自転車
特にありません
新しい道を見つけた。心地いい海風が流れる海岸線沿いの脇道の先だ。友達を引き連れて立ち入り禁止の看板を無視して坂道を登っていく。
ゆうくんは「危ないよ、引き返そう」と言うが僕とケンちゃんは2人で「大丈夫だよ!」と言いゆうくんの手を引いて進んだ。
しばらく進むと山の斜面に立てかけるように自転車が放置されていた。誰かが捨てたのだろうか? 周りを見渡すとすぐ先の道は土砂崩れで崩落していた。まさかと思い四つん這いになり、頭だけを下へと覗かせる。人は落ちていない。
僕が一人安堵の表情を浮かべていると、ケンちゃんが
「おい、この自転車まだ乗れそうだぞ! 」と言った。僕は振り返って「本当! 」と聞く。僕らには少し大きいが、お父さんやお母さんに自転車をせがんでも買ってもらえない僕たちには、思ってもみない幸運だ。僕らはその自転車に交代で乗っては登ってきた坂を猛スピードで下った。登っては下り、登っては下りを繰り返す。自転車はギーギーと不気味な音を鳴らすがそれ以外は問題なく動く。3人で交代で自転車を楽しんだあと僕らは土砂崩れでなくなった道の少し手前に秘密基地を作ることにした。適当な枝を集めて斜面に立てかける。大きな枝を立てかけただけの小屋とも言えないその秘密基地で僕らは遊んだ。気が付けば海が赤く染まっている。家に帰らないと、僕らは自転車を秘密基地のなかに隠して3人で家へと走った。
次の日、3人で集まって秘密基地の話をする。ゆうくんは花札を持っていくと言う。ケンちゃんは煎餅を、僕はおじいちゃんの倉庫からこっそりノコギリと釘とトンカチを、放課後また3人であの場所へ行く。坂道を登ってその秘密基地へ、ワクワクする響きだ。僕は3人で役割を決めて秘密基地を大きくしようと提案した。ゆうくんは枝運び、ケンちゃんはノコギリで木を集めて、僕がそれを釘とトンカチでくっつける。皆すぐにすぐにそれぞれの事をやりに行った。僕だけ最初手持ち無沙汰だったからケンちゃんと一緒に木をきりに行こうとした。するとケンちゃんは言う「なぁ、ここ足跡があるぞ」僕がそれを見ると確かに大きな足跡があった。もはや壁と言っていいレベルの斜面に足跡があり、足跡は上まで続いている。僕とケンちゃんは話し合ってから木を切るのをいったんやめ、上に登ってみることにした。ゆうくんが来るのを待ってから3人でだ。ゆうくんがかえってきてその斜面を登ろうとするが急すぎて足をかけようにも届かない。3人でなんとか順番に引き揚げてはまた押してもらってと言う感じで登ろうともしてみるも上まではたどり着ける気配がなかった。仕方なく僕らは秘密基地づくりをいったんやめて、木を切り、梯子みたいに枝を立てかけてそれを使って登ることにした。だけれど、そこまで太くない木だと言うのにびくともしない、3人で交代でノコギリを引いた。引っかかって抜けなくなったら3人で引っ張る。そして、半日かけてやっとその木が倒れた。バキッと大きな音を立てて木が滑り落ちて斜面へと滑り落ちた。こっちに倒れてこなくてよかった……。幸いなことに切ったそれはうまいこと斜面にもたれかかるように滑り落ちてくれたおかげで思った通り梯子のように登れた。3メートルくらい登ると結構広めの獣道がありそこにも足跡が続いていた。僕ら3人はその足跡を追いかける。木々が揺れ、不気味に鳴く鳥の声にゆうくんは怯えていたが僕とケンちゃんは「大丈夫! 」とゆうくんの手を引いて進んだ。しばらく歩き続けるとツンと鼻を刺す臭いがした。線香のような、ごみ袋みたいな何とも言えない嫌な臭いだ。僕らは鼻をつまんで歩いた。てっぺんにはひらけた広場のような場所があった。夕日がすごくきれいに見える場所だ。他には大きな石碑のような物があるだけ。ふと、周りを見渡すとゆうくんが夕日をみようと奥の方へ歩いていた。僕とケンちゃんが「あんまり向こうへいくなよー」と叫んで他に何かないかと周りを散策しているとゆうくんの「うわぁ!」と叫ぶ声が響いた。僕とケンちゃんがゆうくんのほうを見るとゆうくんは尻もちをついて震えていた。何事かと2人で近付いてゆうくんの様子を見ると、下を指さして何かをポツポツと呟いていた。僕とケンちゃんも指の先を見ると、恐ろしい光景があった。何かを握りしめている人が横たわっていた。最初はなんのことないと思っていたが、よく見ると腹から黒い液体を漏らし、目はくりぬかれたように空洞になっている。慣れていると思っていたイヤな臭いが鼻を刺す。線香のような臭いをかき消すようにイヤな匂いが海風に乗って顔に当たる。思わず僕は吐いてしまった。ケンちゃんは走って逃げ出した。僕もゆうくんの手を引いてケンちゃんを追いかけた。しかしケンちゃんは途中で見失ってしまった。きっと先に帰ってしまったのだろう。僕とゆうくんも木を伝って降りて、2人であの自転車に乗って家まで還った。心細かった僕はゆうくんを乗せたまま家まで帰った。
自転車を1漕ぎするたびギーギーギーと音が鳴り、冷たい風が頬をなでる。ゾクッと鳥肌が立ち、あの光景を思い出す。家に着いたというのに落ち着かない。僕はお父さんお母さんに何があったかを話し、ゆうくんを家まで送ってもらった。ケンちゃんは大丈夫だろうか、翌日ケンちゃんは来なかった。学校から帰る前、先生から報告があった。ケンちゃんはあの土砂崩れしていた道から落ちて亡くなっていた。僕が秘密基地なんかへ誘わなければ……。
後悔は僕を慰めなかった。ただ、楽しい時間過ごしたかっただけだった。僕はどうしてみんなを誘ってしまったのだろう。自転車の音はあの光景を呼び起こす。
ギーギーギーと音が鳴る。
僕を通り抜けて進んでいく。
ギーギーギーと音が鳴る。
僕の後悔を乗せて進んでいく。
ギーギーギーと音が鳴る。
追いつこうと手を伸ばす。
ギーギーギーと音が鳴る。
最後に感じた海風は顔色を変えた。
特にありません




