙ぐましいことにモップは自分で砕いた板の破片を一つ一つ拾い集めて、それを地面の上で丁寧に繋ぎ合わせようとしていたのである。

 まるで「ボクが壊しちゃったんだから仕方ないよ」と言わんばかりに。

 俺はそんなモップの誰を憎もうともしない清らな心に精神を砕かれて、地面に打ち伏して泣いた。


 違う、違うんだモップ! それはお前が壊したんじゃない、俺が壊したんだ! 俺が八つ当たりにお前を投げてしまったんだよ! だからお前は何も悪くない。悪くないんだ、モップ……。

 頼む、モップ。俺を一発ぶん殴ってぐふッ。


 モップは一切の手加減なしに俺を速攻グーぱんちで殴ってきた。


 俺は一瞬意識が飛んで、気が付いた時には地面に昏倒していた。

 

 頭上でスライムが俺に回復魔法をかけてくれている間に、モップは無言でイナさんにさきほど組み立てたばかりのぎ板を差し出した。

 イナさんはそれを受け取り、文字を読み上げる。


「えーと、ムーのミリギ語の上に点。おそらくこの字はテラだね。次に鳥の絵が付くってことは……【ガーネラ】。

 この道はどちらかが【ガーネラ】で、どちらかが【アネル】ってことか」


 そして顎に手を当て考え込む仕草を見せながらため息を吐く。


「誤って【ガーネラ】なんて町に着こうものなら、今までの分が取り返しのつかないことになりかねないよ」


 ようやく原状回復した俺は地面から起き上がってイナさんに尋ねる。


 そんなにヤバイとこなのか? 【ガーネラ】って。


「うーん、なんていうのかな。この国には巡礼って言葉があるように、巡礼する人たちが道に迷っても町の名前だけでその場所が国のどこに位置するのかを教えてくれる地図みたいになっているのさ。

 ガーネラって言葉は【神の生まれた場所】【魂の始まり】という意味。何をするでもその街で始まり、巡礼もそこから始める。まつりごとも行事も全部、その街から始めるってこと。国にとっては大切な場所だから国の外側に位置するはずがない。

 逆にアネル、アタンと名の付く町は【神に守られた場所】【魂を来世へ運ぶ場所】。つまり国の外側に近いから神の守りに関する言葉が使われているってわけ」


 へぇ。

 関心に頷きを返す俺は、正直まだ自分の犯した事の重大さに気付けてなかった。

 しかしイナさんの次の言葉でようやく顔を青ざめることになる。


「つまり誤って【ガーネラ】なんかに着いたら、国を出るどころか、あたい等の今まで走ってきた道は全部無駄になるってことさ」



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