気のせい、だよな?【11】
やっと結衣から解放された俺は、買い物を済ませて一人家路に帰りついた。
ただいまー。
リビングから母さんが顔を見せ、玄関へとやってくる。
「ご苦労様。遅かったわね」
色々あったんだ。
俺はそう言って母さんに買い物袋を手渡した。
「あら、どうしたの? その手首のミサンガ」
ぅげッ! 忘れてた。
俺は慌てて手首を隠すと、「なんでもねぇよ」と言って顔を逸らした。
母さんがニヤリと笑う。
「もしかして母さんの知らないところで彼女とかいるんじゃないの?」
そんなんじゃねーよ。
「それより、ちゃんと買ってきてくれた?」
エリンギ?
「残念。えのき」
やっぱりな。そうだろうと思ってえのきにした。
「さっすが我が息子。わかっているじゃない」
まぁな。
俺はそう答えて靴を脱ぎ始めた。
今日の夕飯なに?
「きのこカレーよ」
カレー!?
「あら? ダメだった?」
そうじゃなくて、えのき関係なくないか?
「きのこカレーと言えばえのきでしょ?」
しめじだろ!?
「あ、それよ。しめじ」
……いや、もう何きのこだろうと別にいいよ。カレーだったら。
俺は玄関から上がると二階へ歩いていった。
その後ろから母さんが声をかけてくる。
「あ、そうだ。さっき朝倉君から電話があったわよ」
わかった。後で電話しとく。
「朝倉君と何かあったの?」
俺は足を止めて怪訝な顔で振り返る。
え? なんで?
「気のせいかしら。なんか思いつめたような暗い声をしてたのよね」
あの朝倉が?
「そうなの。聞いたんだけど、何も話してくれなくて」
……。
自室へ行くのを止め、俺は玄関にある電話へと向かって歩いた。
受話器を取り、朝倉の家に電話をかける。
しばらく呼び出してみたのだが、誰も電話に出なかった。
俺は首を傾げて電話を切る。
誰もいないみたいだ。
「変ね。ほんとについさっきだったんだけど」
出掛けたのかな?
「そうかもしれないわね。またしばらくして掛けてみたら?」
うん、そうする。
「じゃぁお母さんはさっそく料理でも始めますか」
え? 今から?
「お風呂先に入ってなさい。その間にぱぱっと作っちゃうから」
母さんが買い物袋を手にキッチンへと戻っていく。
俺も電話から離れ、一階の風呂場へと向かおうとした。
ふと──。
電話のベルが聞こえたような気がして。
俺は足を止めて電話へと振り返った。
しかし、電話は鳴っていない。
気のせい、だよな?
俺は首を傾げて風呂場へと向かった。




