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SR:B 2 ─そして世界は狂い出す─ 【通常版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 現実世界編
13/74

仕掛けられた罠【13】


 飯を食い終わって、二階の自室へ戻ろうとしていた時だった。


 ふと、電話のベルが鳴る。


 俺は足を止めた。

 そして思い出す。

 やべ。昨日の夜、朝倉に電話するの忘れてた。


 慌てて電話へと向かう。

 受話器を取ろうとして、頭の中でおっちゃんが声をかけてきた。


『取るなよ』


 え?


『罠だ』


 罠?


 鳴り続ける電話。

 取らずにいたせいか、母さんがやってきた。


「どうしてここまで来て電話取らないの?」


 い、いや、なんとなく。


 母さんが不思議そうに首を傾げて俺の代わりに電話を取る。


「あら、朝倉君。えぇ、居るわよ。ちょっと待ってね」


 母さんが俺に受話器を渡してくる。

 俺は受話器を取って恐る恐る答えた。


 も、もしもし……?


 電話先の朝倉の声は確かに暗く思いつめたような声をしていた。


「あのさ。急で悪いんだけど、今から学校に出てこないか?」


『切れ』


 え?


『今すぐ切れと言っているんだ!』


 おっちゃんに怒鳴られ、俺は思わず反射的に電話を切ってしまった。

 母さんが怪訝に尋ねてくる。


「どうしたの? 朝倉君と喧嘩でもしたの?」


 い、いやそんなんじゃない。けど、なんとなく。


「なんとなく?」


 すぐに電話が鳴る。


『例の彼女からだ。取っていい』


 言われるがままに、俺は受話器を取る。


 もしもし?


 電話先の声は結衣だった。

 結衣の声は恐怖に震えていた。


「……ねぇK。変なこと聞くけどさ、さっき電話した? あたしの頭の中の人がね、それはKじゃないから切りなさいって言うから不安になって」


 一息置いて、俺は答える。

 切って正解だ。俺は電話していない。


 結衣が安堵の息をつく。

「そう、良かった。それならいいの。ありがと」


 あぁ。


 電話を切って。

 俺はすぐに朝倉に電話をかけた。


 もしもし。俺だ。


「あー? なんだお前かよ。今日は部活ねぇぞ」


 知ってる。お前さ、昨日と今日で俺に電話をかけてきたか?


「いや、してねぇよ。なんで?」


 さっきも電話があったんだ、お前から。


 朝倉が笑う。

「それ誰かと間違ったんじゃね?」


 声は間違いなくお前だったし、母さんにも朝倉だと名乗っていた。


「は? 電話なんてかけてねぇし。何の冗談だよ、気持ち悪ぃー」


 ……。


「……マジか?」


 マジだ。


「なにそれ都市伝説か? スゲー体験だな、お前。なんかオレ鳥肌立ってきた」


 じゃぁお前は本当に電話していないんだな?


「マジでしてねぇって。なぁその話、もっと詳しく聞か」


 用はそれだけだ。じゃぁな。


 俺は話半分で電話を切った。

 母さんが心配そうに尋ねてくる。


「朝倉君、電話してないって?」


 きっと誰かのイタズラだ。気にしなくていいよ。

 俺は心配かけまいとそう答えた。


 母さんが両腕を擦りながら言ってくる。

「イタズラにしてもなんだか気味が悪いわね。今度またそんな電話がかかってきたら教えてちょうだい。警察に行って相談してみるから」


 わかった。

 俺がそう頷くと、母さんは安心してキッチンへと戻っていった。


 頭の中でおっちゃんが声をかけてくる。


『意外と優しいんだな、お前』


 うるせぇよ。


 いつになく真剣な声でおっちゃんが俺に尋ねてくる。

『突然だがお前に一つ質問がある』


 質問?


『あぁそうだ。正直に答えろ』


 なんだよ。


『お前、まさかそっちの世界でセガールに見つかったわけじゃないよな?』


 え。


『なんだ、その図星な返答は』


 いや、なんつーかその……。


『なぜすぐ俺に知らせなかった?』


 知らせるほどのことでもないと思ったんだ。あれから何もなかったし、会ってもいない。


『いや、もういい。手遅れだ。セガールにこのことがバレたんなら隠すまでもない』


 隠す? このことって何のことだ?


『こっちの都合だ。気にするな』


 オイ。そろそろ言えよ、本当のこと。


『やーだね。俺が言わなくてもいつかはお前にバレることだからな』


 じゃぁもういいよ。理由も聞かないし、教えてくれなくてもいい。その代わり、今すぐこの力を他の誰かに転送しろ。


『誰がいるか、そんな呪われた力。俺もいらないっつーの』


 オイ、今なんっつった?


『まぁそんなことよりだ。今日は迂闊に動いたりするな。とりあえず家でじっとしていろ。俺がセガールの動きを探るまではな』


 どのくらいかかる?


『丸一日外出禁止令だ』


 ふざけんな。出るからな、俺は。


『じゃぁ勝手にしろ。その代わりセガールに捕まって拉致られても俺は知らんからな』


 ……。本当に、ここに居れば安全なんだろうな?


『さぁな。それはわからん。お前がこっちの世界に来れば何とか守ってやれるが、そっちの世界だと俺は一切手出しできん。

 調査するにはしばらくお前との交信を絶たなければならなくなる。その間お前は無防備だ。セガールが接触してくる可能性も充分考えられるから、まぁ拉致られない程度に気をつけろよ』


 その言葉、もっと早めに言っとくべきだろ。


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