おっちゃん本気かよ【30】
Dと小猿の案内のお陰で手薄となった裏手の検問から上手く外へと抜け出ることに成功した俺は気絶したデシデシを胸に抱いて、待機させていたという馬車に向かって走っていた。
検問を抜けた先は深い森。
その森の中を少し走ったところに、馬車は待機していた。
俺は何かを察して足を止める。
「どうしたんじゃ? 小僧っ子」
隣を走っていたDも足を止め、その肩にのった小猿が俺に問いかけてきた。
俺は恐る恐る指先を馬へと向ける。
いや、あれ……なんかおかしくね?
俺の肩でモップが俺の頬を裸手でつねってくる。
痛ぇーよ。なんでつねってくるんだ?
その問いかけに答えたのはモップではなく、俺の頭の中のおっちゃんだった。
『事は深刻に急いているという時にどうした? 黒騎士に関することか? このタイミングでそれ以外の天然かましたらどうなるかわかってんだろうな?』
いや、それはそれでどうなるんだ? おっちゃん。
『モップの必殺技──激弱ぱんち見舞ってやる』
なんだよ、それ。逆に食らってみたくなる攻撃だな。
俺は余裕でモップの攻撃を頬に受ける。
そしてよろけながら地面に膝をつき、頬に手を当てた。
何事なくおっちゃんが俺の頭の中で語りかけてくる。
『で? 何の話の途中だったか』
攻撃を受けた俺を癒すようにして水色スライムが回復魔法をかけてくれる。
俺はそっとスライムを抱き寄せて頬すりした。
本当の俺の味方はお前だけだ、相棒。
そんな俺たちを冷ややかな目で見つめながら小猿が吐き捨ててくる。
「お主たちは一体さっきから何をふざけておるんじゃ」
俺は真顔に戻るとスライムを頭上に据え置いて話を戻した。
幌を引く馬に再び指を向けて小猿に問いかける。
本当にあれに乗って移動するのか? ──と言うより何かのギャグだよな? 本当に。
小猿とDの目が馬車へと向く。
そこには古布を張っただけのボロい手押し車を持った濃い顔の人馬が、俺たちのことをじっと見つめていた。




